ヴィラメンドゥ海中レポート
ボートダイビング編 part 1

ブリーフィングは重要です 

 当初からダイビングはもっぱらハウスリーフで、と決めていたのだが、ハウスリーフで期待していたハナダイ類の群舞が見られなかったし、真紀さんがしきりにボートもおもしろいですよ、と勧めてくれるのに一本も潜らなかったら意固地な客みたい、ということもあって、ボートダイビングにもチャレンジしてみた。
 モルディブの多くのサービスがそうであるように、ここも、ボートダイビングでもバディ同士勝手に潜っていい。カメラをやる人にとってはうれしいシステムになっている。
 バディ同士でセルフダイビングを行うためには、スタッフによる事前のブリーフィングは重要である。
 乗船するスタッフが毎回毎回ホワイトボードにポイントの地形を手書きし、ポイントに到着する前にあらかじめゲストに説明をするのである。
 毎回手書きするくらいならあらかじめ作っておけば楽なのに。
 とは思うものの、毎回書くことによってポイントごとの知識が深まるのだろう。そもそもポイントが多すぎて用意しきれないのかもしれない。
 このとき、大半のゲストがドイツ人ということもあって、英語圏ゲスト(当然ながら真紀さんがいないときは日本人もそれに含まれる)が先に細々と、その後ドイツ人たちがリラックスムードで舳先に集まってブリーフィングしていた。
 英語というと身構える方もいるかもしれないが、ダイビングで使われる単語なんてだいたい決まっているので、そんなに難しいことはない。ゆっくりしゃべってくれるし、わからなければ質問すればいい。わかるまで教えてくれるはずである。そもそも僕ですら大丈夫だったのだから。

 ポイントに到着すると、カレントチェックということでスタッフの一人がドボンと飛び込み、その時の流れをチェックしたうえで船を位置につけ、ゲストがエントリーする。
 ボートはアンカーを打たず、ダイビングを終えて浮上したゲストを各個に回収していく、というシステムなので、事前の流れのチェックは欠かせないのだ。
 完璧なブリーフィング、入念なるカレントチェック。いやはや仕組みは完璧だ。仕組みはね。

 それにしても、いかにセルフダイビングが当たり前とはいえ、よくやるよなぁ、と思いましたね。だっていくらチェックダイブを済ませているといったって、では、ここはこういうポイントですから、流れはこうです、では行きましょう!ってお客さんを潜らせられるところが凄い。
 何かあっても、浮上すればドーニが回収するから大丈夫なのだという。耳が抜けなかったらバディ単位で浮上してドーニに回収してもらい、再度エントリーすればいいのだという。
 ファンダイバーたるもの、何かあったときに浮上する、ということくらいはできて当然、という大前提があるからなのだろう。日本じゃとても恐くてできないよね。
 それも、水納島みたいなポイントであれば、ある程度ゲストの力量がわかっていればセルフで行ってもらっても安心だけれど、けっこうガンガンに流れたりすることが多い海である。こんなの毎回毎回ゲストの心配をしていたら僕などはとても身が保たないだろう。
 逆に、心配なんてほとんどしていないに違いない。死んだらそいつが悪いのだ、と開き直っているはずである。ようするにホストもゲストも大人なのだ。

おまちどおさまのハナダイ群舞!!……ディグラティラ

 今回は4本ボートダイビングをした。
 落ち着いて写真を撮れそうなポイントを選んで行ったので、景観的にはどれも似たような感じだったけれど、とにかく4カ所に行ったからそれを報告しておこう。

 最初に行ったのはディグラティラというところであった。
 この時は我々にとって最初のボートダイビングだったこともあって、ドーニが出発する前に真紀さんがボートダイビングのルールやポイントの説明をしてくれた。
 このとき、最悪のケースの場合の決めごとを教えてくれるけれど、ようするに飛行機でスチュワーデスが救命胴衣の着方を演じるのと一緒で、そうそう起こることではないからビビルことはない。

 現場でカレントチェックをしたのはステフィーさんという女性スタッフだった。
 ドボンと一人で入り、しばらくのちドーニに戻ってきて、流れの具合をみんなに教える。
 その後ドーニを所定の位置につける。
 ドーニの船長はポイントについてはまったく関知していなかった。

