Eオトナの社会見学・ニッカ

 この日我々を案内してくださっているTさん夫妻と、このあと別の場所で我々と合流する予定の北のマスターとの電話でのやりとりの端々に、

 にっか

 という単語が出てくることに気づいていた。
 どうやら待ち合わせ場所のような会話なので、何かランドマーク的な建物もしくはお店のことなのだろうとオボロゲに想像していた。

 ところがその「にっか」というのは、なんとニッカウヰスキーの宮城峡蒸留所のことだったのである!!

 ニッカウヰスキーといえば北海道余市だけだと思っていたら、ここ仙台にも蒸留所があったのだ。

 ニッカウヰスキーの銘柄のひとつにもなっている、創始者竹鶴氏は20世紀の初め、スコットランドにてウイスキー作りの修行をした。
 その後日本に戻った竹鶴氏は、ウイスキー作りの理想郷を余市に見出し、最初の蒸留所をかの地に創設。

 それが軌道に乗ると、今度は余市とは異なるタイプのウイスキーを作って琥珀の世界を広げたい…ってことで、ここ宮城峡に第2の蒸留所を設けたのであった(ちなみに正式な住所は青葉区ニッカ1番地)。

 そんなニッカウヰスキー宮城峡蒸留所、略してニッカにて、北のマスターや仙台チームZのみなさんと合流。
 そして。
 みんなで蒸留所見学〜〜〜!!(無料)

 もちろんガイドさん付きである。
 他にたくさん見かけたガイドさんのなかで、我々を担当してくれたおねーさんが一番綺麗だった、とうちの奥さんが後日言っていた。
 それが客観的事実かどうかは不明ながら、もしそうだとしたら、それはおそらく北のマスターの賜物と思われる。
 なにしろお仕事がお仕事だけに、この蒸留所にとって北のマスターは
VIPなのである。

 しばらくロビーで待機した後、真っ赤なコートに身を包んだガイドさんに連れられて、オトナの社会見学スタート。

 ガイドの可愛いおねーさんが教えてくれるウンチク話などとっくの昔にご存知に違いないにもかかわらず、みんなと一緒に静かに真摯に耳を傾けている北のマスター。
 そしてその他の面々も、まるで社会見学中の小学生のように純真な心で耳をすませるのであった。

 屋内には、まさに今ウイスキーが出来上がらんとす、という様々な過程が。
 なかでもウイスキー作りの象徴といっていいのが、このポットスチル。蒸留の要の要である。

 このポットスチルのナニがどうかしてどうかすると、ウイスキーの質がまったく変わるモノになるらしい。
 余市と宮城峡ではこの行程にわざと違いをつけているそうで、そのためタイプの異なるモルトを生み出せるのだという。
 ともかく予想を超えた巨大さだった。

 赤いオネーサンはキチンとマニュアルどおりに説明してくれる。
 しかし、シングルモルトのウイスキーは正露丸だ、なんてことを平気で言ってしまう程度の僕は、酒造りも酒を注ぐのも、ハナからプロに任せている(詳しく知りたい方は現地に行くか、
こちらをご覧ください)。

 その程度の者にとっては、その緻密な製造過程の知られざるヒミツよりも、

 こうして静かにドドンと熟成されている圧倒的な量の樽のほうにこそ興味が湧く。
 そんな貯蔵施設のなかで、珍しくTさんがTTさんに写真を撮ってもらっていた。

 どこにいても絵になる2人なのである。
 にしても、なんでここで??

 それは、Tさんの傍らの樽にヒミツがあった。
 なんとこの樽、彼と同い年だったのだ。
 1969年の樽。
 その中身、どんだけ美味しいお酒なんだろう………。

 ちなみにこの宮城峡蒸留所が誕生したのも69年だから、きっとここで生まれた最初のウイスキーってことなのだろう。

 こうしていろいろと見学させてもらった我々夫婦の最大の関心事はいったい何であったか。
 ほかでもない、屋外を歩いているときに垣間見えた、敷地内の池の数羽の白鳥(コハクチョウか?)だった。

 <なんなんだよ、お前ら。

 でもあなた、敷地内の池ですぜ?
 こんなところに白鳥がやってくるんだろうか。

 仙台チームの方々に尋ねてみると、

 「渡ってくるんじゃないですかぁ」

 とのこと。
 そうなのか、こういうところにも舞い降りてくるのか、野生の白鳥は。

 ……と納得しかかったものの。
 再び池のそばを通りかかった際のこと。
 その頃には、実はマニュアルトークだけではなく、訪ねれば気さくに自分の言葉で応えてくれることがわかっていたので、赤いオネーサンに訊ねてみた。
 あの白鳥はいつもあそこにいるんですか??

