9・昼下がりの高知散歩

 登城を果たした後は、ひと運動したような心地良い疲労感もあった。

 こういう時は……甘いもの。

 おあつらえ向きに…というか、だからこそというか、追手門を出てすぐのところにひろめ市場があるので、そういえばスイーツ系もあったような記憶を頼りに徘徊して……

 塩&ミルクアイスゲット。

 ミネラルと糖分を同時に補給できる。
 ピンポイントな需要にも応えてくれるひろめ市場である。

 栄養補給を終えてエネルギー充填した後は、これまでまだ足を運んだことがない方面に向かいつつ散歩することにした。

 昨夜不思議的出会いを果たしたやまちゃんがあった場所は、昼間はまったく別の顔になっていた。

 ここに屋台があったなんて、なんだかタヌキに化かされているかのよう……。

 < そういや大将、どことなくタ○キちっくだったような?

 シーッ!!

 はりまや橋通りに出て、これまでの北限を越えて北へ行ってみた。

 ほどなく江ノ口川という街中の川になる。
 往時の高知城は、この川から堀の水を引き入れていたそうな。

 その江ノ口川に架かっている高知橋から見る南側の川辺は……

 上流側も下流側も、ここはどこ?ってなくらいにヤシ(ワシントンヤシモドキ?)が並んでいる。

 五島でもそうだったように、南国ムードを演出するにはヤシの木が欠かせないのだ。

 そのままさらにまっすぐ行くと、突き当りにあるのがこちら。

 JR高知駅。

 列車の発着数的にもう少し鄙びた駅を想像していたところ、2008年に高架様式にリニューアルされたそうで、駅前もなにやらハイカラだ。

 手前にはチンチン電車の高知駅前駅もある。

 この数日後に高知駅から汽車に乗る予定なので、当日右往左往することのないよう下見を兼ねて足を延ばしてみた次第。

 そんな駅前には、近年になってこういう像が建てられている。

 地元高知が誇る、武市半平太に中岡慎太郎、そして坂本龍馬の土佐郷士三羽烏。

 ポーズに統一性がないのは、それぞれ独立して建っている像をモデルにして造られているため。

 それぞれ若くして非業に斃れた彼らではあるし、一時は揃って土佐勤皇党に名をつらねていたのだから、トリオになるのもよくわかる。

 とはいえ、もし武市半平太が土佐藩によって獄に繋がれ切腹することなく歴史が動いていたら、はたして他の2人は歴史に名を残していただろうか。名を残したとしても、ここでこうして仲良く3人並んでいただろうか…。

 歴史に「もしも」はないというけれど、武市半平太がまず先に非業に斃れたからこその、駅前トリオのような気もする。

 高知駅の南側は広々とした空間で、傍らには観光案内所と土産物屋とイベント会場が合体したような施設がある。
 こうち旅広場というその施設には、NHK大河ドラマ「龍馬伝」で使用された坂本家のセットが、そのまま展示されているコーナーもあるらしい。
  
 また、幕末の土佐藩の志士たちの有名どころに扮した方々がゴレンジャー風にアレンジされた衣装に身を包み、「土佐おもてなし海援隊」を結成、タイムスケジュールに合わせてアトラクションをしているともいう。

 どちらも特に興味はないのでこの施設自体スルー予定ではあったけれど、るるぶ的ガイドブックには必ず載っているからその存在は知っていた。

 で、オタマサが駅構内のお土産屋を物色している間、どんなものかいなとその施設をチラ見して外に出ようとしたとき、自動ドアですれ違いざまに挨拶してくれたのが、ほかでもない、坂本龍馬役の紫色の衣装のにぃにぃなのだった。

 まったくもって全国区ではないにしろ、すでに随分前から高知についてリサーチしていたワタシにとっては、まぎれもない著名人である。
 だからってけっしてウレシイってわけではないんだけど、ともかく「偶然」に乾杯。

 そんなこうち旅広場の外にあるベンチが可愛い。

 知る人ぞ知る、アンパンマンの作者・故やなせたかし氏は、高知県は香美市出身の方。
 現在の日本なら坂本龍馬よりも知名度が高いといっても過言ではないアンパンマン、その作者ともなれば、高知県が放っておくはずはない。

