1・まさかのUNDER CONSTRUCTION

 地球温暖化にともなうスーパーメリハリサバイバル気象のこの時代、海を仕事場としている我々が、これからもこれまでと同じように過ごしていけるわけはない……

 …ということは、かれこれ10年以上前から覚悟はしていた。

 ただし覚悟はしていても対処していたわけではないから、2019年シーズンのように、7月中旬以降夏はボロボロ、9月10月に合計4つもあった連休でなんとか回生をと思ったら、台風や時化で蹴飛ばされて木っ端ミジンコ。

 これではもはや暮らしが成り立つはずもない。

 ましてや毎オフ恒例の「旅行」など、発案と同時に問答無用で一刀両断、ありえない状況だ。

 それはわかっちゃいるけれど。

 年に一度の旅行すらできないだなんて、いったい何のためにシーズン中毎日毎日働いているのか。

 そうだ、先立つものは無くとも後立つものはきっとあるはず。

 というわけで、まだ見ぬ来年の売り上げから旅費を捻出することにした。  

 ま、家計簿的には愚かといえば愚か、愚の骨頂ではあるけれど、お金がないからと消費税をドーンと上げておきながら景気対策経済対策と称して13兆円規模の予算をバラ撒くどこかの国と大して変わらない。  

 そうはいっても華々しく海外雄飛できるほどの予算があるはずはなし、せいぜい帰省を絡めたプチ旅行、今オフはどこに行こうか。  

 そうそう、昨オフの山陰ツアーがきっかけで開眼してしまい、大河ドラマの毛利元就をついに全話観てしまった我々には、次なる目的地が生まれていたではないか。  

 厳島神社。  

 ワタシは小学6年生時の修学旅行先が安芸の宮島だったから一度行ったことがあるので、松島、天橋立、そして安芸の宮島のいわゆる日本三景はすべて制覇している。  

 しかしオタマサは厳島神社のみ未体験。  

 では日本三景達成を目指し、目的地は安芸の宮島!!  

 まずは手軽に基礎知識を固めるため、さっそく那覇のジュンク堂で旅行コーナーを物色し、広島方面のガイドブックからよさげなモノをチョイス。  

 厳島神社を訪れている回が収録されている「ブラタモリ」第9巻もゲットした。  

 もちろんJTBの時刻表も忘れない。  

 これで初期準備は万端、あとは細部を詰めていくのみ。  

 おお、そうかそうか、宮島は穴子の天国なのかぁ!!  

 …と、かつて石巻の鮮魚店にてアナゴに開眼して以来アナゴ星人になっているワタシの胃袋は、早くも穴子待機態勢が確立されようとしていた。

 が。

 小さなガイドブックに繰り返し繰り返し登場する厳島神社の大鳥居の写真に盛り上がりすぎたあまり、随分経ってからようやく気がついた片隅の注意書き。  

 はたしてそこには……  

 え゛ッ!?  

 それって……きっとひと月やふた月で終わるようなもんじゃないですよねぇ?  

 紹介されている公式サイトその他を恐る恐る調べてみると(詳しく知りたい方はこちらこちらをどうぞ)……    

 なんてことだ、肝心かなめの大鳥居は、組まれた足場と防護シートで完全に覆われ、おまけに作業の便のために陸から鳥居まで仮設桟橋で繋がっているではないか。  

 こういう歴史的建造物にはつきものの大修復、名付けて令和の大改修は、よりによって2019年から始まって、このあと数年続くようだ(なにしろ工期は「未定」とある)。  

 ま、この先生きている間に二度と見られないシーンであろうことは間違いないだろうけど、年に一度の旅行、わざわざ工事現場を見に行っている場合ではない。  

 てなわけで、すんでのところで大事なことに気づき、目的地の進路変更を余儀なくされたのだった。

 安芸の宮島は却下。

 では……

 えーと……どこに行こう?

 今オフの旅行では、目的地以前にオタマサにはある野望があった。

 いまだ未踏の、福岡からローカル鉄道での中国路である。

 そのため安芸の宮島計画を進めていた際も、まずは福岡空港に降り立ってから、とスタート地点を決めていた。

 どうせだったら、そのルートで行けるどこか未踏の地はなかろうか。

 そんなときふと思い浮かんだのが、前年(2018年)に放送されていたブラタモリの萩編。

 番組でのお題は「萩はなぜ世界遺産になった?」という、さほど興味を引かれないものながら、番組自体は相変わらずのブラタモリ節で、たいそう面白かったのだ。

 恥を忍んで告白すると、なにしろワタシ、萩が海辺の街であることをまったく認識していなかったくらいだから、萩の土地の成り立ちから地形からすべて初めて知ることだらけ。

 いや、もちろん関ヶ原の役ののち長州に押し込められた毛利家の本拠になったとか、萩焼が昔から有名なことなどは知識として知ってはいた。

 でも大阪で暮らしていた子供の頃のワタシにとって萩といえば、いつも津和野や秋吉台などとセットになっている「内陸の旅行先」というイメージだったのだ。

 くわえて、幕末になってにわかに沸騰する長州藩も、倒幕までいよいよ煮詰まった頃に出てくる地名といえば、山口だとか下関だとか瀬戸内の島々だとか、萩と関係ないところばかり。

 大河ドラマ「花燃ゆ」を観ていないワタシにとって、「萩」の出番はまったくなかった。

 そのためさほど意識しないまま、長い間「萩=内陸」と思い込んでいたらしいワタシ。

 それが例によって地学的方面からもアプローチするブラタモリによって、今さらながらその誤解に気づき、萩が興味深い土地になっていた……

 ……ことをここにきて思い出した。

 そこで、ダメ元で次善の策としてオタマサに提案してみると、これが思いのほかオタマサも乗り気に。

 もっとも彼女の場合、いったい萩のどこに琴線があったのかといえば、最大の注目ポイントは萩までのルート。

 そう、福岡からローカル線で行くとなると、山陰本線西端を延々進むことになる。

 こうなるともう、彼女の今回の旅行目的はほぼほぼコンプリートだ。

 とはいえ那覇空港を発って福岡経由でその日のうちにローカル線で萩まで、というのはあまりにも無理があるから、途中でワンクッション置くことにした。

 そうだ、門司港にも行こう!

 途中というか、我々の経路的には行き止まりの枝道に入ってしまうものの、門司港はこれまた人生未踏の地である。

 ちょこっとリサーチしてみただけでも、門司港、なにやらレトロレトロして楽しそうな雰囲気が満載ではないか。

 そんなこんなで、目的地は決まった。

 旅程も行程も決まった。

 飲みに行くべき店もロックオンした。

 あとはもう、出発あるのみ!