 「あ……あれはあそこで飼ってるんです♪」

 へ?
 ぺ……ペットだったの??

 さすが天下の大蒸留所、飼育の規模が違うわ……。

 というか、誰だ、野生の白鳥が渡ってきているのだなんてデマを流しかけていたのは!!

 訊いてみてよかった。

 こうしてひととおり見学を終えると、ゴール地点はゲストホール。
 いよいよお待ちかね、試飲タイム〜〜〜〜。

 ニッカウヰスキーの選りすぐり&地域限定のウイスキー2種類と、わりと度数の高いアップルワイン(マルサーラワインのような舌触り)の合計3タイプのお酒をいただけるこの試飲、各1杯ずつなどという制限はなかったものの、

 「くれぐれも適量でお楽しみください」

 あらかじめおねーさんからそう釘をさされて臨むようになっている。
 学生じゃあるまいし、もとより試飲で羽目をはずそうとは思ってはいない。
 いないけど…………

 ……美味い。

 カウンターテーブルにはチェイサーもしくは水割り用のお水と氷が用意されていて、頼めばハイボールにもしてくれる。
 で、みなさん飲み比べてみて、どちらのウイスキーが美味しいかという話になってきた。

 みなさんの結論が徐々に統一されていく方向にあるようながら、ワタシはといえば……

 一口ずつ飲んでみると、

 「フムフム、こっちのほうが美味しい気がする!」

 と思う。
 さらに飲み続けると、

 「あれ?やっぱこっちの方が美味しい??」

 そして最終的には、

 「………どっちも美味しい。」

 で終わってしまうのだった。
 そもそも、せっかくの試飲だというのに、何を飲んだのか覚えていないんだからまったく役に立たないのだ。

 しかし言い訳をさせていただくなら、試飲のお酒を忘れてしまったのもしょうがなかったのである。
 というのも、無料試飲コーナーのさらに奥にある有料試飲コーナーで、思わず目を奪われるお酒を見つけてしまったのだ。

 これ。

 竹鶴35年。

 35年!!

 一般的に商品として店頭に並ぶのは、21年がマックスの竹鶴。
 しかしさらにその世界は続いていて、25年もあれば35年もあったのだ。

 ためしに酒屋の通販サイトを見てみると、この竹鶴35年はなんと6万円を超えるお値段。
 絶対買えねぇ………。

 ボトルは絶対買えないけど、試飲だったら………

 そのお値段、15ミリリットルで1700円

 た………高ッ!!

 僕が地元の人間だったら絶対に手を出さない。
 しかし我々は旅行者である。観光客なのである。この機会を逃しては、きっと一生後悔することになるだろう。

 というわけで、決意の1700円試飲!!

 これがあなた、

 激ウマ!!

 その衝撃は、かねやま30年を初めて飲んだときに勝るとも劣らない。
 ウイスキーはやっぱりシングルモルトだよねぇ…なんて方にとっては、ピュアモルトは掟破りなのかもしれないけど、ええいうるさい、美味しいものは美味しいのだ。

 …と、ヒトがなけなしの小遣いをはたいて買った決意の35年を、

 インターセプトするなッ!!

 ともかくこの35年のおかげで、先ほどまで楽しんでいたはずの他のお酒の味わいは、遠く銀河の彼方へと消え去ってしまったのだった。

 無料試飲コーナーで飽き足らずこの有料試飲コーナーに来ていたのは我々だけではなかった。
 アネモネフィッシュさんもすかてんポチ1さんもお越しになっていて(すかてんポチ1さんもまた気合の1700円)、一緒にあーだこーだ言いながら楽しく試飲させてもらっていた。

 その間、辛抱強く待ってくださっていた仙台チームの方々。

 ホントにもう、ワガママし放題で申し訳ございません……。

 ところでこのゲストホールでは、お酒はもちろんのこと各種酒のアテも売られていて、ここでしか手に入らないものもある。

 なかでも興味を引いたのがこれ。

 その名もスナックモルト。
 ウイスキー麦芽のおいしさをおつまみに!ってことで、一袋に3種類の小袋が納められている。

 小袋の中身はこんな感じ。

 不思議的にクセになる香ばしい味。
 お腹を満たすわけにはいかないけどちょっと口寂しい……そんな時の酒のアテにピッタリだ。

 いやあ、美味しかった美味しかった。
 興味の対象は子供なみに白鳥だったとはいえ、子供にゃできないオトナの社会見学は、数々のシアワセを味わいながら、こうして無事に終了した。

 さあ、次はいよいよ温泉だ!!