15・回転寿司は廻らない

 

 近江町市場内には、寿司屋さんだけでもお店の数は相当あって、海鮮丼をウリにしている店も含めればそこらじゅうにあるといってもいい。

 なので、軽く飲み食いする程度であればテキトーに入ってもきっとどこでも美味しいのだろう。

 それでも一応下調べをしていたので、目指すお店の候補がいくつかあった。

 で、結局決めたのがここ。

 近江町市場寿し本店。

 市場内に支店がもう一軒、そして海鮮丼専門店もある大手だ。
 それにしても、入り口には「職人が握る」と謳われているのだけれど、じゃあ他の店はどういう方が握っているんだろう??

 ちなみに我々は、この20年間で回転寿司屋さんに入ったことは一度もない。

 そもそもお寿司屋さんなんていったら、尋常ならざる決意を擁して4年に1度行けるか行かないかという遥かな高みなので、そのお手軽廉価版とでもいうべき回転寿司屋のほうが、より身近なポジションであることはもちろんである。

 でもなんとなく、ビールは高いから発泡酒で……的な、なんともいえないビミョーな品下がり感が否めず、これまで長い間入店する機会がなかった。

 しかし金沢で地物のネタをいただけるとなれば、ビミョーな品下がり感から大きくジャンプアップした存在に変身。
 朝酒のお供に軽くお寿司でも……という時にはとても便利な存在だ。

 開店間もない店内にはすでに2、3人のお客さんがいて、朝からいい感じで飲んでおられた。

 ここにもやはり、朝からいい感じで飲んでいる人が。

 まずは喉の渇きを癒すため、瓶ビールで乾杯。
 時刻は午前10時前。
 この背徳感がまた素晴らしい。

 さて、回転寿司といえば、カウンター上でお寿司がクルクル廻っているものと思いきや、廻っているのは煮魚の皿だけで、お寿司の姿はどこにもない。

 どうやら混雑時以外の時間帯は、新鮮な状態で食べてもらうために廻さないようにしているらしく、お好みでオーダーすればそれを握ってくれるようだ。

 というわけで、ウワサにたがわぬ数多いメニューからまずはこのあたりを。

 

 のっけから「さわら」すなわちカジキ、そしてバイ貝。

 一人で来ていたらそれぞれ2貫ずつ食べなきゃならないところながら、二人でいると1貫ずつでいいから、リミットまでにより多くの種類をいただくことができるので便利だ。

 そうはいってもバカのように食べまくるつもりもないので、早めに食べたいモノに突入しておこう。

 出たッ!!ガスエビ!!

 麗しのエビちゃんが、1貫に2尾も載ってご登場。
 それにしても、この時はたしかに美味いッ!!と思って食べていたはずなんだけど、その記憶が非常に曖昧になってしまっている。

 その理由がこの夜予定されている旅のクライマックスにあるんだけど、それについてはまたのちほど。

 ガスエビに続いて頼んだ鰤トロは、ただでさえ脂が乗っている魚のトロだけあって、脂を食べているような感じ。

 しかし、満を持して登場してもらった……

 ……のどぐろ炙りは、まったくもって実に美味い。

 前日に一度山さん寿司でいただいていたので、落ち着いた心持ちで味わうことができた。

 ちなみに、山さん寿司で1貫500円だったものが、廻らない回転寿司では2貫で550円。

 しかしその分、ネタの有り様にはやはり違いがあるのは当然だ。

 安価にするためリサイズして2貫と、価格で妥協しない1貫と、どちらを選ぶかは好みの問題ながら、お味的には妥協しないほうが美味しい気がした。

 しかしそれも、今宵のクライマックスにて曖昧な記憶になってしまうのである。

 1合ずつ頼んだ加賀鳶をやりながら、さらに…

 煮穴子と……

 

 真たらをお願いした。

 穴子星人としては、穴子がある以上はずすわけにはいかない。
 しかしその美味さもさることながら、沖縄ではいただくこと不可能に違いないタラのお寿司、載せられている肝と一緒にいただくと、得も言われぬ心地よさ。

 この朝最大のヒット賞だった。

 いいコンコロもちになった。
 なるほどたしかに、ネタの多さはものすごい。

 入店当初は売り切れ表示だったマグロの中落ちが、途中からOK状態になっていたのも面白かった。
 スタッフの子が、板さんから何か頼まれていたのは耳に入っていたんだけど、それがまさか、市場でマグロを仕入れてくるミッションだったとは。

 仕入れが済んで準備が整ったタイミングで、

 「マグロの中落ち入りましたぁ〜〜!!」

 と板さんが声を掛けると、さっそく僕も私もと手を上げてオーダーするお客さんたち。

 けっこう常連さんがいらっしゃるようで、店の作法その他すべて熟知しておられる気配だった。

 作法といえば。

 最初から酒を飲むつもりだったから気にならなかったものの、そういえば寿司屋にはつきもののお茶が無い。
 セルフサービスのコーナーにはおヒヤしかないし、はてさてお茶はどうなっているんだろう…

 …と思っていたら、隣りに座ってサササと準備を整える常連さんっぽいお客さんたちを見て判明した。

 こういうシステムだったのだ。

 目の前に並んでいる湯呑にこれまたテーブルに備えてある粉末茶を入れ、黒いボタンに湯呑みをグッと押し当てれば、上から湯が出てきてお茶の出来上がり。

 ………って、こんなの今どきの回転寿司じゃあ当たり前なんだろうけど、なにしろこの20年間入ったことがないから、20年ぶりに電車の切符を買おうと思ったらどこにもボタンが無くて困った、的なカルチャーショックなのである。

 おかげで、目の前にあったこのマシーン、いったい何が出てくるんだろうと首をひねっていた僕は、ひょっとすると頼めば生ビールが出てくる装置??などと間抜けなことを夢見ていたくらいだ。

 というわけで、21世紀になって初めて入った回転寿司は、とっても楽しい社会見学でもあったのだった。