「徒然海月日記」から海の話が含まれている日記のみ抜粋したバックナンバーです

2010年 6月19日(土) 晴れ

夏至南風 けっこう波あり 水温25度

 ついに梅雨が明けた。
 容赦なく照りつける太陽は、ほんの少し前までの連日の雨模様を、遥か5万光年彼方の記憶であるかごとくにしてしまう。

 夏は来ぬ。

 ……これを「こぬ」と読んで、夏は来ない、という意味で理解してしまう人の割合ってどれくらいなんだろうか。そういう人たちにとってのビビアン・リーは、けっして風とともに去らないのだろう……。

 ちなみにこのぬは、「な、に、ぬ、ぬる、ぬれ、ね」の「ぬ」だそうです。

 子供の頃は、だったら「夏は来た」って書きゃあいいじゃん…って思ったものだったけど、夏は来たって言われたら、ああそうですか、としか思わない。
 ところがそれなりに大人になって「夏は来ぬ」という一文を目にすると、風鈴の音、セミの声、スイカの味、蚊取り線香、蚊帳、扇風機、団扇、浴衣、花火、海、そしてそよ吹く風………などなど、頭の中にイメージが一気に膨れ上がる。

 「ツァラトゥストラはかく語りき」って言われたら、え?なんて語ったの?って訊きたくもなるけど、ツァラトゥストラはこう語ったって言われたら、ああそうですか、って思うものねぇ。

 イメージを呼び起こす言葉というのは大事だ。
 今の政治家たちに決定的に欠けている素養のひとつだろう。

 といいつつ、皆さんの頭の中にイメージを喚起するような言葉など到底書けないので、この稿もやはり「ああそうですか」で終わっていただくしかないのだった。

 そんな夏が来た海は、海中もすっかり夏になっていた。
 暖かくなった水温が、魚たちを活発にさせる。

 幼魚もまた、元気に泳ぎまわっている。
 このところスズメダイの幼魚に注目しているので、今日もまた、この時期ならではの珍幼魚は居はしまいかと、キンギョハナダイのチビやキホシスズメダイのチビの群れと混じって泳ぐレアモノを探ってみた。

 するとコイツが。

 これ、スズメダイの幼魚のように見えるけど、実はバラフエダイのチビターレ。
 当然ながら肉食魚だ。
 成長すると1mほどになる大型魚ながら、子供の頃は、スズメダイの仲間のフリをして何食わぬ顔をしつつ、小魚の群れに混じり、隙あらばパクリと食べてしまうという世渡りをする。

 この時期のバラフエダイ・チビターレのモデルは、おそらくこのスズメダイの幼魚あたり。

 ササスズメダイのチビ。
 ともに2、3センチの小魚である。ホントに一緒に泳いでいるから、パッと見ただけでは区別がつかないかも。

 しかし、完璧に擬態しているバラフエダイ・チビターレも、その動きの中で、時おりプレデターの本性を表すときがある。

 見よ、この大口!!
 これじゃあ、小魚なんぞぺロリと一口で飲み込んでしまえるだろう。

 ちなみに、プランクトンをパクパク食べているスズメダイたちのお口は、アクビをしてもこんな感じ。


バラフエダイ・チビターレと同じところにいた、
モンスズメダイ幼魚ビューティフォーバージョン。

 流れ来るプランクトンをボイッと吸い込むために、彼らはおちょぼ口なのだ。

 バラフエダイの幼魚は、もう少し大きくなった頃の写真ならこれまでにも撮っていたけど、これくらいの小ささの幼魚を撮るのは初めて。
 なので、ちょっぴりうれしかったのだった。

 <ああそうですか。