1・プロローグ

 ご存知のとおり昨夏の台風で、それまで17年住んでいた家が被災してしまった。

 多少の不便は甘受しつつ、おかげさまでそれなりに復興をはたした我々ではあるものの、オフになったからといってあちこちへ旅行に出かける余裕はなかった。

 そこへもってきて、元旦早々に祖母が亡くなったために急遽大阪へ帰省。
 ちょっと無理すれば行けるかなぁ…とオボロゲに目論んでいた石垣行も、完全にあきらめムードとなった。

 ここのところ、2年続けて石垣島に赴いている。
 いずれも石垣島マラソン大会参加が主目的だった。

 さすがに3年続けて参加するつもりはなかったものの、友人知人がたくさんいる石垣探訪は、オフのイベントとして恒例にしたかったのになぁ……。

 そんな次第で、本年の石垣島マラソン大会の日は沖縄本島で過ごし、今オフの石垣行をすっかりあきらめていた1月末のことだった。 

 過去2回の石垣滞在でもさんざんお世話になった、えび屋−Mさんからメールが届いた。

 「おはよう、フェルプス君」

 ……で始まりはしなかったけど、なんとなんと、えび屋−Mさんのお仕事上のウェブサイトを今春リニューアルすることになり、ついてはそれ用の写真を撮ってはくれまいか、というお話だったのだ。

 飛行機代、宿泊代、それプラス、天文学的数値のギャラも出るという。
 技術実績未知数の僕に対して、そんなに出していただいてよろしいのでしょうか……とは思いながらも、これを「降って湧いた」といわずになんと言おう。

 「やります!!是非やります!!」

 何も考えずに二つ返事をしたのは言うまでもない。

 だって、もちろん交通費は1人分という条件だったけれど、予定されているギャラがあれば、余裕でうちの奥さんもついてくることができるじゃないか。
 捨てる神あれば拾う神あり。
 これで今年も石垣へ!! 

 そしてそのメールは、読後5秒経って煙となった。

 ところで撮影って、いったいどんな写真を??

 えび屋−Mさんのウェブサイトとは、今さらいうまでもなく石垣島の車えび養殖場、()エポック石垣島のサイトである。
 そこで使用する写真。
 すなわち、

 養殖場での一連の作業の様子がわかる写真
 景観写真
 商品写真

 そして、養殖場の池の中の車えびの写真も、ということだった。

 さらにはなんとも驚いたことに、養殖場と直接取引きのある市内のいろいろな飲食店で、実際にメニューとして出されている様々な車えび料理の撮影も!!

 そううかがった時点で、意識は完全に車えび料理に飛んでしまった。
 が、ふと我に返ってからようやく気がついた。

 料理写真なんて………ちゃんと撮ったことない。

 一口に料理の写真といっても、普段当サイトなどでたまにコンデジで撮っているような、オチャラケ写真でいいはずはない。
 料理には料理の、それ用の「撮り方」というものがあるのだ。

 思い起こせばその昔、カメラケースを抱えていろんな熱帯魚屋さんを回って仕事をしていたころは、水槽内のお魚さんだけではなく、熱帯魚屋さんの店内風景や、実際にご家庭で飼っておられる方々の、実に立派な水槽があるお部屋の風景なども撮っていたものだった。

 そのためにレリーズボタンや三脚はもちろんのこと、カメラ本体から離れたところでストロボを光らせることができるシンクロコード、安価な小型ストロボをスレーブで発光させることができるアイテム、ディヒューザー、露出計などなど、いっぱしの機材を揃えて臨んでいたのである。

 当然ながら現在は、それら便利アイテムの類は………

 ………いっさい持っていない。
 現在身の回りにある装備と経験だけで撮れそうなものといえば、せいぜい池の中の車えびだけではないか。

 ああ、そんな状況を顧みることなく、二つ返事で引き受けてしまうなんて……

 例によってまた……

 取り返しのつかないことをしてしまった???