5・再会は160センチ

 空港に到着した我々は、明日のマラソンの受付を済ませるべく、ヒサコさんの車に乗せてもらって石垣市中央運動公園に向かった。当日のスタート&ゴール地点になる会場だ。

 おお、さすが日本陸連公認の公式フルマラソン大会、そこかしこでスポンサーの幟が風にたなびいている。
 すでにスタート地点やゴール地点には横断幕が設置され、会場は我々同様受付をしに来ている人で溢れていた。

 明日がマラソン大会である、という「ゲンジツ」をなるべく忘れようとしていたのに、イヤでも臨場感に見舞われてしまう。

 この中に昼間からビールを飲んでいた人が我々以外にいるのだろうか??
 なんだかとてつもなく場違いなところに来てしまったような感じがするんですけど……。

 受付を済ませたあと、一足先にA&Wで待っているというYさんとマサカッちゃんの奥さんに会いに行った。
 奥さんもかつてはサンシャイン国際水族館のスタッフで、うちの奥さんと同期入社だ。Yさんはいうまでもなく、うちの奥さんが在職中最もお世話になった上司である。
 その奥さんであるヒサコさんも、かつては水族館スタッフだったのだから、ここ石垣島のA&Wは、突如サンシャイン同窓会会場になってしまった。

 一別以来幾星霜……という人たちと久しぶりに会い、テンション上がりまくりのうちの奥さん。

 この興奮が、まさかあのような事態を招こうとは……。

 ひとしきりA&Wでゆんたくしたあと、我々は一足お先に今日、明日のネグラであるホテルに送ってもらった。

 うちの奥さんが手配してくれたエアチケット&ホテルのパックツアーでは、宿にもいくつか選択肢があった。マラソン会場に近い場所を選ぶ手もあったものの、それよりもなによりも大事なのは、湯船が広くてベッドが広くて部屋も広いところ。
 という僕の希望で選んでくれたのが、ここ、スリープイン・ホテル(今年2月から名称が変わってヴェッセルホテル石垣島)。

 客室に入ってみると、たしかに広い。
 ツインの部屋だというのに、2つあるベッドはどちらもダブルベッドで、しかもベッドとベッドの間も広い。
 荷物を適当に広げても、部屋にはなお有り余るスペース。
 湯船も、ある程度体を伸ばして湯に浸かれるサイズだ。
 これだったら、おそらく死亡寸前であろうマラソン直後の体でも、ゆったりと風呂に入れることだろう。

 部屋の窓から、海の向こうに竹富島が見える。
 おお、これは素晴らしい。
 このくつろぎの空間でたっぷりと静養につとめ、心身をすこやかにして、もはや逃れるすべのない明日のマラソンに臨むことにしよう……

 …と思っていたのだけれど。

 石垣島には、どういうわけか友人知人がたくさんいる。
 Yさんご夫妻のほかにも、琉球大学ダイビングクラブ関係の人間がけっこういるのだ。
 なかでも島P夫妻は我々の同級生で、子供がまだ小さかった頃までは、家族でしばしば水納島まで遊びに来てくれていた(当店ダイビングサイトの
スノーケリング紹介の写真はこの家族)。

 最近はお互いにすっかり無沙汰を決め込んでしまい、年賀状のやりとりだけになっていたこともあって、この機会に是非会うつもりでいた。

 でも……
 …マラソン前夜に飲むつもりはなかったんですけど。
 前夜はゆっくりするつもりなので、軽く食事を済ませられる適当な居酒屋を教えて、と伝えていたところ、島P夫人のカナエ嬢は、

 「案内するよ!」

 と案内役を買って出てくれた。
 でも、僕たちは翌日マラソンだから、そんなに飲めないよ?

 「だいじょーぶ、今日は父ちゃんいないから!!」

 つまり父ちゃん島Pがいると痛飲してしまうことになるけど、今日は父ちゃんは仕事で島にいないから(彼の職場は小浜島)大丈夫だ、というわけだ。

 でも、あなたもけっこう飲むんでないの??

 という厳然たるジジツは、彼女の言う「だいじょーぶ」には含まれていないようだった……。

 ともかく、うみんちゅ居酒屋「源」というところで7時、ということになり、それに合わせてホテルのロビーに降りた。
 するとそこには、マラソンウェアーに身を包み、これから練習をしに行こうとしている宿泊客が数名いらっしゃった。

 彼らも間違いなく明日のマラソン大会の出場者である。
 市民マラソンって、前日夕方にもしっかり練習するような世界なんですか??

 それにくらべ、これから居酒屋にくりだそうという我々ときたら……。
 まぁいいや、明日は明日の風が吹く!!

 店には、島Pの娘も食事ついでに一緒に来るという。
 水納島に遊びに来ていた頃は未就学児童だった姉妹、今はもう中学生と小学生くらいかなぁ?

 …と思っていたら。
 光陰矢のごとし。
 いつの間にか長女は高校生になっていて、それも本人の希望で本島にある母ちゃんの母校に通っているという(カナエ嬢の実家が本島にある)。そして、次女もすでに中学生!!

 おまけに!!
 ビールまで飲むようになっていた!?

 

 ……というのはネタのための演出です(汗)。
 仕切りなおして………
 おまけに!!
 こんなに背が高くなっていた!!

 

 もう160センチもあるって。
 水納島に彼らが遊びに来ていた頃の彼女って、こんなだったんですぜ。

 
娘に水をかけようとしている島P
ちなみに彼女は、
この写真のモデルでもある。

 いやあ、月日って確実に先へ先へと進んでるんですなぁ。そりゃ僕たちもおっさんおばはんになるわけだ………。

 現在中学1年生の彼女は、バドミントン部に所属している。
 校内女子部員では向かうところ敵なし、男子部員の猛者とも互角に渡り合うのだという。

 それはひとえに、小さい頃から母ちゃんに鍛えられてきたからこそで、今もなお母ちゃんカナエ嬢は、バドミントン部の臨時コーチとして子供たちの練習を見ているのだとか。

 いつの間に星一徹に??

 中学生の頃には同じくバドミントン部だったというお姉ちゃんのほうも、那覇で行われる中体連の県大会に出場していたのだそうだ。
 すみません、全然知りませんでした……。

 そうか、島P一家はバドミントン一家だったのか。
 おお、バドミントンといえば!!

 元サンシャイン国際水族館館長のYさんは、知る人ぞ知る、大学時代は硬派なバドミントン部員としてならし、社会人になってからも社会人チームの一員としてずーッとバドミントンを続けておられたのである。

 島P一家とは本来まったく無縁なはずのサンシャインチーム旗頭Yさんと、我々の同級生との接点がバドミントンに見出された。

 祝杯になるかヤケ酒になるかはわからないけど、マラソン当日の夜はとにかく飲みましょう、とダイビングクラブOB関係者に声をかけていたため、Yさんたちとはその翌日に落ち合う段取りをつけていた。
 でもこうなると場を合流させたほうが楽しいに違いない。

 というわけで、この居酒屋から関係各方面に連絡し、翌日の段取りと手配をパパパと済ませた次第。<うちの奥さんが。<酒が絡むと手早い。

 そんなこんなで、八重山ならではのオオタニワタリの新芽を炒めたものなどを賞味しつつ、まぁとにかく乾杯を……って飲み始めた生ビールは、いつしか4杯目に突入。

 あれ?たしか明日はマラソンのはずなんだけど。
 現実逃避に走るあまり、心はすっかり飲み会モードになっていたのだった。

 いいのかこれで??

 いいのだ。明日は明日の風が吹………………いたら超暴風だったりして。