48・チョコになったドライバー

 フォロ・ロマーノやコロッセオの入場が有料になったのは仕方がないにしても、それでやっかいになったことがひとつある。

 入場券の購入に時間がかかってしまうのだ。
 とりわけ人気のコロッセオになると、時間によっては長蛇の列ができるという。

 それを避けるためには、共通券であるという利点を生かし、フォロ・ロマーノやパラティーノの丘でチケットを購入するほうがいい、というのが最近のローマ旅行者の鉄則だ。

 それもあって、早めの時間にフォロ・ロマーノへやってきた我々。
 さすがに長蛇の列ではなかったけど、それでもやはりツチノコくらいの列はできていた。

 ま、並ぶのは僕一人でいいから、二人にはそのへんに座っていてもらうことにした。父ちゃんにはちょうどいい休憩になるだろう。<といいつつ、通りかかったおねえちゃんたちに声を掛ける父ちゃん。

 「遠路はるばるやってきたイタリアで、日本の若いオネーちゃんたちが日本のオヤジに声掛けられてうれしいはずがないでしょう」

 何度そう言ってもわかってくれない父ちゃんなのだった。

 さて。
 ツチノコ程度の列だったのですぐに済むかな、と思いきや。
 これがやたらと時間がかかる。
 これ以後も何度かこういう順番待ちを体験して、僕は悟ってしまった。

 ひょっとしてイタリア人って、こういう処理がヘタなんじゃない?

 だって、窓口に来て告げられた人数分のチケットを売りさばいていくだけですぜ。
 チケットの種類が50通りくらいあるならまだしも、なんでこんなに時間がかかるのよ……。

 でもそこで再び気がついた。
 あのローマ空港でのセキュリティスタッフだ。
 きっと彼のように、窓口でも多弁なんだろうなぁ……。

 逆に言うと、これもメルカートと同じで対面販売なのかもしれない。
 思い返してみると、こういうチケット売り場でもスーパーのレジでも、日本でたびたび味わうような「マニュアルトーク」に接したことがない。
 見様によっては横柄であったりやる気無しおであったり無愛想であったりしても、本部のサンエーのレジで毎回聞かされる、「君はロボットか?」的トークがいっさいない。

 マニュアルトークで時間を短縮する世の中がいいか、それとも一人ひとりにかける言葉が異なる対面販売がいいか。

 ムツカシイところではあるものの、今このときの僕は、早く仕事をしろ!と心の中で券売所スタッフを罵っていたのだった。<すみません。

 ただし、そのおかげでポッコリ時間が空いた。
 この間に電話をしておこう!

 昨夕、ローマの空港にて、はたしてドライバーが待ちぼうけを食らわされていなかったかどうか、平日のこの時間なら日本語事務所に人がいるだろう。

 かけてみると、「Pronto?」という応答が。
 なので、誰か日本語を話すスタッフはいませんか?と訊ねると(もちろんイタリア語で♪)、「日本語でどうぞ」とそのヒトは日本語で言った。
 日本人だったのだ。

 で、前日の状況を話したら、確認してみるので午後には応えられるようにしておくとのことだった。

 そして午後。
 再び電話をしてみると。

 なんと!!
 なんとなんと、実はそもそも手配ミスで、はなから運転手が迎えに来る予定にはなっていなかったって。

 あわや待ちぼうけ??
 いやあ、あのまま待ってないでよかったぁ………。

 50ユーロのタクシー代はかかったものの、特に予定が狂ったわけじゃなし、ドライバーに待ちぼうけをさせてしまったわけでもなかったことが判明してホッとしていたのだけれど、先方はなにやら大層恐縮してしまっているではないか。

 あのぉ、別にクレームしているわけじゃないんですけど。

 そう言っても聞いてくれず、

 「送迎分の返金はもちろんのことながら、お詫び方々ホテルまでチョコレートをお持ちいたします!!お召し上がりになれなかったら、是非とも日本までお持ち帰りくださいませ……」

 そこまで必死に謝っていただかなくてもいいんだけどなぁ…。

 翌日。
 午後部屋に戻ると、台の上にこういうものが。

 チョコ♪
 なんだか申し訳ないなぁ……。<帰国後おいしくいただきました。
 そしてさらに帰国後、未手配だったタクシー送迎費用として、14800円が指定口座に振り込まれたのだった。

 黒字♪<いや、そういうモンダイじゃなく。

 さすがツアー、何事もなかったら、本来なら5000円で済むところを、その3倍も払っているわけだ。
 今回は父ちゃん用にタクシー送迎付きをはじめとして至るところでゼータク仕様にしてあった。
 これひとつとっても、旅費を安くしようと思ったらいくらでも安くできるんだということをあらためて実感。<もちろん浮いた分は食費に回す。

 ところで。
 幸いにして僕たちは、彼の地でイタリア人を相手にこういう話をせずにすんだ。
 しかし、もしこのようなクレーム(?)をイタリア人担当者にしていたらどうなっていたのだろう??

 タオルミーナでご案内していただいたヒロセさんの体験談によると、事情は多少違うものの、お客さんの代わりに似たようなクレームをして返金を求めたところ、キチンと返金されるまでに1年を要したそうな……。

 「自分のお金だったら、その手数のほうが大変だからあきらめたところなんですが、なにしろお客さんのお金だったので…」

 たしかに僕でもあきらめるなぁ、途中で。

 ナニゴトもなく無事に済んだ旅行者がけっして味わうことができない、イタリアの真の姿のひとつがこのあたりにあるのかもしれない。
 これが現地住民という立場で、しかも相手がお役所だとしたら……??

 考えただけでも僕には耐えられそうにない。
 チケット売り場ひとつでこれだもの、役所相手に様々な申請やら許可証の発行やらなんて話になったら、いったいどういうことになるんだろ??

 なんて考えているうちに、ようやくチケットを購入。
 いざ、フォロ・ロマーノへ!!