 エントリーした途端、伊豆かここは、というほど濁っていたのでビックリした。ハウスリーフよりもはるかに濁っていたのだ。
 が、ティラ(つまり曽根のこと)までたどり着くと、溢れんばかりの魚の多さに呆気にとられてしまった。流れも地形もブリーフィング通りである。さすがではないか。

 グルクン類の圧倒的な多さもさることながら、ハウスリーフでは見られないハナダイ類の大群舞!!もう写真なんて撮るのはやめてただただ見とれていよう、と一瞬思ったほどである。
 インド洋版アカネハナゴイのフレームアンティアス(もしくはフレームバスレット)も腐るほどいた(写真上の魚)。あまりにいすぎて、どこのどいつを撮ったらいいのかわけがわからなくなってしばらくオロオロしていたものの、なんとか気を落ち着かせてパシパシパシと撮ることができた。きれいな魚だよぉ。
 一緒にエントリーした他のダイバーたちは、流れに乗ってあっという間に去っていったけれど、僕たち二人はとにかく残圧が100になるまでここにしばらくいよう、と示し合わせて、各自思い思いの場所で撮影していた。
 ふと気がつくと、周りにうちの奥さんの気配がない。濁っていて暗いからあんまり見えないというのもあったけれど、もしかして100までいよう、というゼスチャーをまったくわかっていなかったのではないか、と不安になってしまった。そういうときに限ってやや大きなブラックチップシャークが何度も何度も通り過ぎたりするのだ。濁っていると、巨大なイソマグロですら不気味である。
 そうこうするうちにうちの奥さんの姿が見えた。刺胞動物だらけの岩肌を丹念にチェックしていたらしい。上がってから、ホシベニサンゴガニのモルディブバージョン(写真のカニ)を見つけた!と喜んでいた。
 けれどやはりここも付着生物の多さのわりにはそれに宿っていてほしいエビカニ類はあんまり見られなかったようである。

 さて、せっかくのボートであるからフィッシュアイも持ってきていた。
 オーバーハングの岩陰にはいかにもモルディブ、という感じでトガリエビスやムスジコショウダイの群れがあった。
 特にトガリエビスは、沖縄で見られる場合はたいていアカマツカサに混じって単独でいるので、ここのように群れで見るなんてことはまずない。ムスジコショウダイも少なくとも本島近海ではそうだと思う。
 だから魚的には日本にもいるヤツらであるけれど、シチュエーションがいかにもモルディブなのである。せっかくだからパシパシパシッと撮っておいた。

 それにしても岩肌にはナンヨウキサンゴ(今はナンヨウイボヤギって言うんだっけ?)が多かった。密すぎて岩肌になかなか取り付けないくらいだった。
 そうこうするうちに無減圧でいられるリミットが近づいてきたので、そろそろ場所を移動することにした。減圧潜水は禁じられているのだ。ちなみに最大深度は100フィート(約33メートル)と定められている。
 細長い根を流れに乗っていくと、根の真ん中付近は両端にくらべて地形が複雑ではなく、なだらかなスロープであることがわかった。そのあたりにはヨスジフエダイがゴシャッと群れていた。こんなの沖縄の釣り師は放っておかないだろうなぁ。
 60分の制限時間をフルに使い、ダイコンの潜水時間がきっちり60をさしたところで海面に浮上すると、他のダイバーたちも遙か遠くで浮上したばかりらしく、ドーニが回収していた。みんなもっと早く上がっていて、ずーっと僕たちを待っていたらどうしよう、という心配は杞憂であった。が、これは今回に限ってだったりする。

