2・一本の電話

 それは昨シーズンも終了間際の、10月中旬のことだった。
 いつものようにゲストとゆんたくしていた夜、電話がかかってきた。
 うちの奥さんが出てみると、埼玉の父ちゃんから。
 はて、何の用だろう?

 「俺もそろそろ齢だからよぉ……」

 ん?ついに何か健康を害してしまったのか??
 グッと覚悟を決め、受話器を握り締めて話の続きを待つうちの奥さん。いったい何を聞かされることになるのか??

 「最後にパッと海外旅行に連れてってよ」

 へ?
 と……突然何を??

 「予算は俺が持つからよぉ、全部任せるからどこか手配してくれない?」

 海外旅行!?
 聞けば希望地候補として、オーストラリア、エジプト、そしてイタリアが挙げられているらしい。

 イタリア!

 ヨーロッパに一度も足を踏み入れたことがないにもかかわらず、日本を捨てて老後を過ごすならポルトガルだ、と勝手に決めていた僕にとって、最も行きたいヨーロッパの国といえばポルトガル。
 ついでスペイン(の、名もなき小さな村だか町)。
 そしてイタリアは3番手につけていた。

 でも我々にとってのヨーロッパは限りなく遠い世界。
 はたしてこの人生のうちに、訪ねる機会があるかどうかもはなはだ心もとない夢の世界の一つだった。

 そんな僕たちに、振って湧いたかのようなこの話!!

 (有)クロワッサンアイランド緊急役員会が、満場一致で父ちゃんの申し出を承ったのはいうまでもない。

 もちろん行き先はイタ〜リア♪(エジプトにしていたらやばかった)

 とはいえイタリアといっても広うござんす。
 もちろん僕にとってのイタリアが、ミラノコレクションだバレンチノだアルマーニだという世界であるはずはない。
 まぁそれぞれの街の歴史に興味はあっても、現代のミラノだフィレンツェだというのはありえない。
 さして知識もないのに、どこそこのワインがどうたらこうたら…なんて話もありえない。

 ではイタリアのどこに?

 そりゃもちろん、僕にとってのイタリアといえば、これ!!

 あえてイタリア語のタイトルだけど、この絵ですぐさま頭にあの音楽が流れたあなたには、きっとおわかりいただけることでしょう。

 それほど映画に関心がない方からすると、同じ映画を何度も観るというのは不思議でならないらしい。
 でも、そういう方々にはこう考えていただきたい。

 お気に入りの歌とか音楽だって、何度も聴くでしょう?

 僕にとっての「いい映画」ってのはまさにそれと同じ。
 何度観ても震えるほどに感動するシーンがあるし、繰り返し観ても鳥肌が立つほどに痺れる瞬間があるのだ。

 ストーリーの面白さはもちろんながら、そこで演じている役者たちの入魂の演技、そこで演出している監督の感性、撮影監督の職人ワザなどなど、観れば観るほど面白さは増していく。

 そんな僕にとっての「いい映画」のひとつが、ほかでもない「ゴッドファーザー」なのである。

 カラヴァッジョの絵のような、完璧な光と影の映像から始まるあの冒頭。最初にアップで出てくる人物がただの葬儀屋のオッサンってところがまたニクイ。
 そして………… 

 いやあもう、マーロン・ブランド最高。

 …といいつつ、全3作あるゴッドファーザーシリーズの中で、僕が最も好きなのがパートU。それも、若き日のビトを演じるロバート・デ・ニーロのパート。
 個人的には、あれは彼のフィルモグラフィの中で、唯一無二といっていいくらいの最高傑作である。
 無駄なシーンがまったくない。

 そして!!
 なにがイイって、子供を見守るマイケル@アル・パチーノがフェードアウトして、子供を見守る若き日のビト@ロバート・デ・ニーロがフェードインしてくるシーン!!


「ゴッドファーザーPartU」より

 もう、オチッコちびりそう………。

 何度観てもふるえる。
 とまぁ、こんな具合で昔から好きなんですよ、ゴッドファーザーが。
 そして。
 ニューヨークやラスベガスでしのぎを削っているコルレオーネファミリーにとって、欠くべからざる心の故郷といえばどこか。
 そう、それは………

 シチリア!!


「ゴッドファーザー」より

 このシーンから、あのエンニオ・モリコーネの名曲が流れる。
 1作目、マイケルがアメリカでのほとぼりが冷めるまでってことで訪ねた先こそが、コルレオーネ家のルーツであるシチリアなのだった。 


「ゴッドファーザー」より

 初めてゴッドファーザーを観た子供の頃、シチリアなんて今の感覚でいう火星くらいに遠いところって思っていた気がする。

 そんなシチリアに………………行けるかもしれない。

 僕にとってこれは、過去に味わったアラスカのオーロラやケニアのゾウさんに匹敵する、人生的エポックメイキングな話であることは間違いない。

 ……シチリアに行きたいッ!!

 …でも、どこに行ったらいいんだろ?