20・Ultima Cena

 ふくみみ邸に戻ると、日中は小学校、保育園それぞれの子供の務めにを果たしていた長男ユイマルと次男ツムグが帰ってきていた。

 ユイマルとは約束があった。
 昨年のガンタンクに続く第2弾だ。

 サザビーを…と当初は考えていたものの、今最も旬なガンダムといえばユニコーン。
 それに出てくる赤い彗星フル・フロンタル搭乗機といえば、

 シナンジュ。
 「ポケットの中の戦争」を観て「ケンプファーが好き」という彼のセンスなら、ガンダム・ユニコーンそのものよりは敵方のモビルスーツでしょう。

 このシナンジュを手に入れるためには、いささか紆余曲折があったのだが、その話は別の機会に譲ることにしよう。
 ひとつここで言っておくべきことは…

 Yさんご夫妻、ご面倒をおかけしてすみませんでした!!

 ともかくシナンジュ、はたして完成まで何日かかる??
 完成したら写真送ってくれよ!と言うと、力強く頷くユイマル。

 そして9日後……


撮影:ふくみみ

 Oh,complimenti!!

 見事に完成!!(ツムグ、なぜスペシウム光線?)

 ちなみにその夜僕は、この少年の優しい心を垣間見てしまった。
 実は昨年おーほり家に来たサンタさんは、小学校高学年になった彼にはそろそろワンランク上の技術を要するプラモデルを、ということで、あるプラモデルをクリスマスにプレゼントしたらしい。

 ドイツ軍6号戦車初期型、すなわちティーガーT型35分の1byタミヤ。

 ミリタリー系プラモデルからガンダムに入ったヒトなら間違いなくジオン軍支持になるのは、ひとえにドイツ軍の度重なる新型戦車シリーズのかっこよさによる。
 だから僕などはタイガーと聞けば「おお…ドイツ軍のゲルググ!」なんだけど、最初からガンダムのユイマルに、すでに歴史物語の中の大型戦車。はたして彼の反応は…

 「微妙な顔をしてました…」

 サンタさんは呟いた。
 実際、プレゼントをもらったはいいけれどいまいちモチベーションが上がらないのか、タイガー戦車の製作は遅々として進まず、我々がお邪魔したときもなお、未完成のままだった。

 そこへ!
 シナンジュが手元に。
 すると彼は、その夜のうちにパパパパパパッとタイガー戦車を完成させたのである。
 これ、僕だったら間違いなく最初からシナンジュ。
 でも彼は、サンタさんの気持ちを慮るだけの優しい優しい心を持ち合わせているのだ。

 おっちゃんは密かにその姿に感動していた。

 ユイマルがそういう心根の少年だということは、薄々わかってはいた。だから何をプレゼントしても、大きくはずすということはないだろう。
 モンダイは、ツムグのほうだ。

 昨年のユイマル用ガンタンクは我々が水納島に戻ってから贈ったのだけど、その荷物には、無神経にもツムグ用のアイテムはまったく入れていなかった。
 自分用のものが無いと知った彼は、石垣島で震度3の地震が発生するくらいに地団太を踏んで悔しがったという……。

 そりゃ子供心にもそうだよなぁ…。
 今回それを目の当たりにしては大変だし、物心がついている彼に何もなしというのも申し訳ない。
 とはいえガンプラは早すぎる。じゃあ何にするか。

 ということで、トイザラスで一人、ずらりと並ぶオモチャを前に頭をひねりまくるアヤシイおっさんと化しつつ選んだのが、

 タカカンドロイド!!

 ご存知ですか?
 最近の仮面ライダーシリーズなんてまったく観たことはないけど、トイザラスで放送されていたオーズの商品宣伝ムービーが面白く、思わずそれを買ってしまった。

 が、はたして、マブヤー人形のように彼のハートをゲットすることができるか??

 できた!!
 とりあえず、それまで彼がテレビに釘付けになっていた「忍たま乱太郎」には勝った!!

