ヴィラメンドゥ潜水日記


12月3日 到着

Welcome to VILAMENDHOO!!

 ヴィラメンドゥは、一周歩いて3〜40分ほどの島である。
 水納島をビヨ〜ンと伸ばしてやや小さくした、と思えばいい。
 が、こんなに小さいにもかかわらず、モルディブでは比較的大きな島であるらしい。
 小さいリゾートアイランドともなると一周5分とか10分だという。

 たしかに「プチアイランド」というイメージからすれば、一周10分くらいの島がちょうどいいのかもしれない。ほとんど庭のような感覚でいられるのだろう。
 けれど散歩も楽しむ僕らとしては、そこまで小さいといささか狭く感じてしまう。それに、それくらい小さいと、毎度毎度同じ人たちと顔を合わすことになってしまうのではなかろうか。それがいいなら別だけど。

 というわけで、チャボがいる、ということの他に我々にとってはある程度の大きさがある、というのも重要なファクターになっていたのである。

 空から島を見下ろすと、これは流れるわ、という地形であった。
 もちろん島自体が長細いことは知っていたけれど、この島を挟み込むように細長い瀬があって、その間は水路状態なのである。
 のちのちダイビングスタッフにうかがったのだが、強烈なときは岩をつかんで進むことすらできないほどになるとのことだった。

 さて、水上飛行機はいったいどこに着水するのかと思っていたら、島から少し離れた海上であった。
 プラットフォームが浮かべてあるのだ。そう言うと聞こえはいいが、つまりは8畳ほどのいかだがポツンと係留されているだけである。
 旋回しつつ徐々に高度を落とした水上飛行機はなめらかに着水し、プラットフォームに到着するやあっけないほどにあっさりとエンジンを止めた。
 
Welcome to VILAMENDHOO!!
なんていう歓迎セレモニーはないけれど、ようやく到着した、という実感がわき上がってきた。海辺に住んでいるくせに、やっぱり海に到着すると気分が高揚する。
 プラットホームから海をのぞき込むと、グルクンが群れているのが見えた。さほど透明度はよさそうには見えなかったが、光が射し込む海中に青く輝くグルクンの群れ。ああ、海っていいなぁ……と急速に加山雄三化しつつ、鮮度の高い空気を目一杯吸い込んでみた。美味しかった。
 飛行機が着くと、島の桟橋からドーニ(モルディブ独特のポンポン船)が近づいてきた。島への渡しである。

 乗客十数名すべて乗り込むと、にわかに水上飛行機はエンジンをかけ、船が離れるのに合わせて飛行機も再び離陸準備を始めていた。

 プラットホームからはほんの1,2分。午前10時、ようやくヴィラメンドゥ到着である。
 思えば長かった。これだけの思いをしてきたのだから、一ヶ月くらい滞在したい。
 島はウワサどおり鬱蒼とした木々に覆われていて、ヤシの木がニョキニョキニョキニョキ生えている。遠目には水納島みたい、なんてのどかに思っていたけれど、ヤシの木の存在はやはり決定的な違いだ。
 桟橋を歩いてビックリした。
 なにしろ波打ち際から10mくらいであっと言う間にリーフの端になっているのだ。
 ウワサには聞いていたけれどこんなに近いとは……。
 桟橋下ではイスズミやボラなどがわんさか集まっていた。いやはやモルディブである。これが水納島なら機関長キヨシさんが黙っちゃいない。

さっそく対面!モルディビアン・チャボ

 この桟橋からまっすぐのところ、こんもり茂ったヤシの木の奥にホテルのレセプションがあった。
 受付を済ませ、簡単な説明を聞いた後、部屋へと向かう。
 この時僕らのような重い荷物を持つ客に当たってしまったポーターはかわいそうだ。歩いて十歩くらいのところならいいが、3,4分はかかるところだったのだ。30キロちかくある荷物を頭に抱えて一生懸命歩いてくれた。これじゃチップ1ドルは割に合わないだろうなぁ。
 案内してくれる人の後をついていくと、さすがに自然が残っていることを謳っている島だけあって島内は密林のようで、それを縫うように道が通っている。
 そのためややもすると道がわからなくなってしまいそうだった。
 そんなとき、懐かしい声が聞こえた。
 「コッコッコッコッコ……」
 あ!チャボだ!!ウワサの黒いチャボじゃないか!!

