14・福江をさるく・8〜福江魚市場編〜

 明けて2月22日。

 この日はいよいよ福江島の深奥を探るべく、朝8時からレンタカーを借りる予定なのだけど、まだ夜が明けきらぬ前に訪れてみたい場所があった。

 こちら。

 五島市福江魚市。

 ここは新しい埋立地の最も海側、すなわち常灯鼻の付け根からさらに先へと歩いたところにある。

 テケテケ歩いて市場にたどり着いてみると、↓このような標識が。

 しかし先にも触れたとおり、「漁業関係者以外」とは書かれていないので、市場見学者も「関係者」であると拡大解釈して潜入してみた(いろんな案内では「見学可能」と紹介されている)。

 かつて伊根の漁港で観たように、すぐそばに接岸した船からドドドドドと直接魚が揚げられるわけではないようで、港の各地で水揚げされ、セリ用ケースに収納されたものが運び込まれて一堂に会するシステムになっている模様。

 そうやって運び込まれた収納ケースがズラリと並ぶ市場内では、すでにセリは半ばにさしかかっていて、7時前だというのにすっかりホットな雰囲気になっていた。

 後刻伺ったところによると、時化のためにいつもに比べると水揚げ量は僅少だったそうなのだけど、我々にとっては物珍しい魚たちがわんさかいるから、セリの邪魔にならないよう気をつけつつ見回ってみた。

 すると、すでにセリが済んだゾーンに、寂しげにひとつだけポツンと残っている魚が。

 おお、ハンマーヘッド・シャークことシュモクザメ!!

 ハンマーヘッドといえば、冬の与那国島の定番魚で、多くのダイバーがこのサメの群れを観に訪れている。

 でもところ変わって伊豆の海水浴場に出現すると、マスコミが「サメだサメだサメだ、危険だ危険だ危険だ!!」と騒ぎ、海水浴場が閉鎖されることもある。

 たしかに獰猛なサメではあるけれど、これまで海中でこのサメに襲われたという被害はおそらく無いはず。

 でも傍に居ていろいろ教えてくれた漁師さんによると、このサメは船の上で最もヒトを噛むヤツだそうで、大きいものはけっこうたちが悪いらしい。

 大きくなれば3メートルくらいはフツーサイズのこのサメ、そんなものが漁船の上で暴れたらかなりやっかいそうだ。

 でも今目の前にいるハンマーちゃんは……

 

 ベビーサイズなのだった。

 それにしても、こんなサメ、食べられるんですか?

 先の漁師さんに訊ねてみると、れっきとした水産資源である旨教えてくれた。
 ポツンとこの場に残ってはいるけれど……。

 後日調べてみると、から揚げやフライなど火を通した料理にするとけっこうイケる肉をしているらしく、食肉としては上質の部類に入るという。

 意外に美味しいらしい。

 昨日のカスザメも、きっと出るところに出れば相当もてはやされる存在なのかもしれない。

 その他、沖縄で暮らす我々にとって珍しい魚をピックアップ。

 ご存知マトウダイ。
 このひと月前に、丹後の仇を鳥羽で討ったお魚だ。

 

 こちらはレンコダイ。
 伊根の舟屋の宿でいただいた塩焼きは美味しかったなぁ!

 さすがすり身天国、エソらしき顔をした魚もたくさん。
 きっと練り製品となるのだろう。

 珍しいということでは、こちらの関係者にとっても一風変わっていたらしいものがこちら。

 ところどころヒザラガイも混じっている、カサガイたち。

 水納島でも桟橋の岸壁などにへばりついているこの貝、たしかに食べれば美味しいけれど、これ専門に漁獲しているプロのウミンチュはいない。

 でもこうしてセリに出ているところをみると、こちらではフツーに獲られているのか……

 …と思っていたら、なにやら漁師さんらしき方々が3人ほどこの貝の周りに集まり、この貝についてあれやこれやと話が弾んでいる。

 ひょっとして、あまりの時化で漁に出られず、かといって坊主じゃ寂しいからということで、港内随所でこの貝採りをしてみましたってことなんだろうか。

 五島を含む西九州一帯で「あらかぶ」とか「がらかぶ」などと呼ばれるカサゴ。
 初日に五松屋さんでから揚げをいただいたけど、その他味噌汁なども定番料理のようで、鮮度によっては刺身や肝もいただけるらしい。
 いずれにしても高級魚である。

