ターミネーターでスターシップ・トゥルーパーズな、さらば宇宙戦艦ヤマトに完結編も盛り込んだ「宇宙戦艦ヤマト」

　キムタクというキャスティング自体は、以前にも書いたけど１０年くらい前に冗談で宇宙戦艦ヤマトの実写版のキャスティングをイメージしたときに、僕はこの人以外にはありえないだろうと思っていたくらいだからまったく異存はない。
　異存はないけど、古代進を演じられるのはキムタクしかいないと思っていたら、キムタクはやっぱりキムタクだった。
　キムタクが古代進を演じている「宇宙戦艦ヤマト」じゃなくて、キムタクが宇宙戦艦ヤマトに乗っている映画なのである。

　だんだんネタバレ話になるから、未見の方はもうここで終わったほうがいい。観てから読んでね。
　おまけに誰もついてこられなくなるだろうから、もともと興味のない方はこの辺でさようなら。

　以下、マニアックな話。
　そもそも。
　みなさんは宇宙戦艦ヤマトの１作目テレビシリーズと、１作目の映画版のキャストをご存知だろうか。
　これがテレビのエンディングで流れるキャスト。

　こちらは映画の最後に出てくるキャスト。

　もうお気づきですね。
　そう、物語上の「主役」はなるほど古代進＠富山敬かもしれないけれど、「ゴッドファーザー」でも主演はアル・パチーノじゃなくてあくまでもマーロン・ブランドであるように、この作品でもいわゆる「主演」は、沖田十三＠納谷悟朗＠銭形警部なのである。

　これをふまえなければ、「宇宙戦艦ヤマト」は語れない。
　宇宙戦艦ヤマトの根底には、深い「父と子」の物語があるのだ。そして、主人公古代進の心にも、それを観ている我々少年少女の心にも、沖田十三＝ヤマトといってもいいくらいの存在感が育まれていく。

　ところが、キムタク主演ということで主人公を実年齢に沿った設定にしつつも（アニメでは弟だった島次郎が、なんと島大介の子供になってた！）、アニメでもあった古代守戦死に関わる沖田艦長と古代進の確執というエピソードに、物語の中で大きなウェイトを占めさせたものだから、なんというか必要以上に重くなる。

　だって、１８歳の少年とヒゲオヤジということなら、ヒゲオヤジが少年に薫陶を与えつつ、確執から相互理解、そして尊敬へとつながる単純かつ明るい流れで話を進められるけれど、四十前のいい大人と頑固なシニアとなれば、宇宙戦艦内の話じゃなくとも、実際の職場でだって話はそう単純にはいかないっしょ、普通。

　１作目のテレビシリーズの中で僕が大好きなエピソードの一つに、太陽系を離れるに際し、乗組員全員に家族とのプライベートな交信を時間制限つきで沖田艦長が許可する話がある。
　で、乗組員が交代で嬉々として家族と交信するなか、時間を持て余しつつ居場所がないためそれぞれ艦内をうろつきまわる古代と沖田。
　そう、二人にはもはや、地球に残した「家族」がいないのだ。

　じゃあ、家族がいない者同士で酒でも飲むか！！

　そう沖田艦長が持ちかけ、遠ざかる太陽系に別れを告げながら、艦長室で酒を酌み交わす二人。
　……あのぉ、すみません、古代進はこのとき未成年なんですけど？？？

　ええいうるさい、西暦２１９９年には法律も変わっているのだ！！ｂｙ　沖田

　でまぁ、アニメではこのエピソードで、当初の確執からほぼ相互理解へと進んだわけである。

　実写版にもこのエピソードがあった。
　みんなが家族と交信する。
　島大介と斉藤始の、それぞれの家族との交信は、手法はお約束的ながら泣かせる。
　え？なんで空間騎兵隊の斉藤始が？？
　この「斉藤始」はオイシイ役だったよなぁ。

　で、このあとはやはり艦長と二人で酒を飲むのかぁ……と安心していたら、肝心のそのシーンはなし。
　やはり四十前の大人と老船長となれば、そう簡単には二人の確執は解けないのである。