気は優しくて力持ち……オリマスファル

 その日午後に行ったのはオリマスファルというところだった。
 この時は午前中のステフィーさんはおらず、僕らが勝手にハシブーと呼んでいる(そういう愛称の後輩に似ていたのだ)モルディビアンらしきスタッフがブリーフィングをしてくれた。英語を喋れる人が僕たちに説明してくれるようである。ドイツ人たちには別の人(僕らが勝手にセイン・カミュと呼んでいた人)がしていた。もう一人スタッフがいたが、彼はどうやら新人さんのようで、今日はオープンウォーターの講習を担当していたらしく、スタッフが説明するのをゲストと一緒になって聞いていた。名をピーターという。
 特に何がどうだからオリマスファルを選んだ、というわけではない。ドーニはこの時期3隻稼働中だったのだけれど、ドーニを乗り換えるためにいったん器材をダイブセンターまで持ち帰るのが面倒だったので、同じ船にしたら場所がここだったのだ。
 ファルというのはどうやら中の瀬のように潮が引くと干出する瀬のようである。その端っこの方を流れに乗って潜るポイントだった。
 透明度は一本目と同じようなもので、エントリーした直後はいったいどこに瀬があるのか見えないくらいだった。
 こんなところに、マンツーマンとはいえオープンウォーターの講習生を連れてくるのだから凄い。そりゃイントラも生徒も鍛えられるはずだわ。
 瀬にたどり着くまでの中層にはグルクン類がウッジャアーと群れていて、それを狙っている巨大なイソマグロたちがウッシャーと1・2の三四郎化していた。
 瀬はなだらかな斜面で、ここも同じくナンヨウキサンゴがギッシリ。けれども流れに直面している場所ではなかったので、一本目のようなハナダイの大群舞はなかった。
瀬はなだらかなままどこまでも深く続いていた。27,8mくらいにいると、1mほどのコガネシマアジが10匹ずつくらい何度も何度も通過していく。暗いから不気味である。

 根のトップ付近では、ハウスリーフでなかなか見つけられずにいたモルディブアネモネフィッシュがわんさかいて、住んでいるイソギンチャクも裏がピンク色(海中ではブルーに見える)のヤツばかり。でも一つのイソギンチャクにたくさん子供が付いている、というシチュエーションはついに見られなかった。
 ツノダシの50匹くらいの群れを見た。ま、これは沖縄でも見られることもある。季節的なものであろう。ツバメウオの30匹くらいの群れが一瞬通り過ぎた時は思わず一生懸命撮りかけたけれど、なにもツバメウオに目の色を変えることはなかろう、ととっさに冷静さを取り戻した。

 この2本目のときはフィッシュアイだけを持って入っていたので、イロウミウシ系のウミウシとミノウミウシの仲間を見つけたときはさすがに地団駄を踏んだ。105ミリレンズで頑張っていたうちの奥さんに報告して撮ってもらった。

陽気なピーター

 瀬の突端あたりになるのかどうか、そのあたりのトップ付近に一本サンゴよりも大きなテーブルサンゴがあって、そこにモルディブ版フタスジリュウキュウスズメダイといえるインディアンダッシラスがいた。今回のモルディブ行で生きている大きなテーブルサンゴを見るのはこの時が最初で最後だった。
 今回もきっちり60分潜って浮上すると、一本目と違ってみんなすっかりドーニのうえで待っていたらしく、やや申し訳なかった。でも真紀さんにそのあたりのことをうかがってみるとまったく気にしなくていいとのことだった。なにしろ60分の制限時間というのは、自分がエントリーしてからの時間だそうで、たとえば耳が抜けなくて再度ドーニに戻ってエントリーし直したら、それから60分、ということなのである。
 それをあらかじめ聞いていたので、陽気に船に戻ったら、新人ピーターはやけにハイテンションだった。
 「ナイスダイブ?オー、ベリーグーッ!!ナントカカントカ!!ペラペラペラ!!」
 とやたらノリがいいのである。
 欧米人ダイバーさんたちはどんな海に潜っても上がってきたら必ず「ナイスダイブ!!」と言って愉快に過ごす。   
 とってもいいことだと思うのだ。だから僕も、問われなくとも上がってくるたびに
 「ナイスダイブ!!メニィメニィフィッシュッ!!」
 とかなんとか言っていたのでノリはよかったはずだ。
 そういうノリでいると、あそこにいたサメは見たか、とかどこそこには何がいた、とか、スタッフがいろいろ教えてくれる。まぁ、僕らからすればネムリブカが何匹転がっていようとそれほどエキサイティングなことではないんだけれども(そりゃ、50匹くらいゴロゴロしていたらひっくり返るけれど)、やはりここは礼儀でもあるから、おお、そいつは凄いぜ、見られなかったぜ残念だぁ!と言っておいた。