7・カレーなる門司港
そういえば、日中散歩していた際に、あれば立ち寄ってみようと思っていた「地元のスーパー」が見当たらなかった。 一心太助で会計をする際ににぃにぃに尋ねてみると、ここをちょっと行ったところに1軒ありますよ、と耳寄りな情報を教えてくれた。 お会計を済ませ、その「ちょっと行ったところ」を目指す。 どっちの方向へ「ちょっと」なのかビミョーだったものの、まだ我々が行っていないところに違いないから、さらに海から離れる側に足を延ばしてみると……
あった。 かなり大きいこのスーパーの名は、その名もHalloDay。 結局買ったものといえば九州生まれの牛乳だけなんだけど、現地のスーパーの品揃えを観るのを趣味としているオタマサだから、こんだけ大きいと見どころも多い。 ちなみに牛乳はこれ以前にもファミマで買っていたから、いつの間にか九州の牛乳トリオになってしまった。
九州には牛乳はいろいろある。しかし残念ながらというか当然ながらというか、門司産のものはない。 特産の牛乳は無いけれど、門司港といえば言わずと知れた焼カレーの本場である。 門司港が門司港レトロとして売り出してからグンと伸びた客足は、焼カレー押しでまた1段階客足を増やすこととなったそうで、今では周辺に星の数ほど焼カレーの店がある。 となれば、繁華街にはつきものの「締めのラーメン」的に、夜遅くまでやっているカレー屋さんがあるか…… …と思いきや、そもそも日帰り客のほうが圧倒的に多いからだろうか、それともカレーを夜遅くに食べる文化がないのだろうか、焼カレーをウリにしているお店のほとんどがランチタイムと夕飯タイムがもっぱらの営業時間で、夜9時以降に開いている店がまったくといっていいほど無い。 昼時を随分過ぎてからの到着、夜は居酒屋、そして明朝はまた別の予定という、たった1泊の滞在になる我々には……というか、オタマサはカレーはどうでもいいヒトなので……ワタシには、滞在中に焼カレーを賞味する機会が無い…… …と思われたのだけれど。 捨てる神あればクロード・チアリ、調べてみると、営業時間が夜10時までとなっているお店がわずかながらあるじゃないか。 それも、一心太助から歩いてすぐのところにある店で、現地の方がおススメするいくつかの店のひとつでもある人気店。 9時前には一心太助を出たから、スーパーをうろついてからでも9時30分頃にはお店につくだろう。 心は早くも焼カレー。門司港の夜は焼カレー。待ちに待ってた焼カレー。 一心太助までの行きがけにオープンしていることは確認していたので、心躍らせつつ意気揚々と件の店に来てみると…… Closed。 あれ? ギリ閉店とかじゃなくて、もう圧倒的に閉店している。 ひょっとして、冬期は夜9時までとか?? なんてことだ、リサーチしたかぎりでは唯一無二の夜10時まで営業の店だったのに……。 明日にも地球が滅亡してしまうくらいの衝撃とともに、その場を去るワタシの足取りは重い。 ホテル近くまで戻ってきてみると、同じく地元で人気を誇る焼カレー店の入り口に「Open」のネオンサインが。 一縷の望みを抱いてドアを開けてみると…… 「すみませーん、もう閉店です」 やっぱり…(Openネオン消しとけよ!)。 門司港滞在中唯一の焼カレーチャンスが失われてしまった…… 絶望の淵をトボトボと足取りも重く歩いていたワタシの姿は、ボロボロの服を身に纏い、南極目指してクレーターの脇を歩く草刈正雄状態だったことだろう。 すると、その様子を見るに見かね、小走りに先を行ってサーチしていたオタマサが「だんな!」と呼んでいる。 指し示す先には……
どう見ても営業中にしか見えない焼カレーのお店が!! BEAR FRUITS という、その名からカレー屋を連想するのがムツカシイ店だった。 店名はともかく、ドアに貼られてある営業時間を見ると、なんと夜10時までやっているらしい。 でかした、オタマサ!! 事前リサーチではまったくノーマークだったけど、なにやら有名人も絶賛しているようだ。
ワタシの評価基準にはまったく関与しない謳い文句ながら、上戸彩さんもきっと夜の門司港を彷徨っていたに違いない(< 違うと思います)。 いやホント、まだ食べてないけど、この時間に営業してくれていただけで大絶賛ですよ、ワタシは。 店内には他にも数組客がいた。 ラストオーダーは9時30分だというので、ただちに注文。 オタマサはまさかこれ以上カレーを一人前食べられないので、一杯のかけそばのようで恐縮ながら、最もオーソドックスなメニューをひとつだけお願いした。 すると店のにぃにぃは、何もお願いしていないのに取り分け用の皿を持ってきてくれた。 ちょっとしたことながら、こういうことができないヒトが圧倒的な世の中になってしまっている今、居酒屋のスタッフといい、カレー屋さんといい、なんだか人材豊富だなぁ、門司港。 カレーは1人前ながら、ビールは2人前。
ホテルの部屋から見えるところにある門司港地ビール工房がこのほど復刻させたという、門司が誇る往年の地ビール、サクラビールだ。
大正時代に世界を席巻したという門司のビールがどういう味だか知らないから比べようもないけれど、そんじょそこらのヘタレ地ビールとは明らかにひと味違う、本格ラガーであることは間違いない。 ま、絶望の果てから甦って「復活の日」を迎えたばかりのワタシなので、今この時なら何を飲んでも大絶賛だったろうけど。 …とサクラビール生を飲んでいるところへ、ついに来ました焼カレー!!
