54・招かれざる客?
ティベリーナ島をあとにした。 個人的には、この近くにあるマルケルス劇場を間近で眺めてみたかったものの、そのコースを歩くと遠回りになる。 しょうがないのでマルケルス劇場はあきらめ、テケテケ歩いていると、なにやら発掘だか補修だかしている最中の遺跡が見えてきた。 ちょっと立ち寄ってみると、路地(?)の隙間からマルケルス劇場が見えた。 うーむ、この反対側から観たかったのだが……。 で、この補修中の遺跡というのはこれ。 何も知らずにとりあえず撮ったこの遺跡、実はオクタヴィア回廊という、敷地内に神殿が二つ並んで建っていたとっても立派な建造物の前門部分なのだった。 門だけでこんなに巨大なのだから、その回廊の規模がうかがい知れる。 前述のとおりこの周囲が発掘作業中なのかなんなのか、いろいろ見学できるようにもなっていて、興味の赴くままにウロチョロしていると……… 気がついたら二人が行方不明になっていた。 例によってわかんないのに先へ先へと急ぐ父ちゃんを心配して、ついていったオタマサごといなくなっている。 ありゃ、困った。 無事合流。 場所は結局上の写真の遺跡からちょい左に続く通りだった。 そろそろおトイレ休憩をかねて、カッフェでも一杯飲みますか。 いきなり我々に集まる視線。 周りにはわりと観光客が座りそうなテラス席を設けた店もあったのに、よりによって僕たちが入ったのは地元の人しか来ないような店だったのだ。 たしかに地元の方にとってみれば、我々なんてアヤシイ者以外のナニモノでもない。 熱い(?)視線を浴びながら、ともかくエスプレッソ1杯とアメリカーナを2つ頼み、トイレの場所を訊いて順番に用を足した。 カウンターに座りながらしばし休憩タイム。 するとまた例によって、若いおねーちゃんスタッフと二人がかりで、しかも熱い口調で教えてくれる。 そしてまたカウンターに座っていると、この店のジュンコさんが訊いてきた。 「サン・ピエトロ大聖堂には行ったの??」 まだですけど、明日行こうと思ってます。 「と〜ってもきれいよ!!是非行ってきてね!」 文字どおりの地元情報。 「ワタシも今度日本に行ったら日本語話すからね!」 なので、すかさず「いつですか?待ってますよ!」と冗談で言うと、何か言いつつ笑ってくれた。 おトイレも借りれたし、休憩もできたし、そしてもちろんカッフェも美味しかった。 たったの3ユーロ!!! 一杯じゃないですぜ、3人で合計3杯飲んで、総額3ユーロ。 これが……これが地元価格の相場なのか!! またしても、イデの発動を初めて見たギジェのような衝撃と感動に包まれる我々なのだった。 たしかにこれだったら、足繁くカフェに通えるわなぁ。お喋りも楽しいし。 うーん、店内で写真を撮り忘れたことだけが心残り……。 さてさて、マンマ・ジュンコさんたちに詳しく道を訊いて、ここがどこだかハッキリわかった。 なので、遠回りになりはするもののサルでもわかる道順で帰るべく、川沿いに戻って逆側に行くことにした。 すると…… マルケルス劇場のそば♪ …まぁこうして見ると、近くで見たから何?って感じ。 しかしここもやはり……
オードリー様は駆け抜けていくのだった………。 それはともかくこの遺跡は、カエサルが着工したもの。 ちなみに、ポツンと一部が残っているアポロ神殿の向こう側が、さきほどのオクタヴィア回廊跡。 そんなにまでしてたくさんモノを造って権力を誇示したいのか、と思ってしまう人が多いかもしれないけど、それは誤解だ。 遠征に勝利したとか、防衛を果たしたとか、後世に名を残す業績をあげた指導者は、それを実現させてくれた「社会」に対して恩返しをする、というのがローマにおける古来からの習わしだったのである。 とはいえ世が変わると、時の実力者建造の建物も、このマルケルス劇場のように、建築資材提供場になったり、要塞になったり、宮殿になったりしながら変遷を繰り返す。 そんなマルケルス劇場を通り過ぎ、ヴェネツィア広場を経て、朝通ったコルソ通りを北上する。 けっこう疲れてもいるだろうから、さすがに父ちゃんもまっすぐ帰る……… …のかなと思ったら違った。 「トレヴィの泉に行こう!」 あ、そうだった! はたして、午後はどうだろう?掃除は終わっているだろうか。 さぁ、どっちだ!? 泉はちゃんと泉だった!! 1ユーロコインは軽やかに弧を描き、キラリと一瞬輝いて、静かに泉の底へと消えていった。 |