このところずっと、左側の首筋から背中、そして肩、二の腕の裏側に至るスジが不調で、鈍い痛みが続いている。
　日中活動している間はそれほど苦にならないものの、寝ているときとか座っているときとか、あと潜っているときとか、とにかくずっと同じ姿勢でいると、「楽になる姿勢」というものがないだけにいささかつらい。

　特に朝目覚めた直後などは、もうこのまま腕を引きちぎってしまいたいってなくらいにどうしようもなかったりする。
　そんな状態でも毎日働いている俺って、なんて健気なんだろう……。

　健気かどうかはともかく、そんなわけでパソコンに向かってパコパコキーボードを操作するのがつらい。昨日の「あーこりゃこりゃ。」はそのせいである。

　で、痛い辛いと言っているだけじゃどうしようもないので、どうにかそれを緩和させるべく、サロンパスやアンメルツを買ったり、あちこち揉んだり押したり叩いたりしてごまかしている次第なんだけど、もうひとつ「これはいいかも！」という方法を思いついた

　棒を首の後ろに回し、棒の両端を両腕で抱え込む作戦。

　なんだか１人ＳＭプレイみたいだけど、そうすると首の骨が押されて心地良く、なおかつ腕が後ろに伸びるのでこれまた気持ちいいに違いない。

　ただ、肝心の棒がない。
　…と思っていたところ。この日到着されたＯ野さんをコーラルさんへ送った際のこと、その玄関先に見慣れたものが転がっていた。
　バットだ。
　旧母屋にて、ときおり僕が暇つぶしに自作バッティングマシーン（？）で遊んでいたときに使っていたものである。
　つい先日まで旧庭に転がっていたのは確認していたのだけど、いったいぜんたいなんでここに？？

　どうやらヤスシさんにも不明らしい。しかし今はそんなことよりも！！
　このバット、「棒を首の後ろに回し、両手で抱え込む作戦。」にピッタリじゃないか！！

　というわけで、ゴミ同然のソフトボール用金属バットを回収し、庭に転がしておいた。

　で、夜。
　ゲストがお越しになる時刻、寝ていてはいかんと思って椅子に座っていると、例によって首肩腕背中に鈍痛が。
　そうだ、こういう時こそあのバットで！！

　というわけで、日もとっぷり暮れたアネックスの庭先でバットを取り出し、作戦を実行。

　これがまた気分爽快！！

　……というほどの効果はなかったものの、やらないよりはいいか、という運動ではあるようだった。
　ついでにバットを片手で持って振り回したり素振りしたりして体を動かして、また明日も使うから目立つところに置いておこうと、ガメラ君の柵にバットを立てかけようとした………その時！！

　あれ？こんなところにロープかけてたっけ？？

　と、ボーッとしてバットをそこに近づけていった手の３０センチ前で、なんとなんと、ハブ君がとぐろを巻いていたのだった。

　なんでこんなとこに！？

　……いや、どこにいてもおかしくないのだ、この島は。
　しかし幸いなことに、こちらが完全無防備になっている風呂場ではない。しかも手には、おあつらえ向きに対ハブ最強兵器が。

　ここで会ったが１００年目とばかり、渾身の一撃を！！

　ソフトボール用の短いバットである。狙い過つはずもなく、一刀両断ならぬ一振粉砕のスルドイ一撃により、ハブ君は即座に還らぬヒトになった。
　まさか先ほどの素振りが、こんなことで活かされようとは………。

　およそ７０センチほどだからそれほど大きくはないとはいえ、咬まれればもちろんハンパな毒ではない。
　そんなクリーチャーが、こんなところにいたのである。

　まさに、バットを立てかけようとしたその場所に！！
　危なかったぁ……………。

　それにしても。
　そもそもスジの不調がなかったら、コーラルさんで見かけたこのゴミ同然のバットをいまさら持って帰ってくるはずはなく、スジの不調がなかったらわざわざ夜中に庭でバットを使おうとするはずもない。
　ゲストが使うトイレへの通り道のこと、ひょっとしたら何も知らずに通りかかったＯ野さんがやられていたかもしれなかったことを思うと、水際でハブ退治できたのは、これすべて僕の首肩腕背中不調のおかげってことじゃないか。

　いやあ、これぞまさしく人間万事塞翁が馬。

　そしてこの夜。
　その出現で我々の度肝を抜いたのは、ハブ君だけではなかった。
　それは……………

　ひでぶッ！！

　……じゃなかった、タラバッ！！

　エビ・カニといえば、観る撮るだけじゃなくて食べるのも大好きな「さすらいのエビラー」ことＯ野さんが、数々の銘酒とともにもたらしてくださった超巨大タラバガニ。
　いやほんと、でかいんすよ。

　ゲストはＯ野さんのほかに県民とーまさんがいらっしゃるのみなので、都合４名でこの超巨大タラバを賞味。
　オリーブオイルに粟国の塩をたらし、パキッと割った殻から取り出したプリプリの身をヒタと浸け、徐にパクッと…………

　ああ………………………シアワセ♪

　一年分のカニを食したような充実感に満ち溢れたのだった。
　これで首肩腕背中の不調も吹っ飛ぶか？？？