余録4・鶴橋焼肉天国

 

 大阪の実家に到着した翌日。

 帰省のたびにいただく懐かしい母特製朝食を堪能した後、昼前頃到着をめざし、我々は大阪市内へと向かった。

 目指すは鶴橋。

 駅から降りた途端にキムチの香りがするという、魅惑の土地である。

 実家から鳥羽に向かう際、近鉄に乗り換えるために駅を利用したことはこれまで何度かあった。
 けれど鶴橋駅で降りたのは初めてだ。

 いやはや、ホントに、聞きしに勝るいきなりキムチ。

 そしてあたりに漂う焼肉だかなんだかわからぬ食べ物の妖しくも濃厚な香り。

 ここに超絶二日酔い状態で来てしまったら大変なことになりそうだけど、空前絶後の空腹状態で来たら、たちまちヨダレの失禁状態になること必至であろう。

 そんなオドロキとは別に、ひと目見たときは一瞬我が目を疑った景色もあった。

 え゛ッ!?

 改札を出たら本屋さんですか??
 というか、本屋の入り口が改札ですか???

 こういうの、ありなんでしょうか………。 

 様々な衝撃を受けつつも、少しばかり時間が早かったので、迷路のような鶴橋商店街をプラプラしてみた。

 おお、まさに異国情緒。

 なんか、こういう雑駁な雰囲気は妙に肌に合う。
 でまた、屋台で売られている焼肉が実に美味そうなのだ。

 こういう屋台でいろいろ買って、どこぞの空地でビールとともにいただく………ってのも実に魅惑的である。
 しかしそこまで楽しめる鶴橋マスターではないので、グッと我慢の子であった。

 チマチョゴリを買っても使い道はないけれど、キムチは是非お土産に買って帰ろう。

 ところで、今回ふと鶴橋に行こうと思い立ったのはこの日の朝のこと。
 当然ながら事前の情報はまったく持ち合わせてはいなかったので、マッサンを観ながら父のパソコンを借りてチョコチョコっと調べ、目指す店を決めた。

 ここ。

 鶴橋焼肉 金太郎。

 市場がコリアンコリアンしているわりには、焼肉店はどこも日本の焼肉店ってな感じ。
 ここもそういう意味では和風(?)ではあるものの、この店、完全にガード下なのだ。
 外にいても店にいても、電車が通過するごとにガタンゴトン……、時にはホームのアナウンスまで響き渡る。

 その場末感が素晴らしい。

 そして最も重要な要素が、

 安いッ!!

 ランチメニューの数々が、けっこう満腹になる量でありながら1000円しないのである。

 しかも生ビールは290円!!

 素晴らしい。

 まだ昼前だからか空いている店内で、まずは乾杯。

 お肉よりも先に出てくるナムル4種盛合せを肴にグビリ。

 さすが本場(?)、美味い。

 そうこうするうちに、っていうほどの時すらおかず、いよいよお肉の登場!!

 おお、たちまち駆けのぼるボルテージ!!

 これにごはんと味噌汁とキムチとサラダがついて1000円しないのだから(上の写真の肉は2人分だけど)、一部で見受けられる7〜800円もするバカ高い沖縄そばっていったい何??ってなもんだ。

 素晴らしいランチメニュー。

 僕が頼んだのは、ツラミ・ハラミ・ロースが勢揃いしたスタミナ定食。
 オタマサは、ホルモン6種(この日はてっちゃん・せんまい・コリコリ・レバー・ハチノス・ハツかマメ)揃い踏みのホルモン定食。

 このホルモン系の充実度ときたら!!

 沖縄県内でも、本部牛だ伊江牛だ、石垣牛だというメジャーどころの肉を食わせる店はたくさんある。
 輸入肉だっていくらでも購入できる。

 でも、牛汁をいただくならいざ知らず、焼肉でこの内臓系を求めるとなると、特に北部では選択肢がほぼないといってもいい。

 なのでこのあたりのホルモン系お肉は、我々的にはかなり新鮮な気持ちでいただけてしまうのである。

 でまたこれが……

 旨いッ!!

 その昔笑福亭鶴瓶が「焼肉はや」のCMで、

 「うまいもんは旨いッ!!ちがいますか?」

 って言っていたとおり。なんの異存もございません。

 当然のように生ビール2杯目に突入。

 入店当初は他に1人2人いる程度だった店内は、いつしかほぼ満席状態に。

 我々の隣のテーブルにいらっしゃったのは、70前後のご婦人お2人連れだった。

 見るともなくテーブルの上をチラ見すると、どう見ても我々よりもたくさん召し上がっているご様子。

 実家の母は、昔から「焼肉」となると燃える人で、齢70半ばになった今でも、いまだに「焼肉」に情熱を燃やし続けている。

 ただ、父が体を壊してからはなかなか焼肉屋ともいかず、不完全燃焼のような青い焔をプスプスとほとばしらせている。

 隣のご婦人たちもやはり焼肉カモーン!な方々のようで、高齢者が召し上がるには量が多いんじゃぁ……という大きなお世話的隣のテーブルの心配をよそに、実に軽くペロリと平らげてしまった。

 大阪のおばちゃんたちって、元祖肉食系なのかもしれない……。

 いやあ、うまかった。

 鶴橋に来ようと思い立ったのは正解だった。

 食後、腹ごなしも兼ねてもう一度鶴橋商店街をプラプラし、目をつけていたお店でキムチを購入。

 どれもこれも旨そうなのだ、キムチが。
 結局オーソドックスな白菜のキムチを買ったところ、おばぁは大根のキムチをおまけで入れてくれた。

 ありがとう!!

 でも、キムチを買って電車に乗っても大丈夫なんだろうか??

 その点、おばあはさすがプロだった。

 2重にした袋はキッチリ結ばれており、1ミリも、ホントに1ミリも外に匂いが漏れ出てこないのだ。

 さりげないところにプロフェッショナルのワザがある。

 このキムチ、自分たち用のお土産として購入したので、水納島に戻ってきてから楽しませてもらっていた。

 そんなある日、機関長の来襲が。
 例によって肴を持ってきてくれるので、うちからも多少気の利いたものを…ってことで、このキムチを機関長には何も言わずに出してみたところ、 

 「ん?このキムチ、美味いな!

 さすがグルメ機関長、違いのわかる男である。

 そのあと、ヒラヤーチーのようなチヂミをその晩の肴用に買い求めたりしつつ………

 ……我々の人生初鶴橋探訪は終了した。

 ウーム鶴橋、侮りがたし!!

 金沢へはおいそれとは行けないけれど、鶴橋だったら帰省のたびに来ることはできそうだ。

 よりいっそうディープな世界を探訪してみたいものである。

 鶴橋マスターのパッション&ドラゴンさん、ご教示よろしくお願いいたします!!