 タコ・カンドロイドにしようか迷ったんだけど……

 というと、すかさずツムグは

 「タコのほうがよかった」

 …以後、気をつけます!!
 でもタカよりタコを好むあたり、さすがノリダーの血……。

 そんなわけで、夜の宴席でも仮面ライダーシリーズの話になった。
 昔のヒーローモノといえば、オネーチャンが短いスカートからチラチラッとパンツなどを見せつつ、お父ちゃん世代を取り込む作戦が展開されていたものだったのに、今やヒーローモノといえばイケメン。お母ちゃんのハートをつかめるかどうかに、番組の成否がかかっている……と僕は思っていた。

 ところが、ふくみみ・おーほりが言うのである。

 「仮面ライダー・ダブルは面白かったですよ!」

 ……って、マジメに言われても。
 でも、ふくみみ・ノリダーもはまって観ていたという。
 二人がその面白さを力説する。キッズたちも面白いという。

 で、ふくみみ・おーほりの説明を聞いていると、なんとなく故・松田優作の名作ドラマ「探偵物語」が頭の中でイメージできてきて、なるほど、あのノリでしかも解決が仮面ライダーとなれば、そりゃ面白いかもしれない………と思えるようになってきた。
 さすがエコツアーのプロ、仮面ライダーの説明にもエデュケーション能力の高さがうかがえる。

 一方、ノリダーも一所懸命説明してくれるんだけど、これがまた、同じ作品を解説しているとはとても思えない描写。
 すみません、それだと僕、DVD借りて観てみようって気にならないんですけど………?
 おそらく、はまっているポイントが違うに違いない。
 彼女のエコツアーというのも是非一度体験してみたい……。

 そんなこんなでキッズたちとも再会をしつつ、ひとっ風呂浴びさせてもらったあとは、いよいよ石垣島最後の晩餐!!

 いやあ、ノリダー、知らぬこととはいえ、夕刻の海辺での我々の会話はひらにご容赦のホドを!!

 かつての姿は知らないけれど、クックドゥが頼りだったという頃からすれば、ワオキツネザルからヒトへ進化なみの大進歩!!

 Buono!!

 さすが奥さま、さすが3児の母!!
 角煮といい海老チリといい、それだけで美味しいのに、それを写真左にある肉まんの生地のようなもの(なんていうんでしたっけ?)で野菜ともども包んで食べると……

 Ottimo!!

 この肉まんの生地のようなもの(なんていうんでしたっけ?)の食感も味もツボ中のツボ♪Mi piace molto!
 その他、写真には写ってないけど、レンコン入りの肉団子がこれまた美味しくて、ほんのり紫蘇風味がして爽やか。
 なので、いくらでも食べられる。
 これ、紫蘇入れてるんでしょ?

 「梅ですよ」

 へ?梅?
 へぇ〜〜〜梅かぁ……

 …と感心していたら、それから5分ほどして

 「あ………紫蘇だ!」

 変わってねぇ………。

 でも料理は大進化しているのだ(あくまでも過去の話は旦那談)。
 翌朝いただいた、中華風お粥がまた、連日の酒にただれた胃に優しくて美味しくて、思わず「おかわりッ!」って叫びたくなった。
 こういう時ってホント、「理性」が邪魔だと思う。<あるの?

 ともかくこうして、途中ユイマルと宇宙世紀0080年を舞台にした戦いをプレステ2で繰り広げながら(生まれて初めてプレステ2なるものを目にした私、実に21年ぶりに本気でテレビゲームをしました)、楽しく飲みつつ食べつつ(お土産と言いながら持ってきた酒をほとんど飲んでしまいました)、石垣島最後の夜は、我々が学生だった頃から数えると20年という時を行きつ戻りつ、そして先を見つめつつ、楽しくにぎやかに更けていく。

 カエルたちの大合唱に包まれた、心落ち着く夜だった。