まるでできたてのグラタンのように、器が殺人級に激熱の焼カレー、端の方では別府のボウズ地獄のようにグツグツ茹だっているではないか。 焼カレーというものがいったいどのように定義されているのか知らないけれど、卵が投入されているのが定番らしく、このチーズたっぷり、スパイスモリモリの海の中にもやはり、卵が投入されていた。 ともかくもひと口。 うーん、ヒデキ感激。 やっぱ美味しいなぁ、カレー! キレンジャーとしては別に「焼き」じゃなくてもいいんだけど、それを言っちゃあおしまいだし、なによりも本場も本場、ご当地でいただいてこそ。 それにしても、なんでこれをシメにいただく文化が花開かないんだろう? 飲んだ後は焼カレー。 …というような話をしていてふとオタマサが気がついたことが。 これって、栄町のブーシェの「ワインに合うカレーライス」にそっくりなんじゃ(ビジュアル的な完成度は、ブーシェのカレーのほうが高い)……? ひょっとしてブーシェのマスター、門司港に来た?? そんなこんなで、あわや焼カレー難民になりかけたところ、救いの手を差し伸べてくれたBEAR FRUITS。 これでもう上戸彩とワタシは、焼カレー兄妹だ。< 他に何万人もいますけど? 身も心も満たされてお店をあとにする。 この店は門司港駅の目の前だから、店を出ればそこはもう門司港駅の広場だ。 すでに紹介したとおり、ライトアップされたレトロ駅舎が美しい。 その近くの旧大阪商船の建物も……
並木も…
そしてホテルまで……
イルミネーションで豊かに彩られている。 先ほどまでの打ちひしがれたワタシには嫌がらせにしか思えなかったこの光に満ちた景色が、満ち足りた心で眺めるとパラダイスのように見えるのだから、ヒトというのは勝手なものだ。< あんただけなのでは? 駅構内のファミマは早々に閉店しているけれど、駅前広場の前にあるファミマは24時間営業。 なのでそこで部屋飲み用の酒と肴を物色するオタマサ。< まだ飲むのか? ワタシもここで、重要な買い物をしておかなければならなかった。 実は昼間に門司港地ビールの瓶を購入したのだけれど、部屋に栓抜きが無かったのだ。 フロントに言えば貸してくれそうな気はするものの、この先も必要になりそうだから、この際栓抜きを買っておくことにした。 とはいえ今の時代、栓抜きなどがコンビニで扱われているのだろうか。 ジャスト栓抜きじゃなくとも、その機能がついた何かはあるかも… …とファミマでおねーさんに尋ねてみる。 でもそんなものを求める客など少なかろうし、たとえあったとしてもアルバイトのおねーちゃんじゃわからないだろうなぁ…… …と思いきや。 「あ、それでしたらこちらにありますよ!」 と言うやいなや、すぐさまその場に案内してくれた。 いやはや、居酒屋もカレー屋もそしてコンビニも、優秀な人材が豊富だなぁ、門司港。 やる気のある街には人材が揃う、ということなのか? 夕方の風呂上りに部屋で飲もうと買ってきたまま、飲めずに冷蔵庫で眠っていた門司港地ビール ピルスナー…
おねーさんのおかげで……
やっと飲めた♪ 窓の外ではブルーウィングもじもまた、パラダイス状態だ。
旅行初日にして早くも大満足の域に達し、そして門司港の夜は更けていく。
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