 だからこうしてベンチにアンパンマンがいれば、駅の階段もアンパンマンだし…

 高知駅の発車お知らせメロディは、もちろんアンパンマンマーチ。

 はりまや橋にはアンパンマンとジャムおじさんが並んでいるかと思えば(反対側にはバイキンマンとドキンちゃんがいた記憶が)……

 アンパンマン塗れのチンチン電車も。

 香美市に行けばアンパンマンミュージアムだってあるほどだから、もう高知県は、少なくとも高知市近辺は、どこに行ってもアンパンマンだらけなのである(高知駅から後免経由で室戸方面へと続く土佐くろしお鉄道ごめん・なはり線の20駅の駅キャラ(?)は、すべてやなせたかし氏の手によるもの)。

 そのわりには、コンビニにも商店にもアンパンを盛大に売っているところは無かったなぁ……。

 駅構内に入ってみると、アンパンマンのような素朴なキャラとは趣を異にする、ヘンテコリンなものが祀られて(?)いた。

 なんじゃらほい?

 これ、その名をべろべろの神様とおっしゃるのだそうな。

 先述のとおり「おきゃく文化」がある土佐のお座敷遊びには「べろべろの神様」の唄があるという。
 それを歌いながらコマのようなものを回し、次に飲む人と杯の形状を決める「べく杯」と呼ばれる習慣があるのだとか。

 だから高知の方々にとってはべろべろの神様といえば馴染み深い存在のようながら、もちろんのこと誰も実物を見たことがない。

 どうせなら具象化されたものを拝んでみたい…という酔っ払いたちの  戯言を間に受けて  願いをかなえるべく 、3年前に登場したのだそうである。

 県出身のプロの作家さんによるデザインだそうな。

 口笛を吹き倒してついに眠りに入る寸前のごっくん隊隊長に見えなくもない、あるいは酔っ払って服を脱いでしまったオバQのようにも見えるこの神様を拝んだからといって、いったいどういうご利益があるんだろう……といささか疑問に思わなくもないけれど、とりあえず神様に頭を垂れておこう。

 べろべろの神様、今後ともよろしくお願いいたします……。

 駅での用は済んだので、いったんホテルに戻る。

 その途中、北から見ると江ノ口川の対岸に、木々がこんもりしているところがあった。
 ホテルからも見えていたその区画は、予想どおり神社だった。

 高知八幡宮という。

 神社にお参りするとなるとニット帽は脱がなきゃならないし手袋ははずさなければならないから、縁もゆかりもない土地の八幡宮に無理に入ることもないか……

 ……と思っていたのに、たまたま裏側から近寄ってみると、境内になぜか大きなバードケージがあり、中にはたくさんのセキセイインコがいる。

 神様は素通りしようとしたくせに、インコと見るや境内に入っていくオタマサ。

 仕方がないのでついていくと、その鳥さんたちはこういう事情によるものだった。

 他にキンカチョウもたくさんいた。
 ひょっとしてこの鳥さんたちの出どころって………はりまや橋バスターミナル駅近くの宮田小鳥店?

 鳥だけ見ていくってのも不作法なので、ちゃんとお参りしておこう。

 鳥居の外には節分祭のお知らせもあったところをみると、きっと由緒正しいご当地の八幡宮なのだろう。

 少なくともべろべろの神様とは別の世界にお住まいと思われる…。

 この八幡宮から南へまっすぐ100メートルほど行けば、そこはもうセブンデイズホテルプラス。 

 なんだかんだとこの日もたくさん歩いたけれど、ホテルでひとっプロ浴びて少しばかり昼寝をすれば、たちまちエネルギー充填120パーセント。

 神社に参ってシャワーを浴びて、これ以上何をどう清めようもないほどに身を清めた我々は、いよいよ本日のメインイベントを迎える。

 目指すは江ノ口川の北。
 駅まで行った際に、もちろん場所のチェックは済ませてある。

 暮れなずむはりまや橋通りを北上し、再び高知橋まで来ると、先ほど驚いたヤシの木の川辺が、さらに目を疑うシーンに変身していた。

 ドバイかどこかのリゾートですか????

 たしかこの建物は病院のはずなんだけど。
 いやはや、ヤシの木の演出力ってすごいなぁ……。

 ドバイにいるつもりになって、藤原紀香的にたたずんでみる。

 ……ドバイがヤバイになってしまった。

 さあ、灯もともしごろ、目指す今宵の目的地とは?