14・ロッキーの気持ち

 タイトルは炎のランナーで、ロッキーのテーマを聴きながらナレーションは宇宙戦艦ヤマト……。
 我ながらメチャクチャだけど、5時間も走っていたら誰だってそうなる。

 そして今、1時間ほど前まではほぼ絶望的に感じられたゴールが、ついに手に届く範囲に。

 これで力が出ないヤツはいない。

 すでにゴールしているのであろううちの奥さんに、ちょっとばかしかっこをつけるためにも、最後は走ってゴールしようと、ロッキーを聴きながら一人自分の世界に入りながら走っていた。

 すると!!
 直線道路の先に、見覚えのあるマラソンウェアが。

 ひょっとして………??

 あ、うちの奥さんだ!!
 どうやら歩いているようだ。さすがの彼女も、ここにきて僕と同じ目に遭っていたのだ。
 よ〜し、追いつこう!!

 こういうときにもやはり予備タンクは始動し、トボトボと歩いていたうちの奥さんについに追いついた!!

 ビックリするうちの奥さん。

 これが海洋博のトリムマラソン程度だったら、お先に失礼!!とばかりに追い越していったことだろう。実際、うちの奥さんはもはやエネルギー切れで、抜かれたと同時に走り始めるパワーは残ってはいなかった。

 が。

 この5時間と30分あまりの苦楽を共にしてきたのである。
 なにしろ
42.195キロなのである。
 ここまできて、そんな勝ち負けにこだわってどうするのだ。死なばもろとも、ゴールするにももろとも。

 というわけで、追いついたあとは一緒に歩くことにした。

 ………なぁ〜んていうとなんだかとっても美談なのだが、実はただ単に、ちょっと走り続けてしんどくなっていたので、再び歩き始めるきっかけが欲しかっただけだったりする。

 でもまぁ、残すところ1キロを切っており、時間はまだあと20分もある。
 このまま歩いていたって間に合う!!

 そして!!
 ついに……ついに……中央運動公園が見えてきた!!
 もうゴールはすぐそこだ!!
 ……って、このあと競技場のトラックを一周するんだったっけ??
 そんな話をしていると、沿道のご婦人が、

 「一周しなくていいのよぉ!!」

 あ、ありがとうございます!!
 やがて運動公園に!!

 するとそこで、島P夫人カナエ嬢が手を振って迎えてくれていた。
 歩いてここに達したのはいささか格好が悪いものの、そんな見栄を張っている場合ではなかった。
 でも!
 やはり最後の最後は、走ってゴールしよう!!

 陸上競技場に入るのを合図にして、最後の走りを。


撮影:島P夫人カナエ嬢

 今目の前に「FINISH」の横断幕が見える。
 思えば、長い長い道のりだった。
 長いシーズンを終え、せっかくのオフだというのに突如走り始め、走らなければ、痩せなければ…と何かに突き動かされるように過ごしてきた日々。
 そしてこの日迎えた、人生初のフルマラソンコース。
 やめたいと思うときもあった。
 投げ出したくなったときもあった。

 それらが今、ついに……ついに終わろうとしている。
 さらば苦悩の日々よ。
 さらば苦難の道のりよ。

 万感の思いを胸に、今、二人でゴールイン!!


撮影:島P夫人カナエ嬢

 ……のはずだったのに!!
 手を取り合いこそしなかったけど、二人仲良くゴールイン、のはずだったのに!!

 なんでこーなるの!?


翌日の八重山毎日新聞より

 いったい何だ、この1秒差は!?
 ものすごく気持ちいいゴールをしたはずなのに、なんとなく納得できないものがあるのはなぜ??

 でもまぁ、これも一つのレディファーストってことで…………。

 それはともかく!!
 我々は……我々は………

 完走しました!!

 この達成感といったらもう………。
 我々のように、この齢になるまで日々チンタラボヨヨ〜ンと生きていると、日々の生活の中ではなかなかこういった感覚を見出せない。
 それも、自らの肉体を追い込みつつ、具体的な数値目標を持つなどということは。

 それが今。
 フルマラソンを完走するという目標を達成した今。
 この体中に漲る達成感!!

 これはたしかに………………………………気持ちいい!!


完走証を手に。撮影:島P夫人カナエ嬢

 ロッキーが試合後、勝敗の結果にかまうことなく

 「エイドリア〜ン!!」

 と叫んだ気持ちが、僕はこのとき初めてわかったのだった……。

 西暦2010年1月。
 ヤマト地球へ帰還。

 そして地球は、元の青さを取り戻した………。