2・ピッコロ ロッソ

 今回は那覇空港出発が午前9時40分なので、その日に島を出たのでは間に合わない。

 となると飛行機に乗る前日に島を出ていなければならないのだけど、真冬のこの時期は連絡船が欠航する海況になりやすいから、変更不可のエアチケットだと、場合によっては搭乗日の1日前、2日前には島を出なければならなくなる。

 それはそれで甚だ不便だから、出発日近辺の海況予報を戦々恐々と見守る日々が続くことが多い。

 ところが今回は、どういうわけだか神の恵みか、一週間も前からまったく心配する必要がないおだやかな日々が続いてくれた。

 シーズン中は翻弄しまくってやったから、せめて今回くらいはおとなしくしておいてやろう……

 …ってことなんでしょうか、海神様。

 だからだろうか、島を出た連絡船の窓から、やや遠目ながらもザトウクジラのブローや背中も何度も見せてくれた海神様。

 おかげで予定どおり前日に島を出て、その日は秘密基地泊。

 翌朝6時に出発し、米兵による事故渋滞に遭遇することなく、途中朝焼けや朝日を眺めつつ、8時前には那覇空港に到着した。

 まずは大きな荷物を預けて身軽になろうと、いつものように荷物カウンターに行くと……

 あれ?

 なんだか様式が変わってるぞ??

 なんと那覇空港の全日空の機内預け荷物カウンターに「自動荷物預け機」が導入され、これまでグランドスタッフのおねーさんたちがズラリと並んでいたところが、そのマシーンがズラリと並んでいるだけになっているではないか(詳しくはこちら)。

 スーパーのセルフレジですら使い方がわからずオタオタするというのに、セキュリティだなんだとうるさい機内預けの荷物を自動機でって……。

 途方に暮れかけると、そういうヒトが一杯いるからだろう、グランドスタッフのおねーさんが手取り足取りちゃんと説明してくれた。

 朝早いこともあってやたらと空いていたからよかったものの、時間短縮のために導入されたこのマシーン、日本のあらゆる空港が同じようになるまで、むしろ余計に時間がかかるんじゃね??(ちなみに帰りの伊丹空港のANAカウンターは従来のままだった)

 親切なグランドスタッフのおねーさんに尋ねてみたところ、この機械は昨年の11月から導入されたという。

 羽田や新千歳など、日本各地の大きな空港ではすでにおなじみなのだろうけど、いきなりだとビックリするなぁ……。

 ところで、この機械にとって代わられたグランドスタッフの方々の雇用は、どういうことになってるんだろう??

 定刻どおり離陸したANA機は順調に飛行を続け、

 「福岡空港には、定刻よりも10分早い11時10分に到着する見込みです」

 というCAさん(時節柄全員マスク装着)のアナウンスが。

 その先の行程が控えているだけに、早く着くのは大変ありがたい…と喜んでいると、

  「福岡空港上空が混んでいるため、現在管制塔からの着陸許可待ちです」

 ということになり、結局定刻より数分遅れての到着となってしまった。

 その福岡空港への着陸態勢に入っていたころ、窓外に不思議的地形が見えてきた。

 細長く伸びた半島状の土地の先から、さらに細く伸びる道、そしてその先には島が。

 位置的に、これはひょっとして海の中道じゃね?

 ということは、砂州のような細い道で繋がっている先にあるのは、志賀島か!?

 漢委奴国王と刻まれた金印が出てきた島じゃないか。

 おお、絶好のシャッターチャンス!!

 ……を、ボーッと眺めただけで終わってしまった。

 撮れなかったのは残念だけど、いやあ、初っ端からいい景色を観させてもらった。

 無事に荷物を受け取った我々が目指す先は、地下鉄。

 滑走路が1本のために待たされることはあっても、福岡空港の何が便利って、福岡県の中心地であり公共交通機関の要所でもある博多駅まで、地下鉄でたったの2駅ってところ。

 おかげで、11時20分の空港到着から目当ての列車の博多駅発まで、正味1時間ほどしかなくとも、余裕で……

 12時25分発門司港行き区間快速に乗ることができる。

 その道中1時間30分ほどとなれば、もちろん飲み鉄。

 以前までなら、特急でもない車両で飲食できるような座席があるんだろうか…といささか心配したものだったけど、このところローカル線を利用する機会が増えているおかげで、まぁだいたい大丈夫だろうと思えるようになってきた。

 となればここ博多駅にて、さっそくご当地の酒と肴を物色……

 ところがここにモンダイが。

 前夜は本部の秘密基地泊だったことはすでに触れた。

 で、前日なのだからおとなしくしていればいいものを、なまじ畑で野菜がガッポリ採れる季節なものだから、マサエ農園野菜たっぷりサンドイッチ&ワイン祭りになってしまった。

