Iキノッピーよ、永遠に(3月10日)

 ……この人。

 今夜はスーツを着ているせいか、写真の様子でもわかるとおり、いつになくまっとうな社会人なのである。検閲されたあの画像とは大違いだ。<そっくりなんですけど??

 実はキノッピー氏は、かねてから僕たちを連れて行きたい店があるとおっしゃっていた。美味いラム酒を飲ませる素敵な店が、西麻布にあるという。
 我々は新橋に宿を取っているし、彼はこの日は川崎に宿を取ってあるというので(何で川崎??)、時間的には問題ない。それに、なによりもこの日は7日の無念のフォローの日なのである。
 ここは素直に連れて行ってもらおう!!キーノ小岩さんもまだそれほど酔ってないようだし……。

 というわけで、新橋汐留口でタクシーに乗り、一路西麻布を目指した。

 ……ら。
 終電が終わるタイミングと重なったからだろうか。六本木近辺は12時近いというのにやたらと混んでいる。
 すると、何を思ったのか、キノッピーは路上だというのに降りましょうという。

 「あれはねぇ、料金を重ねようとするタクシーの手なんです。その手に乗ってはいけません」

 なるほどなぁ……。
 生き馬の目を抜く大都会東京で生きて行くのは大変そうだ。

 そこまでは、よかったのだが…。
 タクシーを降り、そこからテクテク歩き始めたのはいいのだけれど、目指すお店はどこなのか。西麻布と言われたって、もちろんのこと我々にはわかろうはずもない。

 が。
 どうやらキノッピー氏もわかってないようなのである。
 結局再びタクシーを拾って店の名を告げるのだが、困ったことに店の名前だけでは運ちゃんはわからず、かといって要領を得ないキノッピーの説明はまったく道案内になっていないらしく、運ちゃんも途方に暮れていた。
 客観的に見れば、酔っ払いが乗ってきてわけのわからない道の説明をし、どこに行きたいのかさっぱりわからない、という状況である。バブルの頃なら余裕でスルーされる類の客だったのだ。

 ともかくタクシーが走り出したはいいものの、またわけのわからないところで降りるというキノッピー。

 「もう、ここまで来たら大丈夫です。もうバッチシです!!」

 ついていくしかない我々は、仕方なくついていく。

 「ここがベリーズの大使館があるところです!」

 ベリーズの大使館がどこにあろうとどうでもいい。とにかく店はどこなのだ?

 「もうすぐです!」

 力強く言うキノッピー。
 ……だが。
 やはり場所がわからないらしい。
 ケータイを見ればわかりますから!と言って彼は胸ポケットにある携帯電話を出そうとするのだが………

 「あれ?あれ??携帯電話が取れない!!」

 ポケットのボタンをはずさないと取れないようになっているのだ。そのボタンがはずせないらしい………
 この人……………

 ……ただの酔っ払い??

 ああ、気づくのが遅すぎた!!
 もう大丈夫です、完璧です!というのでまた乗ったタクシーを降りたところ、なんと最初にタクシーを降りたあたりなのである!!

 けっこう酔っ払っている僕ですらすぐさまわかったというのに、彼はさも初めて来たかのように言うのだった。

 「ここがベリーズの大使館があるところです!!」

 …さっき同じセリフを聞いたっちゅうのッ!!

 さすがにうちの奥さんもあきれ果て、酔っ払いは放っておいて帰ろうかというとこまで来たのだが、

 「もう完璧です!わかりましたから!!」

 という言葉に乗せられ、またまたタクシーに乗る。
 すると、どうしたわけか、今度は運ちゃんとキノッピーの話が噛みあっている!?

 どうやら運ちゃんは、だいたいの場所の見当がついたらしい。
 だったら!!
 最後まで、店の前までタクシーで行けばいいじゃないか!!

 なのに、また途中で降りるというキーノ小岩。
 たしかに、運ちゃんと話が通じ合っていた青山墓地が目の前にある。
 その脇の道を歩けば店はもうすぐそこだという話だったはずだ。

 ふぅ…やっとたどり着いたのか……。

 安心して歩き始めると、やがてあたりから街の灯は消え失せ、普通の住宅街っぽい雰囲気に。
 ふと住居表示を見ると、

 南青山

 おい…………………

 どうやら完全にドツボにはまっているらしい。
 ふと振り返ると、またしてもキノコはタクシーを拾っている。

 もうダメだ!!完全アウト!!

 じゃあね、キノッピー!!

 運ちゃんとなにやら話している彼に一方的に別れを告げ、通りかかったタクシーに乗り込んだ我々は、青山墓地を後にした。
 1時間30分に渡る、彷徨える麻布近辺物語なのだった……。

 ところで。
 この日得体の知れない墓地の近くに置いてきたきのこ岩氏は、その後無事に帰れたのだろうか?
 ひょっとして、まだこの界隈をタクシーで彷徨っていたりして………??

 というわけで、彼へのフォローになるはずだったこの日の宴は、結局最後の最後に単なるダメ押しとなってしまったのである。

 うーむ…。ウロコムシ氏の喜ぶ顔が目に浮かぶ……。
 おかげで、旅の最後の最後の締めくくりが、いかにも締りの悪い終わり方になってしまった。というか、この日会津を去った際に抱いた深い深い感慨は、すでに5万光年彼方に消え去っていた……。
 心地よい旅の思い出をどうしてくれるのだ。

 それはともかく………
 きのこ岩さんはご健在であろうか?
 そして、このリベンジはあるのか??

 今後の彼に乞うご期待!

 今はただ、彼がBOXで手渡してくれたカルタゴ土産の小瓶を眺めておくとしよう。
 この小瓶の中に、あのハンニバルを生んだカルタゴの砂が入っているのである………。

 

 ……って、なんで会津旅行を終えてカルタゴの砂の写真で終わるのだ??

 最後になりましたが、今回の上京物語に登場してくださいました多数の皆さん、まことにありがとうございました!!文中における数々のご無礼、平にご容赦くださいませ!!

 これにて、一件落着!!