　そのかわりに酒といえば！！
　ヤマトで酒といえば、ご存知、迷医・佐渡酒造。
　なんと佐渡先生のキャストは高島礼子！！
　えーっ、高島礼子がつるッパゲに…………なるはずはない。
　が、期待どおり、やっぱりお酒が大好きな設定で、しっかり一升瓶を小脇に抱えてくれていた。

　その佐渡先生と徳川機関長と古代進がお酒を飲むシーンがあった。個人的にはこの場面が好き。
　ちなみに、徳川機関長は西田敏行。
　僕はこの人がスキンヘッドになったら佐渡先生になれるかも……と思っていたのだけど、まさか徳川機関長だったとは……というか、出ていることすら知らなかったのでビックリした。

　ともかくそんなこんなで、物語の中で艦長と古代の確執という部分が大きなウェイトを締めてしまって、オリジナルのアニメが本来強く訴えていたテーマが、まったく影を潜めてしまっていた。
　というか、監督はそもそもそういうテーマは考えていなかったのだろうか。

　アニメーション「宇宙戦艦ヤマト」の主題とはなにか。
　それは、

　以外のナニモノでもない。自分で言ってて恥ずかしいけど。
　それがあったからこそ、紅顔の美少年だった僕をはじめとする日本全国の少年少女たちが、夢中になってテレビの前にかじりついたのである。

　ではこの実写版ヤマトはどうか。
　たしかに愛はあった（黒木メイサは、男勝りで勝気で憎まれ口をたたく演技はまだしも、ラブシーンはダメダメだった…）。
　が、ロマンに満ちた冒険はあったろうか。
　この映画で、１４万８千光年という絶望的に気の遠くなる道のりの果てしのなさを、ちょっとでも味わえたろうか。

　なかったよなぁ。
　そもそも、戻ってくるまでいったい何日だったのかもわからない（艦長室の観葉植物、全然育ってないし……）。

　それは制作者も実はわかっていることであろうと思われる。
　そもそもハナから少年少女をターゲットになんてしていない。せっかく宇宙に出ていながら、「無重力」の描写がいっさいないってのが確たる証拠といっていい。
　では興行的なターゲットはいったいどこにあったのか。

　もちろん我々世代である。
　基本テーマはずばり、

　おまけに主演がキムタクとなれば、オッサンだけではなくて同世代のオバハンも取り込めることは間違いない。

　劇伴で高らかに響き渡るお馴染みの宇宙戦艦ヤマトのテーマ曲。ナレーターはなんとささきいさお！！これまたビックリ、アナライザーまで本人の声で登場！！おおなんとデスラー総統もスターシアも、ご本人の声で登場！！（人類タイプの宇宙人を出さずに両者に語らせるアイデアはなかなか良かった）

　ちゃんと「原作　西崎義展」と記してあっただけあって、オリジナルへのオマージュが随所に見え隠れしていて、ノスタルジィという意味では「復活編」を凌駕するほど、サービス精神が旺盛だ。

　が。
　制作者側はあくまでも冷静だった。
　いかなかつての不朽の名作といえど、ノスタルジィでの興行成績には限界があると考えていたに違いない。
　つまり、この作品の興行成績をふまえた第２作は、絶対にありえないだろうと。
　（そのあたりのことが、「復活編・第１部完」なんて書いてしまっておきながら死んでしまった故・西崎義展にはついにわからずじまいだったのだろうなぁ………。）

　なので、客観的な冷静さは保ちつつも、熱烈なファンであることは間違いない監督は、おそらく唯一になるであろうこの１作に、宇宙戦艦ヤマトシリーズ全作品のあらゆる名シーンをすべて注ぎ込んでしまった。

　だからこその、
　あんなところで山本が？？
　斉藤始も出てるの？？
　まさかここで、「技師長、慌てず急いで正確にな！」の名ゼリフがあろうとは。
　そして真田さん。
　残念ながらこの映画では、何でも作って解決してしまう技師長ぶりは観られなかったものの、真田さんといえばこのセリフ。

　「俺はお前を…実の弟のように思っていたよ」

　……ってギバちゃん、この映画のどのシーンからそう思うようになったんすか？？
　って、この映画で初めてヤマトと出会った人は思わず突っ込みたくなるだろう。
　しかしなにしろノスタルジィである。観ている僕たちはアニメ作品で、何でも解決してくれる真田さんと熱い男古代進の深い付き合いを熟知しているのだ。