 そのサンドイッチの材料を完食できなかった我々。

 いつものワタシなら無理をするところ、さすがに50を過ぎて自重という言葉が辞書に載るようになったのだ。

 ところがオタマサは、もったいないからということで材料をすべてサンドイッチにしてしまい、いったいどこにピクニックに行くの?的お弁当持参状態になっていたのである(保冷バッグに入れている)。

 食べる機会が無いならないで、いざとなれば捨てるしかないということで。

 でもせっかくサンドイッチにしたものを、というか、なんだかバチが当たりそうだから、この道中はピクニック気分でサンドイッチ♪

 …と妥協したワタシ。

 するとどうだ、オタマサはといえば、

 博多鶏弁当なるご当地アイテムを買ってやんの。

 「だんなも少し食べるでしょ?」

 少しかよ!

 ワタシはといえば……

 前述のとおり、マサエ農園野菜や、いつもよりは多少奮発したスライスチーズといただきもののハムをカイトのバゲットで挟んだサンドイッチ。

 さすがにこれで地酒でも…という気にはならない。

 そんな食事情のおかげで、ちょっとした発見があった。

 オタマサは弁当にビール、ワタシはとりあえずハイボールでも…と買い込んだ飲料に加え、オタマサが罪の意識を感じたのか、テケテケテケ…と売店に足を運んで買ってきてくれたのがこちら。

 タヴェルネッロ ピッコロ ロッソ。
 

 紙パック入りのワインが大小さまざま流通しているのは知っていたけれど、手のひらサイズの小さなワイン、どうせ赤玉パンチ級の甘い甘いブドウジュースなんだろう……

 …と思いきや。

 グラス2杯分相当とホントにピッコロなサイズながら、本気の赤ワインだった。

 そのライトなお味はサンドイッチにピッタリマッチング。

 蓋の開け閉めは自在だから飲みきれなくても大丈夫と安心していたのだけど、すっかり飲み切ってしまったではないか。

 ワインのおかげで勢いがつき、絶対食べ切れないだろうと思われたサンドイッチもしっかり完食。

 50を過ぎて得た自重はどこに行ったのだ。

 いやあ、気持ちいなぁ、門司港行き区間快速。

 ちなみに車内はこんな感じ。

 博多からしばらくはベッドタウンっぽい都会っぽさがあった窓外の景色も、やがて……

 のどかぁ〜な景色に変わってきた。

 博多から少し離れるだけで、景色は随分広くなる。

 そしてきっと、博多から少し行くだけで、そこらじゅうに温泉があるのだろうなぁ…。 

 いいなぁ、九州。

 そんな車窓からの景色を眺める窓には……

 旅のお供がお控えなすっているのだった。

 のどかな景色は、やがて重厚な工業地帯っぽいゾーンになってきた。

 これはもしかして、小学生の頃に社会で習った「北九州工業地帯」なのでは??

 聞くところによると現在はもう往年の勢威はなくなっているそうで、近年の教科書にも「北九州工業地域」というランクダウンされた呼称で記載されているそうな。

 でも「八幡駅」なんて駅名を目の当たりにすると、思い浮かぶのはやはり「八幡製鉄所」。

 四十数年前に学校で習っていた頃には銀河の果てと同じくらい遠く感じた土地を、今まさに通過中。

 ところで、進行方向左側の座席に座っているのは、例によってオタマサ思い込み情報で「海が見えるところがあるはず」という理由による。

 しかしこれまた例によって、残念ながら最終盤になるまで海は遥かに遠かった。

 そのかわり、新幹線と線路がかぶるところくらいまで来ると、小倉城が見えていたはず。

 ……右側に。

 小倉城といえば、幕府主導による第二次長州征伐の際、小倉口方面の戦いのクライマックスで大炎上した城だ。

 萩とは遠く離れた土地ながら、長州とは相当深い縁があるお城だけに、ああ観ておきたかった小倉城。

 …ということを知ったのは後日地図を見直してみたときのことなので、このときはノーテンキにいいコンコロモチになっていただけ。

 小倉城には気づいていなかった代わりに、乗っている時から不思議だったのか、この線路の呼称だ。

 JR鹿児島本線なんですね、ここも。

 隣を走っている新幹線は山陽新幹線で、在来線は鹿児島本線って………いったい北九州の立場はどうなっているのだ。

 そうこうするうちに門司駅を過ぎ、いよいよ線路は鹿児島本線の北側どん詰まり的行き止まり終着駅、門司港に到着。

 焼カレーのふるさと門司港に、ついに到着!!