 HPに書かれていたことは本当だった。もう食われていたりして、と心配していたのだけれど、たくさんのヒヨコを連れた黒いお母さんが歩いていた。
 いきなり当初の目的を達成してしまった。この分じゃきっともっとたくさんのチャボがいるに違いない、と確信した。
 僕たちのヨロコビをよそに、案内人はどんどん進んでいく。いったいどこまで歩くのだ、と思い始めた頃、ようやく部屋にたどり着いた。どうやら西の端の方である(部屋番号は109)。念のために、案内してくれたスタッフに島の地図で言うとここはどこだ、と聞いたら、推測通りだった。サンセットバーに近いところである。

 しかしそれにしても暑い。
 北緯ヒトケタ度だから、日差しはやはり強い。沖縄から直接来たらもう少し耐性があったかもしれないけれど、東京でワンクッション置いてしまったために格差が大きい。ヨーロッパ人はこういう強い日差しを求めてくるのだろうなぁ。
 雨覚悟でいたのだが、とりあえず空は歓迎ムードだった。

なにはともあれチェックダイブ……

 とりあえず部屋で旅装をとき、Cカードとログを持ってダイビングセンターに行った。
 ダイビングをするにはまずチェックダイビングをしなければいけないので、そのあたりのことをうかがいにである。
 チェックダイビングというのは、つまりダイバーとして最低限度これくらいはできないといけないぞ、という項目をあらかじめ確認するものである。最低限度のことだからなにも素潜りで30mまで潜りなさいとか無茶なことは要求されない。できて当然のことをチェックするだけだ。
 日本と違って欧米人ダイバーはセルフダイビングで潜るのが当たり前なので、コイツは放っておいても大丈夫かどうか、ということのチェックは欠かせない。
 何をやるかというと、マスククリアー(海中でマスクの中に水が入ったときに水を外に出すこと)、レギュレーターリカバリー(空気を吸う装置が誤って口からはずれてしまったとき、慌てず騒がずそれを元通りにすること)、中性浮力(海中で、浮きも沈みもしない安定した浮力を維持すること)などのようだ。
 できて当たり前というか、できなかったらあんたダイバーじゃないよ、という項目である。
 が、日本人ダイバーにはこれを拷問のように感じてしまう人がわりといる。特にマスクの中にワザと水を入れて行うマスククリアーができない、なんて人が多いから困ってしまう。
 こんなことは、克服しようと思ったら風呂場でいつでも練習できるんだけれど、日本の業界は手取り足取り幼子をあやすようなダイビングシステムなので、マスククリアーなんてできなくてもなんとかダイビングを楽しめるようになっている。そのため、できない人は「できないんですぅ」というだけで終わってしまう。
 モルディブでは、できないとビギナーダイバーと見なされて、必ずガイドをつけて潜らないといけなくなる。ま、マスククリアーができない人がセルフダイビングを好む、ということはあんまりないとは思うが。

 とにかく、僕らはそれらをチェックしてもらうためにダイビングサービスに向かった。
 レセプションでもらう島内の地図によると、フロントから来た道よりも逆回りの方が近かった。あの案内の人はワザと遠回りしたのか、いまだに知らないだけなのか。
 ダイビングサービスはレセプションからすぐのところにあった。風に揺れる木漏れ日が涼しげな場所だ。
 受付に行くとうまい具合に唯一の日本人スタッフ田中真紀さんがいた。
 僕らが今回利用したフリーウェイツーリストの広告に顔写真が載っているので、勝手に彼女の背の高さをイメージしていたのだけれど、実際に会ってみると驚いたことにうちの奥さんとほぼ同じくらいの背丈であった。
 でっかいでっかいヨーロッパ人を相手に仕事をしていると、きっといつも見上げてばかりいなければならないだろう。
 滞在中、ダイビングサービス周りの設備で、小さい人用のことならなんでも詳しかったので、うちの奥さんの良きアドバイザーとなってくれた。
 広告写真ではなんだか眠そうな顔をしている真紀さんだが、実際ははつらつとした元気いっぱいのかわいい女性だった。

