1・プロローグ

 カターニア空港には、予定通り午後9時30分頃に到着した。
 ヨーロッパへの旅行自体が人生初の我々の、シチリア初上陸。
 すっかり夜の帳が下りたシチリアの空港は…………

 ……降りしきる雨にスッポリと覆われていた。
 出発前から逐次現地の天気予報を気にしていたので、ある程度の覚悟はできていたものの、沖縄と一緒で天気予報なんて当たんないよね、と自分を慰めていたのだが………。

 雨。
 雨。
 雨。

 カターニア空港で迎えてくれたセバスティアーノ運転による送迎タクシーで一路タオルミーナを目指す間も、アウトストラーダはかなり激しい雨、雨、雨。
 それどころか、ときおり遠雷が雨の向こうの闇を切り裂いてさえいた。

 セバスティアーノ、明日の天気はどう??

 「フゥーーーーーーム………………今日と同じっぽいよ。でも!明後日はバッチシ!!明後日は!」

 我々が残念がるのを見るに忍びないからか、明後日のエ・セレーノを力説して勇気づけてくれるセバスティアーノ。

 でも……でも!!
 僕個人にとってのこの旅行のメインイベントは、まさに翌日、明日なのである。
 美術館めぐりをするのなら雨であろうと雪であろうとなんのモンダイもないだろう。でも…明日は……

 晴れていてほしかった………。
 青空の下で眺めたい数々の景色が待っているはずなのに!

 そんな願いも虚しく、雨脚はますます強まる一方。
 まぁしかし、だからといってブルーになっていてもしょうがない。仕事柄、気分を天気に左右される人をちょくちょくお見かけするけれど、残念に思うのとブルーになるのとはちょっと違う。
 あくまでも旅行は楽しく!!
 残念に思いつつも、そういう状況を楽しめばいいのだ。

 …と、開き直って床についた夜12時。
 遠雷いまだ鳴り止まず、雨足が弱まる気配も全くない。

 時差ボケのために寝付けないまま迎えた朝5時になっても、雨は降りやまず雷も続く。

 ああ、僕のメインイベントはいったいどうなるのだ。
 メインイベント。
 それはもちろん……

 ゴッドファーザーである。
 あの不朽の名作「ゴッドファーザー」における、シチリアでのロケ地を訪ねまくるのだ。
 あの景色も、あのシーンも、あの道も………

 晴天の下で見たかったなぁ。

 そんな僕の思いを知ってか知らずか、雨はますますその勢いを強めていくのだった………。