後日談・1

その後のベテルス

 我々が後ろ髪をひかれつつもベテルスを去ったその日の夜のこと……。
 あと1泊この地で過ごすコービィさんが、翌日の出立に備えてその日のオーロラ観測を早めに切り上げ、部屋のあるロッジに向かって歩いていた午前3時すぎ。
 なんだかオーロラロッジ方面の空が赤く輝いていたという。
 そして人の声も……。
 誰かが焚き火でもしているのかと思ったら…………

 火事!!

 オーロラロッジが!?
 慌てて走った彼が見たのものは………。
 紅蓮の炎に包まれているパークレンジャーのステーションだった。そう、最後の日に撮った干し芋の写真のバックに写っている建物である。
 おりからの強風で火達磨に……。

 今こそ消防車、名誉挽回の出動だ!!
 かなり遅れてやってきた消防車、今回はエンジンが動いたのだ!
 ああしかし……。
 消防車のホースから、水は一滴も出ないのだった……。
 まさか、冗談で言っていたことが本当になるとは………!

 消す手段は雪をかけるしかないので、コービィさんをはじめ集った人々は、延焼を防ぐために周りの建物との間にある木々をなぎ倒し始めた。やってきた重機が大量の雪をぶっかけ始めはしたものの、火の粉は道路を挟んで対面にあるオーロラロッジにも飛んで行く。そして、その木々の枝にときおり火がついている…。
 コービィさんは気が気ではなかったことだろう。

 極寒の中、汗いっぱいになりながらの人々の懸命の作業により延焼は食い止められたが、パークステーションは完全に燃えきったという。中に人はいなかったので人的被害がなかったのは不幸中の幸い。

 おそらくこれは、今後10年以上は村で語り継がれる大事件だろう。
 事の重大さは重々承知してはいるものの……
 
その場に居合わせたかったぁ!!
 旅行者としては……。

 かくして、あの日僕が撮ったこの写真が、あの建物のこの世で最後の写真になったのだった。