 で、サービスの受付でチェックダイビングの申し込みをすると、
 「今日は10時半からしか、できないんですけど……」と言われてしまった。
 時刻はすでに10時32分。
 つまり直ちに行かなければ明日になってしまう、ということである。

 島に着いた時点でそれがわかっていればキチンと急いで用意したのに……。
 仕方ないので今日はパラオのタコ主任のようにのんびりしているか、とも思ったけれど、自分たちの職業とCカードを提示すると、チェックダイビングは必要ない、ということになってしまった。もういつでも好きなときに潜りに行っていいですよ、ということに相成ったのである。ダイビングサービス稼業で唯一と言っていいくらいの利点だ。
 この際、Cカードは絶対忘れてはダメッすよ。体験ダイビングか講習をフルに受けるしか潜る方法が無くなってしまうのだから。
 こんな感じで、飛行機の到着時間によってはかなり慌ただしい動きになることも多いらしい。午後に到着しようものなら、チェックダイビングは翌日、という事態もあるという。
 僕らだってもし一般ダイバーであれば、この日はスノーケリングで辛抱しましょう、ということになっていたはずである。

運命の分かれ道は水上飛行機の予定にあり

 この受付でダイビングをする際のコマゴマした決まり事をたくさん真紀さんに教えてもらうのだけれど、あれだけの情報をすべて完璧に一度聞いただけで覚えられる人がいるとしたら大したものである。僕らは事前にインターネットである程度知識を得ていたので確認程度だったが、まったくの白紙ではなかなか難しかろう。おまけにたまたま真紀さんがいたから良かったものの、彼女が潜りに行っていたりしたらきっとヨーロピアンスタッフから英語で説明を受けることになっていたに違いない。
 ダイビングサービスと旅行社とはそれほど緻密なやりとりがないので、どの時間にどういうゲストが来るか、ということがなかなかつかめていないから、日本人のスタッフが現地にいるからといっても必ずしもすべての日本人客に応対できるわけではないらしい。チェックダイビングの対応の予定を立てづらいのもそのためである。
 
 説明するのもそれを聞くのも大変なんだから、簡単なチラシみたいなものをこしらえておけばいいのになぁ、と老婆心ながら思ってしまった。が、我が身を振り返ってみると、暇になったときはなかなかそう言うことに気がまわらない、やる気が起きない、という事実もたしかにあるのだった。

 ああ、奈落の底に真っ逆さま!?

 さあて、以後のダイビングはマイペースでオーケーとなった。
 あとは食事の時間とのかねあいで準備をすればいいだけである。
 無制限ダイビング付きのツアーなのだが、僕らはそれほどガシガシ本数を潜りたおすつもりではなかったので、のんびりカメラをセットして、スノーケリングをしてみて、食事をして、それからハウスリーフでダイビングしよう、という本日の黄金計画をたてた。

 こういう旅行の場合、部屋の状況、各施設の位置、部屋からの距離感、ダイビングをする際の段取り、食事の時間などなど、なるべく早いうちにペースをつかんでしまえば勝ちである。何に勝つのかよくわからないが、マゴマゴしているとようやくリズムが出てきた頃にはもう帰らなければ、ということになってしまう。
 したがって到着した日は重要なのだ。

 部屋はかなり広く、クローゼットなどの収納スペースもかなり広くて便利である。ヨーロッパ人は長期滞在するから、これくらい物をしまえないと不便なのだろう。
 我々のようにたかだか8日ほどの滞在ならまったく何の問題もない。
 他の島のことは知らないから部屋の比較はできないけれど、これくらいきれいで広ければ充分である。浴室も広く、広い空間にポツンと座るトイレはなかなか落ち着かないがそれはそれでいい。

