60・ホントにあった秘密の通路

 ヴァチカン博物館は、いったんサン・ピエトロ広場を出た後、市壁沿いにグルリと回ったところに入り口がある。

 なので、テケテケ歩いて入り口を目指す。
 すると地元の小学生らしきラガッツィの団体様ご一行も、まったく同じ方向へ。

 うーん、こんなちびっ子団体と一緒じゃヤダなぁ……。

 などという心配はまったくの無駄だった。
 なぜなら。

 長蛇の列!!
 この列が、壁の向こうを回ったずっとずっと先まで続いていた。
 素直にこの列に並ぶか??

 無理ッ!!

 いやあ、ウワサには聞いていたけど、これほどとは……。
 先ほどのラガッツィたちは、団体様ご予約ってことなのか、すんなりと入り口から入っていった。

 個人客でも、事前にインターネットで予約・支払いを済ませておけば、予約時刻をはずさないかぎり並ばずに入れることは知っていた。
 でも、たとえ入ることができたとしても、この混雑じゃあ中でゆっくりしていられないよなぁ……。

 というわけで、この長蛇の列を見た瞬間にソッコー断念。
 ラオコーンよ、アウグストゥスよ、システィーナ礼拝堂よ、さらば。

 ついに驢馬の旅になってしまった我々は、仕方がないので入り口目の前にあったカフェに入店、カッフェなんぞを飲みながら休憩した。<やっぱり名所の目の前は高い!

 さあて、このあとはどこに行こうか。
 予定では、博物館を巡り終えた頃くらいがお昼時なので、この入り口から程近いところにあるピッツェリアに行くつもりだった。
 でも食事にはまだ早すぎる。
 そうだ!!

 サンタンジェロ城に行こう!!

 当初の予定では外から眺めるだけで終わらせるつもりだったけど、せっかくだから登ってしまおう。

 てなわけで、テケテケとサンタンジェロ城へ。
 その道中で、とても素敵な出会いが♪

 なんと、ローマにもプチトマト号が!!

 色は違うけど、うちの車と同じファンカーゴじゃん、これ。
 しかし名前は……

 ん?YARIS?

 あそうか、イタリアでファンカーゴなんて英語名になるわけないか。
 小型車が好まれるローマでなら、我らがファンカーゴちゃんも大活躍することだろう。

 帰国後気になったので、YARISで調べてみたら。

 なんと、99年にヨーロッパ・カー・オブ・ザ・イヤーを受賞しているではないか!!

 よかったねぇ、トヨタ。
 でもさらに調べてみると……

 「YARISは日本名ヴィッツ」

 え?
 でもどう見たってファンカーゴですぜ、この車。
 ……と思ったら。
 「YARIS」はヴィッツだけど、「YARIS
VERSO」はファンカーゴなんだって。

 そ……それってもしかして、受賞したヴィッツにあやかって同じような名前にしちゃえ作戦???
 まいっか、イタリアだから

 タオルミーナでもパレルモでもローマでも、小型車の需要は大きい。
 違法駐車はすでに暗黙のうちに違法ではないようだし(レッカー移動の標識の下にズラリと並んでいることもザラ)、その縦列駐車の見事さも凄まじかった。
 なにをどう切り返しても絶対に出せない……状態で停まっている車も数多い。

 そんななか、ついに我々はピッチリ駐車をものともしない究極の駐車方法を目にしてしまった。

 縦に停まってるしッ!!

 パッと見、石川五右衛門の斬鉄剣に後半分を斬られたかのような超小型車が、大胆不敵にも縦向きに路上駐車していた。
 なるほど、これなら本来の前後左右にどれほどピッチリ車が停まっていようと、出入りに不自由はない………

 ……って、そういう問題なのか??

 それはそれである意味感動に浸りつつ、サンタンジェロに到着。
 広場には大道芸人たちがいた。
 ツタンカーメンとか悪魔とか、とにかく「ワタシは人形です」系の動かない芸ね。
 でも子供たちが通りかかると、実は動くことをアピールしたりする。

 でも子供たちが去ると………

 電話をしている悪魔さんなのだった。
 魔界から呼び出しでもあったのかな??

 広場にはこのほか土産物屋やアヤシイ偽ブランド商品が。

 誰がどう見ても偽ブランドなんだから、かえってフツーの安いバッグを売ったほうが売れると思うんだけど……。
 アッ!!
 ひょっとしてこの人たちって、雨が降ったら傘売ってるの??

 あれはパレルモだったけど、もしそうならナゾがひとつ解ける……。

 この広場にドンと建っているのが、サンタンジェロ城。

 博物館にもなっているこのお城、実はここも登れるのだ。
 そして、サン・ピエトロ大聖堂のクーポラからはけっして観ることができない風景が観られる場所でもある。

 その風景とは……

 もちろんサン・ピエトロ大聖堂自身。
 右手で右手は掴めないのである。
 このほか、360度グルリと見渡せる景色はなかなか爽快。

 途中の階には景色を見ながら飲食できるバールなどもあったし、ここだけでも充分のんびり過ごせそうな場所だ。

 ちなみに、映画「天使と悪魔」で出てきた、サンタンジェロ城とヴァチカンを結ぶ法王用秘密の通路(パセット)、トム・ハンクスとドットレッサがヴァチカン目指して駆け抜ける道だ。


映画「天使と悪魔」より

 これっててっきり、作者ダン・ブラウンの創作だとばかり思っていたら、ホントにあったのね。

 まさかホントにあるとは知らず、これを書いている今になって、たまたま撮っていた写真に写っていることに気がついた次第。
 そういえば歩いていたとき、その下をくぐってた………。

 でもこれ、秘密の通路というわりには目立ちすぎじゃね??

 そんなこんなで、風景を眺めるだけでも楽しい場所ながら、もっといろいろ知っていたらさらに楽しめたのは間違いない。
 ハドリアヌスの霊廟から始まって、歴史の重みがぎっしり詰まったこのサンタンジェロ城で、風景だけを楽しんでいてよかったのだろうか??

 大天使ミカエルが顕現し、太鼓判を押してくれた。