12・ロケ地めぐり

 さあ、次はどのシーンなんだろう??

 期待に胸を弾ませながら(約1名のみ)、我々を乗せたタクシーはシチリアの田舎道を行く。

 タオルミーナの街こそ洗練された古い町って感じだったものの、ちょっと郊外に出ると途端に田舎の風景になる。
 そしてこういう風景こそが、僕がゴッドファーザーからイメージしていたシチリアの風景だ。

 そんな山間の田舎道を走っていたとき、ある川を渡りきった橋詰のあたりでタクシーを停めるアントニオ。

 橋から川を眺める。

 ン?

 この写真だけを観て、いったいこれがどのシーンなのかわかった方はスルドイ。
 ここは、このシーンのロケ地だ!


ゴッドファーザーPartUより

 そう、ゴッドファーザーPartUの冒頭、ビトーの父の葬儀のシーン。
 この劇中のうらびれた寂しげな風景と、目の前の瑞々しくも青々とした風景が同じ場所とは、にわかには信じがたいかもしれない。
 でも、ほら、後方の山の稜線と手前の丘のラインをよくご覧ください。

 角度がちょっと違うけど、約40年前の姿がほぼそのまま残っているでしょう?

 ところで、どうして劇中ではうらびれた寂しげな乾燥大地っぽいのに、我々の目の前は緑に溢れているのか。
 それは、ロケの季節が1作目も2作目も夏場だったから。
 真夏の期間のシチリアは、川の水が枯れ草も枯れ、大地は薄茶色に染まるのだという。

 今は春。プリマヴェーラ♪
 川は豊かに水を湛え、草木は芽生えて新緑に溢れ、花々は色とりどりに咲き誇っている。
 そんな草のひとつがこれ。

 フェンネル、イタリアでいうところのフィノッキオ。
 ハーブとして、野菜としてよく使われるこの草が、そこらじゅうに生えていた。
 僕が勝手に思い描いていた風景とは違い、美しい花々が咲き誇る瑞々しい世界。ゴッドファーザーではけっして観ることができない景色なのだった。

 再びタクシーは発進。
 するとほどなくして、幹線道路沿いの横道で停車。
 お次のシーンは???

 おお………おお…………ここは!!
 あの斜面じゃないか!!
 そう、


ゴッドファーザーより

 シチリアに難を逃れたマイケルに思いを馳せるビトー@マーロン・ブランドにオーバーラップしつつ、シーンはマイケルがいるシチリアの風景に。
 そしてこのシーンからあの名曲が流れる。

 40年の歳月は右側の小屋の原型を留め得なかったし、斜面には電柱が立っているし、今ではこの近辺で羊の群れが通りかかることもないそうだ。
 とはいえ、この風景はまさにゴッドファーザー!!

 ワタクシ、素直に感動してしまいました。


撮影:オタマサ

 そして。
 もうお気づきですね。
 この青空!!

 エ セレーノ♪

 今朝方までのあの雷雨が夢幻だったかのように、すっかり晴れ渡るシチリアの空。
 恥ずかしげもなく着ている赤い上着、まるで計算されたかのように風景に溶け込んでいる。<溶け込んでません。

 このすぐ近くに、この風景もあった。

 この小さな丘も劇中に出てくる。
 冒頭の斜面を左側から右側に登ったあとにドン・トマシーノが車でやってきて、コルレオーネ村に行くなら車で送るという彼の申し出をマイケルが断り、そのまま歩き続けた後にたどりつくのがこの丘だ。


ゴッドファーザーより

 ところが実際は、冒頭の斜面の写真左側すぐ近くにポンと存在していた。
 幹線道路がこんなにすぐ近くなんて思いもしなかったし(当時は未舗装だったそうだ)、劇中の風景が物語とは別にこういう位置に存在していたということを、この地に来て初めて知った次第。

 映画の撮影ではもっと近い位置から撮っているため、背後の山の位置が異なって見えるけど、頂上付近の岩の雰囲気とか稜線などは昔のままであることがわかる。
 そして丘の斜面に生えているオリーブの木も、40年経ってすっかり生長している様子がうかがえる。

 そりゃ、40年も経てばオリーブが育つのは当たり前ながら、40年前のロケに使われた丘が、今もなお当時のままに丘であるってことがオドロキではないか。
 日本だったら今頃すっかり平らに整地されて、コジャレたビルのひとつでも建っているのだろうなぁ……。

 晴天の下、ロケ地めぐりはまだまだ続く。