1・プロローグ

 

 さて、金沢である。

 こと観光地という意味では、隣県の福井や富山と北陸の覇権を争っている金沢。

 とはいえ金沢には、いまだかつて一度も訪れたことがない。
 ただし、高校生の頃から今に至るまでの間、

 金沢で学生時代を過ごした。

 金沢でしばらく勤務していた。

 金沢に出張で訪れた。

 金沢を観光してきた。

 という方々から、金沢のお話を伺う機会がたびたびあった。
 そしてそのほぼすべての方が、異口同音に仰ることがある。
 いわく、

 「金沢はいいところである!」

 そしてその「いいところ」のかなりのウェートを占めているらしいのが、

 海の幸♪

 昨オフに築地市場で海幸尽くしに浸るシアワセを覚えてしまった我々夫婦である。
 今オフ、埼玉と大阪の双方に帰省するついでに、せっかくだからささやかな国内旅行を……と企てるにあたり、誰もが「いいところである」と断言する海幸天国金沢が目的地に選ばれたのはある意味必然だったのかもしれない。

 とはいえ。

 東西という意味ではたしかに埼玉と大阪の間にある金沢でも、その東西を結ぶメインルート上の間にあるわけではけっしてない。

 むしろどちらかといえばそれぞれ個別に行った方がよほど安上がりなんじゃなかろうか……という気もしなくもない。

 しかしここに、鉄道路線図ならびに時刻表大好き女ことオタマサがいた。

 いったん東京に戻ってからのルートの方が遥かに早いのはもちろんながら、どうせだったら埼玉から一歩も引かずに(?)、そのまま北上を開始するルートを時刻表片手に模索し始めたのだった。

 しかしてそのルートとは…

 八高線で    東飯能駅→高崎駅

 長野新幹線で  高崎駅→長野駅

 信越本線で   長野駅→直江津駅

 北陸本線で   直江津駅→金沢駅

 とまぁ、まるで立川志の輔の落語「みどりの窓口」に出てくる老夫婦のようなルートを地図で見ればこういうことになる。

 その所用時間は、スムーズに乗り換えてさえなんと7時間半!!

 日本は広い。

 目的地を決めてルートも定まった頃に、なんとこの年の3月から北陸新幹線が開通し、東京から2時間半で金沢まで行けるようになるということを知った。

 いきなりワープ機能搭載エンジンになりました的便利さではないか。

 でも。

 「旅行」は「移動」とは違う。求めているモノが違う。
 どこでもドアで世界一周をして、いったい何が楽しいだろうか。

 7時間半かけてこそ見えてくるものが、きっと何かあるはずだ。

 旅行が3月だったらよかったのにね…と残念がるのではなく、新幹線が開通する前に是非行っておかねば!!

 と闘志(?)を新たにした我々である。

 乗り換えがけっこうタイトになるところもあるため、駅弁とビールははたしてどこで何を購入するのがベストであるか、という最重要問題もはらみつつ、ともかくこうして旅の道程は確定したのであった。

 一方。

 なんといっても2月初旬といえば、冬の真っ只中。
 防寒装備という意味では、かつてアラスカでマイナス32度をも凌ぐことができたくらいだからモンダイはないにしても、現地の季節的な注意事項をチェックしてみると、意外な装備も必要であることがわかった。

 というのも、雪による積雪や路面凍結を防ぐために、金沢市街では道路の随所で融雪用の水を流しているそうで、雪の日になると道はグショグショのビチョビチョになるのだという。

 通常の靴ではとてももたないというのだ。

 うちの奥さんはブーツがあるから大丈夫、などと言っているのに対し、僕には何もない。
 かくなるうえは、スノーシューズを手に入れることにしよう。

 ……って、沖縄で買えるのだろうか?

 あまり期待せずにおもろまちのスポーツDEPOに行ってみると、なんとなんと、奇跡的に2足だけ売られてました、スノーシューズ。

 これ。

 底から高さ5センチまでの部分が完全防水になっているスグレモノだ。
 ただしその分やたらとでかく、履いてみるとなんだかミッキーのブーツのようで、足元を見おろすと違和感ありあり。

 ところがうちの奥さんに言わせると

 「だんなは頭がデカいから、ちょうどバランスが良くなる」

 ってことはなんですか、周りから見れば普段の靴の時の方が違和感ありありってこと???

 まぁいいや、今さら。

 装備の充実とともに、金沢で過ごす宿も決まり、滞在中に訪れるべきお店も観光地も次々に具体化していく。

 心はもう、冬の日本海へ。

 待ってろガス海老のどぐろ炙り!!

 そのためには。

 体調、なかんずく胃腸方面は、なんとしてでも生涯最高状態を保っていなければならない。
 はるばる金沢まで行って体調悪化のために何も喉を通りませんでしたなんてことになったら、

 「イスカンダルまでたどりついたけど、コスモクリーナーDはありませんでした」

 どころの話ではない。

 現地に着くまでは、とにかく節制摂生の節摂生活をするのである!!

 …………と、固く心に誓っていた我々だったのだが。