 収納スペースがそのまま物を置く台にも使えるため、カメラ類が多い僕たちは大変助かった。活躍するのかどうかはわからないながらとりあえず持ってきたカメラ類をテーブル、鏡台、クローゼットそれぞれの上に広げ、さっそく準備にとりかかった。
 その時!!なんとなんと僕の愛機トリエステちゃんのストロボの不調が発覚!!
 一時はもはやトリエステちゃん使用不能か、というところまで追いつめられ、僕は急速に奈落の底へと突き落とされつつあった。うちの奥さんによると、その時の僕はこの世の終わりのような顔をしていたという。なにしろ、トリエステは105ミリマクロのセットだったのだ。
 7年前の新婚旅行の時は重くなるからという理由で持ってこなかったヤツで、その際不便だったことを解決すべく今回手荷物で持ってきたのである。使用不能となれば、この旅程はトリエステにとって単に僕の肩と腰を鍛えるだけで終わってしまうことになる。

 とにもかくにも窮余の策でどうにかストロボ一灯なら使用可能になり(その際、うちの奥さんのアドバイスが役に立った。←これを書けとうるさいので書いた)、ホッと一息胸をなで下ろした。この世の終わりからこの世の中間くらいまでは舞い戻れたのだ。
 ちなみに付いているのも不能になったヤツもYS―20という、今は製造されていないカワイイカワイイストロボで、コイツが一灯だけポツンとカメラセットに付いている様はなかなかかわいいものがあった。

スノーケリングスノーケリング・ヤッホーヤッホー

 このまま潜りに行ってしまうとランチタイムに戻れなくなってしまうから、まずは島周りをスノーケリングしてみてロケハンすることにしていた。7年ぶりのインド洋の海である。
 Tシャツ海パン姿で3点セットをつけ、ボチャンと顔を海につけた。
 ウワサ通りサンゴたちは水納島と同じ状況だった。
 これがすべて生きていたらさぞかし素晴らしかったろうなぁ、と想像しつつリーフの外を目指した。
 この島ではダイビングもスノーケリングも、リーフの外に出るには島に数カ所設けられている水路を通らねばならない。パッセージと呼ばれるものだが、部屋の近くにパッセージ4があったので、そこから出てグルリと周り、桟橋まで泳ぐことにした。
 さすがにモルディブ、魚は多いし逃げないし、水は暖かいし言うことはない。太平洋にはいないインド洋の魚たちにも7年ぶりに会え、スノーケリングだけでもいいやぁ、という気になるほど気持ちいい。
 が、僕にとっては一つだけ誤算があった。
 この時期だから透明度は期待していなかったし実際その程度だった。サンゴの実態も知っていた。でも、期待していた肝心の風景がなかったのだ。

 それは何かというと、リーフ沿いのハナダイの群れである。
 7年前に訪れたバンドスという島のリーフには、各種ハナダイが群舞していたのだ。
 ハナダイ類というのはその食物を直接サンゴに依存していないので、サンゴ礁が壊滅しようと直接的には影響はないはずである。現に水納島もとりあえずは現状維持だ。
 ところがヴィラメンドゥのリーフには、バンドスで見たようなハナダイ類の群舞がなかったのだった。
 そのための105ミリマクロレンズであったのだけれど、カメラは危機に陥るし撮りたい相手はいないし、で、やや僕のテンションは下方修正を余儀なくされた。
 ちなみにリーフにはハナダイ類の代わりにカブラヤスズメダイがわんさか群れていた。

 ヴィラメンドゥの西端は島の近くでリーフが閉じておらず、そのまま遠くまでラグーンが広がっている。だから北側のパッセージから出て西回りで桟橋に行く際に、そのままリーフ沿いに行ったら日が暮れても帰れないくらい泳がなければならない。
 だから一度パッセージからリーフ内に戻って、南側のパッセージ3から出なければ桟橋まで行けない。
 ところがうちの奥さんはどんどんどんどん西へ向かって行くではないか。
 おいおい、まさかこのまま泳ぎ切ろうって言うんじゃないだろうなぁと思い、慌てて追いかけて呼び止めると、きょとんとしていた。
 僕が事情を説明しても今ひとつ納得していないようだったのだが、とにかくリーフ内に戻り、パッセージ3を目指した。ラグーンで隔てられているとはいえ、島自体が細長いためあっと言う間の距離なのだ。
 二日後、散歩中おもむろにうちの奥さんが
 「ああ、そうか、そういうことだったのか!」
 と言った。自分たちがスノーケリングをしに海に入った位置関係をようやく理解したのだった。