 その他、アイゴやメジナ、ブリ(ヒラマサもいたかも)、イシダイ、スズキといった魚たちも魅力的ながら、今回の五島旅行に際して我々が注目していたのがこちら。

 アカハタ。

 伊豆で潜ってもフツーに観られるこのハタは、生息環境の違いで多少色味は異なるものの、水納島でもフツーに観られる魚だ。

 ただ、水納島ならずとも沖縄では水産資源としての活躍の場はあまりなく、こうしてまとめて水揚げされている様子はもちろん、スーパーや市場で陳列されているのを目にしたことはない。

 ところがここ五島をはじめとする地域では、「赤女」というたおやかな(?)名前が付けられており、高級魚として押しも押されもしないポジションを確立しているというではないか。

 ちなみに、水納島で観られるアカハタはこんな感じです。

 たいてい単独で、泳ぐよりもこうして着底してあたりをうかがっている時間のほうが長い。

 ハタの仲間だろうからそりゃあ美味しいことは容易に想像できるけれど、アカハタを狙うくらいならすべてにおいて上回るアカジンを求めるだろうから、沖縄ではおそらくこのアカハタをわざわざターゲットにする釣り人はいらっしゃらないのではなかろうか。

 それがこちらでは、このようにギッシリ箱詰めに。

 調べてみると、この流通の世の中では東京あたりにまで出回っているらしく、それなりの店に行くと出会えるようだ。

 せっかく五島にいるのだから、滞在中に一度は食べてみたいなぁ…

 あ、そういえば初日の晩に訪れた五松屋さんでは、メニューに赤女があったから、今晩あたりさっそく……。

 と、赤女アカハタに心を奪われつつも、我々がこの日この時この魚市場で、最も観てみたかったのはこちら。

 キビナゴちゃ〜ん。

 堆く積み上げられたこの箱、すべてキビナゴ。

 場内の蛍光灯に照らされて、ここでもキラキラ光っております。

 それにしても、時化で不漁だというのにこのハンパない量、いったいぜんたいどこでどうやって獲ってるんだろう?

 その疑問は、後日ひょんなことから明快な答えを得て解決することになる。

 こうしてなんだかんだと20分ほど見学させてもらったあと、アンコウに別れを告げて市場をあとにした。

 伊根漁港と違って、一般人がここで直接購入することはできないものの、五島の海が育む自然の恵みが一堂に会している様子は、早起きした甲斐があったというもの。

 帰りしな、福江川河口域の岸壁で、漁師さんたちが水揚げ後の船の掃除をしているところに通りかかった。

 デッキに散らばった漁獲物のカスを海に放っているから、ウミネコやトンビが狂乱状態になって舞い踊っている。

 漁師さんたちが放り込んでいる小魚は、ひょっとしてキビナゴ??

 しまった、この船は行きがけにちょうど水揚げ作業をしていた船ではないか。
 寄り道してしていたらセリが終わってしまうかも…と思い、ひとまず魚市場を目指してしまったから、間近で観られたはずのキビナゴ水揚げ作業を見逃してしまった……。

 さてさて、朝からけっこう歩いたし、レンタカー屋さんが開く8時にはまだ間があったので、福江港ターミナルに寄った。
 一度も船を利用していないのに、滞在中我々はいったい何度このターミナルに寄ったことだろう……。

 今朝も浜口水産で、いかボールと海ぼうずを朝飯代わりにいただく(浜口水産は朝7時から開いている)。

 ただし今朝は、これらをアテにビールを飲むことができない。
 レンタカーを借りる=日中禁酒という、キビシイ時代に突入するのだ。