17・雨の石垣島

 さすがに高揚感から解き放たれると、まるでニッカド電池のように急激にエネルギー切れとなった。
 ホテルに帰るや、バタンキュー。<バタンキューって、もう死語??

 そりゃそうだ、朝6時に起きて、夜2時までの20時間。
 前夜眠れぬ夜を過ごしたうちの奥さんなんて、3時から起きているから23時間。

 ただでさえほぼ丸一日起きてりゃ眠くもなるというのに、我々はフルマラソンを走って、おまけに飲んで騒いで……。

 この日は、朝から島P夫妻が迎えに来てくれることになっていた。
 島Pもカナエ嬢もこの日はお休みだったので、我々を連れて島内観光してくれるのである。

 が。
 前夜消火栓の標識とお友達になっていた島Pが、この日快適な朝を迎えられるはずはない。
 結局、チェックアウト時間の11時にホテルで待ち合わせることにした。

 我々も、いったん目覚めてもまだこのままずっと寝ていたいくらいの朝ではあったものの、9時までという朝食をキッチリとった。もったいないし。

 そうこうするうちに時間となったので、思うように動いてくれない体を引きずりつつヨレヨレとロビーへ。
 ヨタヨタとチェックアウトを済ませて待っていると、そこに島P夫妻登場。

 元気一杯のカナエ嬢と、まだ二日酔いにもなっていない酔っ払い状態の島Pがいた。

 今はこうしてヨレヨレのおとっつぁんになっている島Pも、昔はちゃんと若々しかったのだ。
 ほら。

 
21年前の渡久地港にて。

 娘たちよ、父ちゃんも母ちゃんも昔は若かったのだ!<カナエ嬢は変わってない<一応、おべんちゃら♪
 ……てゆーか、今見ても、おいおいそんないちゃつくかぁ?とビックリした。
 渡久地港の水がきれいなのにも驚いた。
 けど、何に一番驚くって…………

 ……タコ主任(左)の頭@別人28号。

 石垣観光といっても、特にどこに行くアテもない我々なので、そのあたりは全面的に島P夫妻におまかせ。
 じゃあ、手始めにバンナ公園にでも行きますか!

 ってことでやってきましたバンナ公園。
 我々が前回石垣に来た
12年前には無かった公園だ。
「公園」というにはあまりにも広いその規模。バンナ岳というけっして小さくはない山が、全山「公園」として整備されている。

 猛々しいまでのその土木事業の勇壮さは、さすが公共工事の沖縄!!とまったく舌を巻いてしまう。
 でも日本最南端の森林公園と謳うだけあって、丁寧に整備・維持されている公園は家族連れの行楽には最適で、アスレチックあり、バードウォッチングコーナーあり、スケート練習場あり、植物園あり、ピクニック園あり、広々とした野原あり……
 しかもそれらを無料で利用できるのだから、地元の住民としては文句のつけようがないだろう。

 そのバンナ公園には当然のように石垣市街を見晴るかす立派な展望台があって、無料で使える望遠鏡まで設置されている。
 車を降りて、その展望台からの眺めを楽しもうと、さっそく望遠鏡をば覗き込むと……

 真っ白で見えな〜い………。

 そうなのだ。
 予報に反して朝は青空が広がっていた石垣の空は、昼前になるとにわかにかきくもり、まるでピンポイント爆撃のように、我々がバンナ公園に達したその瞬間から、バケツどころか50mプールをひっくり返したようなものすごい雨に。

 雨に煙る石垣市街を、展望台からボーゼンと眺める我々。こんな天気の日にこの公園にいるのは我々くらいだったことだろう…。

 展望台からは遠く水田も見えた。
 その昔小学生の頃、社会か何かで「二期作」というものを習ったとき、その舞台はたしか石垣島だったような気がする。
 今では三期作も普通だそうで、さすが暖かな八重山地方、植物の育ちは圧倒的に早い。

 植物といえば、石垣島の山々の緑の見事さよ。
 同じ亜熱帯ながら、本部半島でしょっちゅう見ている山々に比べると、なんだか随分緑に勢いがある。

 育ってます!!

 という植物の勢い。
 本部半島の山々だって冬枯れなどなく年中緑が溢れているけれど、普段これほどの山の「勢い」は感じられない。
 やはり冬場の平均気温の差や湿度が山々の姿に反映されるのだろうか。
 たしかに、雨がちな天気をさしひいても、ひとつの山が抱く「水」の量は本島の山に比べて豊富に見える。

 その後再び車に乗り込み、広大な園内を巡ってみると、巨大なダム湖があった。そこに鴨がたくさん浮かんでいる。
 でも外は…。
 水鳥がいたらいてもたってもいられなくなるうちの奥さんですら、車から出ようという気になれないほどの雨、雨、雨。

 いやあ……。
 昨日こんな天気だったら、ワタシャ間違いなく
10キロくらいでリタイアしてた………。
 今の雨だけ見ればなんともアンラッキーかもしれないけど、雨天決行のマラソン大会当日にこんな天気にならなかったってことは、かなりラッキーだったんじゃないの?

 そう思えば、フロントガラスを滝のように流れる雨も愛おしい。
 もうマラソンは終わったから、雨ちゃん、もうどんどん降って降って降りまくって♪

 この公園ひとつですら水納島よりも圧倒的に大きいくらいだから、地元民といえどこの公園を制覇するには相当時間がかかるだろう。

 とはいえまさか雨の中でこの公園を制覇しようとするはずはなく、お昼時になったので、このあと我々は島P家御用達のイタリアンのお店に。
 市街地でもなんでもなく、ちょっとした集落って感じの場所に、なぜだかイタリアンの店が2軒もある。
 この新しい集落は、家を建てるなら赤瓦に、というのが条件付けられるそうだ。建物自体はモダンな造りのものが多いものの、たしかに全体に統一感があって、風景的にはとても落ち着いている。

 そういうところでイタリア〜ン♪<もちろん、with ビール。<我々だけ。<すまんね♪

 窓から見えないにしてもちょっと行けば海が近くにあって、建物はオシャレで、鴨肉の前菜から始まる美味しいパスタランチをいただいている今。
 それがもし3日間ほど気絶していたあとのことだったら、ここは地中海ですと言われればそのまま信じてしまいそうだ。

 このほかにも島内各地に、こういったオシャレな店が増えている石垣島。
 人口6万人の名護市なんて、カプリチョーザですら2年ともたずに閉店に追いやられてしまったくらいなのに、5万人に満たない石垣島で、それぞれの店がやっていけるのだろうか……と余計な心配をしてしまう。

 それらの店が成り立つほどに、ナイチャーの数が多いってこともあるのだろう。

 そういえば前夜の宴席には石垣市民がけっこういたのだけれど、誰一人として地元で生まれ育った人はいなかった……あ、違うや、島Pの娘一人だけだった。

 不況のせいかようやく沈静化してきたらしいとはいえ、ひところは空前の移住バブルがあった石垣島だから、市内の経済基盤は、すでにナイチャーたちの存在がかなりのウェートをしめているに違いない。

 オシャレなランチをいただいたあと、さらに島P夫妻に島内観光をしてもらった。
 そして、まさか、まさかこんなものが石垣島にあるとは!!

 …というものを見せてもらったのである。
 その「こんなもの」とは!?