 ラグーン内を泳いでいるとき、へんてこな尻尾のエイを見た。ヤッコエイに立派な幟をつけたようなエイだった。
 後日散歩しているときに見たのだが、50センチほどのベビーシャーク数匹も常連さんのようである。

 パッセージ3から再度リーフの外に出て桟橋を目指した。
 若干北側と雰囲気が違うような気がした。
 とにかくスノーケリングをしているだけで、インド洋でしか見られない魚たちに簡単に会えるから楽しい。しかも魚が逃げないというのがいい。電灯潜りなんて誰もしないから、魚が人を恐れないのだ。沖縄の魚たちにくらべたら、ガラパゴスの無警戒な生き物なみに人を恐れない。
 ハウスリーフのエントリーポイントでいうとダイビングサービス前あたりからすこし右にいったくらいのところで、ようやくエバンスと呼ばれるハナゴイの仲間のささやかなハーレムを見つけた。そこにはハナダイダマシも少々群れていた。
 ハナダイダマシは、バンドスではハナダイの方がハナダイダマシダマシなのではないかと思えるくらいメチャクチャ群れていたのだけれどなぁ。よくよく見ると15m以深ともなると、キンギョハナダイが各根に群れ集っているようであった。

 ハナダイ類は誤算ではあったが、それにしてもアデヤッコがスノーケリングで見られるなんて、贅沢だよなぁ。サントス、サドルバック、ブラックピラミッドなどなど、インド洋特有のチョウチョウウオたちもヒラヒラ泳いでいたし。やっぱり気持ちいいじゃないか!

 桟橋近くから上がってダイビングサービス前を歩いていると、レセプションで一緒に説明を聞いていた白人カップルがチェックダイビングを終えていた。

 食事は絶対ビュッフェスタイル!!

 ランチタイムは12時30分から14時までで、初日はギリギリになってしまった。
 レストランはがら空きであった。モルディブのリゾートはどこでもそうらしいが、滞在中の席は固定される。案内された席は、セパレートされた部屋と部屋をつなぐ通路部分のようなところであった。
 同じような席に案内されて、ここはイヤだと言ったら変えてもらえた、という話を知っていたので、ここは一発真似してクレームを付けてみたところ、
 「今一杯で、変えるなら明日ね」と言われた。多分そう言ったはずである。
 今日到着した人たちはきっとすでに昼食を済ましていたろうから、今頃のこのこやって来た我々が席を変えてくれというのは時すでに遅しだったのだろう。

 結局滞在中ずっとこの席だったのだが、それほど不便でもなんでもなかった。僕らだけがその通路のようなところにいるわけではないし、なんといってもウェイターが良かったから場所なんてどこであれ食事は楽しかった。
 ウェイターはアフマトゥ・シャフィーというモルディビアンであった。
 いきなり自分から名前を自己紹介するわけではないから、トークの合間合間にいろいろ聞き出すことになる。
 初めての食事だから彼も僕らもいささかぎこちないやりとりだったことだろう。
 何か飲み物を飲むか、というのでジュースを頼もうとしたのだが、有料であることがわかったのでいらない、と言った。水があるからこれでいい、と言ったのだ。
 たかだかジュースをケチる客が、のちのち昼食時には必ずファンタ・ビターレモンを頼むわ、夕食時にはビールはやたら飲むわ、ワインはボトルで頼むわなどということになろうとは神ならぬ彼の知る由もなかったことであろう。敬虔なイスラム教徒の彼から見れば、なんて飲むヤツらだ、と思ったかもしれない。

 ヴィラメンドゥの食事は三食ともすべてビュッフェである。
 実はこれも僕の島選択の大きな要素で、たとえどれほど洒落た食事であろうとも、コース料理とかであったらネガティブなのだ。だって島には何もないのに腹が減ってはどうしようもないでしょう。
 ということで僕は、性懲りもなくビュッフェで食い倒れの日々を送るのであった。