ヴィラメンドゥ海中レポート
半水面写真を撮ろう編

 半水面っていったい何?

 半水面写真というのは、つまり半分は陸上風景、半分は海の中、という一枚の写真である。
 水納島でもビーチで撮ったりするとはいえ、やはりバックがヤシの木、というシチュエーションはこういうところならではだ。

 また、半分が海中になっている陸の写真、というよりは、陸も写っている海中の写真が目当てなので、画面の中に魚が入らなければつまらない。
 コバンアジという魚はこの半水面写真を撮る際に格好の被写体になってくれる。
 コバンアジは水納島のビーチにもわりとたくさんいる魚だ。
 モルディブには圧倒的にたくさんのコバンアジがいるから、どこでも撮り放題なのである。

 ただし、そこら中にあるヤシの木とはいえ、空とビーチとヤシの木のコンビネーションがいい、という場所は一つの島にそうそうあるものではない。
 特にヴィラメンドゥのように波打ち際からすぐにドロップオフになるような島は、砂浜があまり堆積しないから、巷でよく見る絵に描いたような風景は相当場所を選ばないといけない。
 僕らは到着した翌日の朝、散歩を兼ねてプラプラと島を一周し、そういう意味でのロケハンをしてみた。
 で、結局ベストポジションはダイビングセンター前の桟橋から少し右側に行ったあたりであることがわかった。
 ヤシの木立の前の砂浜が広く、ヤシ以外の樹がほとんど無いところだった。
 それと、この島の周囲の波打ち際は随分浅いのだけれど、そのあたりはちょうどいいくらいの水深になっていて、コバンアジたちもやたら多くいたのであった。

 タンクを使うわけではないから、いつでも好きなときに行けるとはいえ、やはり日が高いうちのほうが明るい写真が撮れる。
 というわけで午前中のダイビングを終え、ランチタイムまでのしばらくは、半水面写真タイムとなった。

 とはいうものの、いったん部屋に戻り、再びカメラを抱えてダイブセンター前まで来るのは考えただけで面倒くさい。このあたり、部屋番号が130番台あたりだったら何の苦もなかったろう。
 けれど僕らの部屋はちょうど民宿大城の表玄関(自販機側)から桟橋くらいまでの距離だった。カメラを抱えて何度も往復するのは楽ではない。クロワッサンにいらっしゃるカメラ派のみなさんの苦労を少しだけ味わえたのであった。これからはなるべく車でお運びいたします(笑)。

 というわけでそんなに気安くほいほいと行きたくなる距離ではなかったのだが、半水面写真をエビカニと同じくらい今回のテーマにしていたうちの奥さんは、晴れている間に撮らなくちゃ、と言ってノリノリだったのだ。そんな、悲観的にならなくったって雨なんか降らないよ、と言いつつも、仕方ないので僕もついていくことにした。
 最初の日は一生懸命撮っているうちの奥さんを桟橋から眺めていた。目の前に写真のような風景があるというのはもの凄く贅沢な時間だった。この風景があるのに、なにもあくせく写真なんて撮らなくてもいいじゃないか。
 それにしても暑い。日陰が恋しい。
 このまま待っていたら日干しになってしまいそうだ、と思ったら、あっと言う間に撮影が終わったようだった。パシパシ押しまくるからすぐフィルムが終わるというのだ。

 翌日の半水面タイムには、待っているのが暑かったから僕もチャレンジすることにした。16ミリのフィッシュアイの他に28ミリレンズのセットも持っていって、二人でパシパシと撮った。
 28ミリだと少々ピントを気にしなければならなかったからそれほどでもなかったが、さすがに16ミリだとあっと言う間にフィルムが無くなった。魚眼で見る風景がおもしろい。なんで昨日は撮らなかったんだろう。

 砂浜でくつろいでいたヨーロピアンのカップルから見たら、不思議な連中だったことだろう。
 この夫婦はいつも波打ち際あたりに座ってくつろいでいて、結局僕らが滞在中天気が良かった日はず〜っとそこにいたような気がする。ひょっとしてビクター犬なみの置物なのかな、と思ったくらいだ。
 この場所は、ちょうど部屋番号でいうと138番あたりの正面に位置するところで、ここはダイブセンターにも近いしとびきり便利な場所である。130番台くらいが僕らにとってはベストな部屋だった。

格言誕生 

 雨なんか降らないよ、とたかをくくっていた。
 暑いよ、ちょっとくらい曇れよ、と罵ってもいた。
 願いを叶えてくれたのか罰を与えられたのか、3日目からは雲が多くなってきて時折雨交じりになり、翌日は一日中雨模様となって、とても半水面写真どころではなくなってしまった。結局あとは出発前の午前中に一度チャンスが訪れただけだったのだ。
 そこで格言誕生。

 半水面 晴れてるうちに 撮っておけ

 ところで、ヴィラメンドゥも水納島と同様、白化によりサンゴは壊滅している。回復の兆しが見えてはいたが、まだまだ道は遠そうだ。
 スノーケリングをしたとき、リーフの中も多少泳いでみた。サンゴが生きていたらさぞかしフォトジェニックなシーン満載だったろう。枝サンゴに戯れる小魚たちの半水面……。う〜ん、撮ってみたかった。
 そもそも、僕らがフィッシュアイをようやく手に入れたのは、水納島のサンゴがほぼ壊滅した後だった。せっかく広い絵を撮ることができるレンズを手に入れたのに、あれほど当たり前にあったサンゴ礁は跡形もなかったのだ。あ、跡形しかなかったのだ。
 お金が溜まるのを待っていたら、人為的であれ、天災であれ、その間に自然はどんどん失われていくのである。いずれ買う気があるのなら、借金してでも今すぐに。
 そこで格言誕生。

 サンゴ礁 生きてるうちに 撮っておけ 

完璧!!「瀬戸口データ」 

 普段写真を撮っている場所と違うところで、露出的に微妙なケースは念のために少し多めに撮らなければならなくなることが多い。たとえば、水納島のように白い砂地で魚を撮ると明るくなってしまうから、普段伊豆あたりで撮っている人は若干暗めにしたほうが適正になる、という具合だ。
 真夏の水納島とモルディブであれば半水面だとそんなに露出的に変わらないだろうけれど、やはり初めてだから、本来であれば何段階かで撮ることになるだろう。

 が、僕らには強い味方があった。その名も「瀬戸口データ」である。
 以前月刊ダイバーで瀬戸口靖氏が連載していた写真講座で、モルディブの半水面の特集みたいなのがあって、そこにデータはこれでオーケー!!と太鼓判が押されていたのである。
 我らがスター
KINDON以外に、今もっとも美しい写真を撮るカメラマンの一人と僕らが認識している瀬戸口氏のデータを全面的に信用し、迷うことなくパシパシシャッターを押したから、露出に関しては何も考えずに済んだのであった。
 カメラの露出インジケータはかなりオーバーを指し示すから本当は少し不安だったのだけれど、結果はさすが瀬戸口データ、ほぼ完璧であった。
 もっとも、真夏の水納島でのデータとほとんど変わらなかったのだけれどね。

 ちなみに、ピーカンの時、ISO50のフィルムで250分の1,f5,6半くらいに応じた組み合わせがピッタリであった。だからといってこれを信じて失敗しても責任はとらないよ。

 別のところでも触れたけれど、僕らが滞在中、しかも天気が良かった序盤は僕ら二人以外に日本人は一人もおらず、ましてや物好きにも大きなカメラを抱えてビーチをウロウロしている人なんていなかったから、撮り放題ののどかな風景であった。日本人が少なそうな島に来た甲斐があったというものだ。