　そして徳川機関長も！！

　「エンジン出力低下。しかし航行に支障………なし」

　などなど、お馴染みの戦死シーンがてんこ盛り。
　だけど………この作品で初めてヤマトに接した人は、その人の死を哀しみをもって見届けるほどには感情移入できてないんじゃないの？？
　いいのだ、ノスタルジィなのだから。

　そしてそして、もちろんこの人も！！

　「地球か……何もかもみな懐かしい」

　赤い地球を眺めつつ、静かに息を引き取る沖田。
　その前の、「しばらくワシを一人にしてくれんか」と佐渡先生に頼み、すべてを察した佐渡先生が艦長室を去る際に呼び止め、一言

　「ありがとう」

　というシーンまであった。
　アニメ作品では、沖田艦長が「佐渡先生」と呼んでから「ありがとう」というまでの間、そしてこのときの佐渡先生の背中で見せる演技が（アニメーションなのに）実に素晴らしい。
　ところが実写版の同シーンでは、残念ながらそういう演出ではなかったのだった。
　なぜか。
　美人の女優を使っておきながら、背中で演技させていては意味がないからにほかならない。
　女優は顔で演技するという定めがあるのだ。
　高島礼子がキャスティングされた時点で、これはもうしょうがない話なのである。

　モンダイはここからだ。
　そうやって沖田艦長がついに息を引き取った。
　偉大な艦長を失いつつも、ついにヤマトは地球へ帰還…………

　……というその時に！！

　この最大級の大ピンチを前に死んでしまった沖田艦長って、結局単なる役立たずだったってことなのか？？

　やっぱりここらあたりの展開が、キムタク主演映画の限界なのだろうなぁ。
　だって、沖田艦長を主演と捉えて作っていたなら、あの大ピンチから話はいっきに「完結編」に突入するでしょう。

　退艦をしぶる若者たちにこれからの地球を託し、自らの作戦指揮で命を落としていった数多の戦士たちの魂とともに、命と引換えに地球を守る沖田艦長。ガミラス最後の巨大ミサイルにさらされた赤い地球を眺めながら、脳裏には青かったころの思い出がよぎる。そしてもちろん

　「地球か……なにもかもみな懐かしい」

　そして引き金。
　ヤマト自爆。
　地球助かる。
　その様子を地球から眺めていた司令長官たち。
　救命艇からその様子を眺める残存乗組員たち。
　当初は確執から始まったキムタク古代、頬を流れる涙も拭わず、ついにここで、偉大な艦長に心の底から敬礼をする。

　ぐわぁッ。＜僕の目から溢れる涙。

　僕が脚本家なら迷わずこうする。
　が。
　主演はあくまでもキムタクなのである。
　そんなオイシイ役を、ジャニーズが山崎努に譲るはずはない。

　そんなこんなで、沖田十三＝ヤマトという図式が成り立たないから、当然ながら「ヤマト」という船に一人格が宿るはずはなく、劇中ではあくまでも一隻の宇宙戦艦で終始する。だから、自爆させることになんの躊躇もない。
　単なる乗り物なのである。

　観るものすべての心に一人格として一隻の船が存在していたからこそ、２作目の映画のタイトルは「さらば古代進」ではなく「さらば宇宙戦艦ヤマト」だったのである。
　実際に旅立つのは乗組員なのに、あくまでも主題歌は、「さらば地球よ旅立つ船は　宇宙戦艦ヤマト」　と歌うわけである。

　大物俳優がキャスティングされた実写版の限界なのかもしれない。それにもともとそういうことは予想してもいた。
　が、唯一の心残りが。
　最初から３部作を約束されていた「ロード・オブ・ザ・リング」のように、次作が保証されていたとしたら。
　１作目で登場人物をキチンと描き、２作目で見せ場てんこ盛り……つまり「さらば…」を作ることができたろう。

　そうすれば、この映像で「アンドロメダ」をはじめとする地球防衛艦隊を観ることができたのに！！