6・スポンサーの偉業

 そんなこんなで、途中石垣島マラソンで死にそうになりつつも、いつになく入念な準備を済ませているうちに、ついに出発の日がやってきた。

 なんだか実感が湧かない……。

 それもそのはず、まずはうちの奥さんの埼玉の実家に寄ってから。
 そもそも今回突如父ちゃんからお声が掛かったのは、今オフの帰省先が埼玉の番だからなのだ。
 僕の実家が大阪、うちの奥さんの実家が埼玉のため、シーズン中に大儲けできるのならともかく、帰省するにも経済的にどちらか片方ずつしかできず、かわるがわる一年ごとに帰省している我々。
 で、今オフが埼玉の番であることを知っている父ちゃんは、こっちに来るんだったら旅行に、と相成った次第。

 というわけで、今年も見てきました、てっちゃんグランド。
 一昨年寄贈した枝垂れ梅も、ちょっとばかし大きくなってちょうど見ごろの満開状態。

 

 そして、2年ぶりに見るグランドは………

 

 さらにさらにパワーアップ!!
 ホタルの里にするべくカワニナ増殖計画を着々と進める一方で、

 

 行政に話を通して許可が降りた形になっている事業はますます大規模化し、なんとなんと、長い間手つかずの藪だった川沿いの道まで、人脈を駆使しつつユンボ3台をリースして大整地。

 

 完全に「公園」になってきた。
 で、きれいに整地されたところに桜を植えようと、付近住民およびウォーキングや犬の散歩でここを利用している方々へ募金を呼びかけつつ、さらに桜の苗を購入。

 かつては勝手に一人でやっていたこのグランド整備、今では有志も加わって、おまけに行政に話も通して、個人でできる規模を遥かに超えた事業を、あくまでも個人でやっているのである。

 モノスゴイ……………。

 今回の旅行では、いささか気がかりなことが一つあった。
 海辺の島やアラスカのオーロラやケニアのサファリとは違い、今回は観光地を観光する、いわゆる普通の「観光」である。
 とはいえやはり、いつものように我々はその観光地を、けっしてバスやタクシーなどを利用することなく、歩いて周ってみたい。

 旅行でそうやって歩けるように、日々ジョギングやウォーキングなどをしている我々である。多少の体力はあるつもりでいる。

 が、はたして父ちゃんは歩けるだろうか???

 …とちょっと不安だったのだが、このグランドを見れば。

 本人も体力に関する自信はまんざらでもないようで、旅行先決定後からしつこいくらいにうちの奥さんが「歩き回るからね!」と念を押していたところ、

 「体力は大丈夫だよぉ」

 と強気発言。
 たしかにこのグランドを見せられればぐうの音も出ない。

 そうやってグランドを拝見させてもらったあと、テクテクと歩いて墓参りをしつつ、午後は若夫婦一家ともども鳥吉にて一席。
 旅行出発前日はこうして順調に暮れていったのだが……

 この日我々は、父ちゃんから衝撃的発言を聞いてしまった。

 目的地が定まり旅程も決まってからは、宿泊先込みのそれなりに詳細な旅程表を埼玉まで郵送してあった。
 で、かつてイタリアに行ったことがある若夫婦がそれをふまえ、父ちゃんにイタリアガイド本を提供してくれたそうで、本人はそれなりに事前学習をしようとしたらしい。
 ところが。

 「なんだか読んでも読んでも遺跡ばっかりで、さっぱりわかんねぇからあきらめちゃったよぉ」

 へ?
 あのぉ……遺跡を見たいからイタリアが候補地だったんじゃないんですか??

 昔から、大河ドラマをはじめとする日本の歴史モノは本もドラマもかなり好きで、さっぱり話が通じない娘と息子に比べれば、断然同じ興味で話ができる僕の出番がよくあったものだったから、イタリアに関してもてっきりローマ帝国への興味が少なからずあるもの、と僕もうちの奥さんも勝手に思っていた。

 全然違った??

 というか、いったいイタリアに何を求めているんだろう??

 遺跡ばっかりでさっぱりわかんなくて諦めて以来、父ちゃんの事前学習は、我々がこれはもう一度観ておいたほうがいいよと勧めた映画「ローマの休日」だけだったらしい。

 つまり。
 この旅行出発直前に至ってもなお、父ちゃんの頭の中のイタリアは、ほぼまったくの純白のままだったのである。

 そんな人を……………

 ローマに比べればさらに何もなさそうなシチリアに連れて行って大丈夫なんだろうか??

 前途に不気味な暗雲が見え隠れしていた。