10・ヴィラ・ディオドーロ

 我々がタオルミーナで宿泊するホテルは、ヴィラ・ディオドーロ。

 ★★★★のホテルだ。
 このイタリア国内ホテルの★評価、僕はてっきりミシュランのような民間業者のランク付けなのかと思っていた。
 ところが実際は、行政が定めた基準に基づいて認定される公的なランク付けなのだそうだ。

 そういう意味では信用がおけはするものの、逆に考えるとその評価はいわゆる「お役所的」であるはず。
 そのためだろう、3星だけど4星よりも居心地がよかったとか、4星なのにどこそこの3星クラスよりも劣る、なんてことがよくあるらしい。

 まぁようするにホテルの評価なんてものは、一定基準を満たしていればあとは利用者の主観の問題なので、フロントスタッフの応対やらレストランでの対応やらなんてことはどうでもよかった。

 ただひとつ大事だったのは………バスタブの有無だ。

 沖縄で暮らす我々は、普段の生活でもシャワーだけというスタイルに慣れているのに対し、人生70年余もの間、ずっと湯船に浸かり続けてきた父ちゃんにとって、風呂場にバスタブが無い、なんてことは、クリープを入れないコーヒーよりもありえない話。

 で。
 かつてのハワイでは、そのバスタブで大洪水事件を勃発させたことがある父ちゃん。
 口を酸っぱくして注意事項を並べ立てておいたのに、我々夫婦がちょっと留守していた間に、あわや床上浸水の危機に見舞われてしまったのだ。

 それをふまえている我々としては、父ちゃんを一人部屋で一人にするわけにもいかない。
 そのため、3人部屋、もしくはベッドを3つ置けるスペースがある部屋で、なおかつ湯船つきという条件が必要だったのである。

 さて、このヴィラ・ディオドーロは??

 バスタブも、部屋の広さも、完璧にクリアしてくれていた(その分、カップルで泊まれるような眺めのよい部屋ではなかったけどね)。

 部屋も、ドアで仕切られたダブル寝室!!

 

 どんな状況であれ誰であれ、せめて寝る場所くらいはプライベート空間を保ちたいと願う僕にとって、9泊もの日々を父ちゃんと同じ部屋で過ごしきれる自信は実はなかったのだけど、とりあえずこれなら3泊は安眠が確保されたも同然だ。

 で、当然のように電話があるほうの部屋を我々の部屋にしたところ、テレビのサイズがどうたら部屋の調度はこっちのほうが豪華っぽいなぁとか、部屋を見比べてうらやましげに父ちゃんが言う。

 でも、ベッドの用意を見ても、掛け布団がひと繋がりになっているのはこっちだし、そもそもフロントから電話がかかってきても出れないでしょ??

 ……という詳しい説明はしないままでいたせいか、スポンサーとしては自分にメインの部屋をあてがわれたかったらしい。
 気にせずスルー。ハッハッハ。

 荷物を広げる前にカギ、水道、湯、トイレなどなどのチェックを済ませ、特にモンダイはなかったので、時間も時間だしひとっ風呂浴びてすぐさま安眠態勢に。

 こうして、この日唯一最大のミッションだった、ホテルに無事にたどり着く、という使命を終えた。
 あとはスヤスヤ眠るだけだ。

 ………が。
 寝られない。
 12時間余の飛行時間中、ほぼ寝ていないのだから、完全無欠の爆睡態勢が整っているはずなのに!!

 イタリアの夜12時といえば、日本の朝8時。
 うーむ………。
 普段ほぼ規則正しい生活をしていることが、こういうところで仇となるのか???

 結局、1時間ウトウトしたかどうかで夜が明けた。
 うちの奥さんも同じく寝られず、父ちゃんも寝られなかったとボヤいていた。

 でも………
 二人とも、あんだけ飛行機で寝てれば夜寝られないのは当然です。