17・ミッション・インコンプリート

 水槽で撮影というこの日午後のメインイベントを終えた我々は、ついに………

 ついに、この養殖場でのミッションをすべて終了した。

 今宵の宿は再び市街地のヴェッセル石垣島なので、あらかた作業を終了していたスタッフのみなさんにご挨拶しつつ、崎枝の養殖場を後にした。

 しかし、養殖場でのミッションは終了したけれど、すべてのミッションが終わっていたわけではなかった。

 今宵も車えび料理♪

 ……だから、仕事なんですってば。

 えび屋−Mさんにホテルまで送っていただいた後、再びピックアップしてもらって目指したのはここ。

 

 といっても、やはり知らなければとうてい入店する機会はないであろう慎ましやかなお店(道々に小さな道案内の看板はある)。
 その名も
ITALICOさん。
 その名のとおり、イタリア料理の店だ。

 ここでの車えび料理は、エビちゃんが豪華に乗っかったパスタ。
 このエビちゃんがまた美味いッ!!

 ただ単に炒めたり焼いたりしたものではなくて、下拵えから手の込んだ逸品。
 ただし、どう手が込んでいるかという最も大事な部分が、いい感じで酔っ払っていたのですっかり忘れてしまいました。
 とにかく美味しい♪

 そして今宵は、料理の写真だけではなく、さらなるミッションが加わっていた。

 車えびを美味しく食べる子供たちを撮る!

 ということで、なんとこの日はえび屋−Mさんの奥様のほか、お子様たちも参加。

 なのでテーブルには、ピザやらリゾットやら、車えびとは関係がないお料理もてんこ盛りで、なおかつミッションあらかた終了ということもあって、パーティーの様相に。

 そんな楽しい席で、子供たちをノセて美味しい顔を撮るってのは、けっこう僕の得意分野ではある。
 ところがひとつ予定外だったのは、すでに子供たちには、あらかじめその旨強くお達しがなされていたのだった。

 そうなるとかえって、カメラを向けられたら身構えちゃうもんなぁ……。

 そこで一計を案じた。
 子供たちに自分でシャッターを押してもらうのだ。

 そういうときに便利なのが、今回ブツ撮り用に用意してあるレリーズボタン。
 それをゲーム感覚にして、車えびを食べながら、美味しいと思ったらポチって押して!!

 というわけ。
 もちろんキッズは、それを押したらシャッターが切れるということはわかっている。わかっているけど、そういうリモコン装置で撮影できるってことや、押せばストロボがピカッって光るってのが、すでにオモチャ状態。

 うまい具合いに、この日の学校給食では、えび屋−Mさんが学校に差し入れした車えびが出てきたそうな。

 給食に車えび!?

 なんとゼータクな学校だろう……。

 すでにお昼に海老を食べてきたというのは作戦上非常によろしくなかったものの、そこを逆手にとってみた。

 学校で食べたエビとどっちが美味しい??
 美味しかったらボタン押して♪

 海老を食べることからすでにネガティブだった子供たちも、ちょっとノリ気に。

 そして、一番下の娘さんアヤパンが興味を示してくれた!

 チャンス!!
 すかさずシャッターボタンを彼女に渡さなくては!!

 その時!!

 ガッシャンッ!!

 ア゛…………………

 最短距離でレリーズ装置を彼女に手渡そうとしたとき、あまりに最短すぎて、目の前にあるワイン入りのグラスを薙ぎ倒してしまったのだった。

 そして、僕の隣にいた宇宙少年ソラン君にワインが……。

 ワタクシ、ただの酔っ払いオッサンに。

 あと一歩……あと一歩で作戦成功のはずだったというのに、自ら水ならぬワインを差してしまった。
 それもこれも、純真無垢な子供たちを、狡猾な大人の悪知恵で操ろうとした報いということか。

 そのあとに再び同じ作戦をとるわけにもいかず。
 仕切り直した子供たちは、カメラを向ける者など誰もいない中、実に美味しそうに車えびを食べていたのだった。

 最後の最後で、ミッション・インコンプリート(涙)。

 その後も引き続きお言葉に甘えて飲み続けた我々。
 やや顔を引きつらせつつ、マスターが僕に改めて出してくださったワイングラスが、砕け散ったものよりもいささか品下がるタイプだったのはいうまでもない。

 お値の張るグラスだったんだろうなぁ………面目ない。