G冥加樽

 翌朝。
 目覚めたとき、後悔はなかった。

 が。

 ただただ悔しかった…………。

 だってあなた、この温泉ホテルでの部屋飲みこそが、その日最大のイベントだったんですぜ。
 それなのに、志半ばどころかさぁこれからが本番!!という時に(というほど早い時間でもなかったけど)撃沈である。

 これを悔しがらずになんとする。
 しかるになぜ後悔していないのかというと。

 〜♪だって、しょうがないじゃない

 前日を振り返ってみよう。
 午前中から油揚げとともに缶ビールを一口二口。
 お昼には美味しい蕎麦とともに冷酒をば。
 そして午後はニッカで至宝のウイスキーを試飲しまくり、
 ホテルに到着後は夕方からビール。
 そして夕食時は夕食時でビールから酒へ移行。

 考えてみれば最初からテンパイ一歩手前、ほぼイーシャンテン状態だったのだ。
 ほぼ同じ条件だったにもかかわらず、最後まで不沈艦だったアネモネフィッシュさんは筋金入りの酒飲みである………。

 シーズン中、連日のように遅くまで飲んでいる我々に、よく体が保ちますねぇ…と呆れられる方が多い。
 けれど、実はそれにはヒミツがある。
 夜になってみなさんが訪れるまでの小一時間ほど、昼寝ならぬ夕寝をしていることが多いのだ。
 以前は「8時頃からどうぞ…」と言っていたゆんたくタイムをこのところ8時半からにしているのは、そんな貴重な夕寝タイム確保のためであるのは言うまでもない。

 この夕寝さえあれば!!

 ま、しかし、それは無理な話なのだった。
 自分が泊まるべき部屋が部屋飲み会場である時点で、夕寝などありえるはずがない。実際思いつきもしなかった。

 なので、後悔しようがないのである。

 ちなみにうちの奥さんはといえば、女子部屋、それも恐るべきB型軍団だらけの部屋だから、夕刻のひととき、誰もが誰に気兼ねすることなく思いのままに昼寝できたのだという……。

 そんな一夜が明けると、窓の外には雪がちらついていた。

 いや、チラつくなどという量ではない。
 すっかり雪化粧を施した外の景色は、紛れもない東北の冬の姿だ。
 そういえば、雪が積もっている景色を眺めながら入ったことはあっても、雪降る下で露天風呂なんて、今までまったく経験がない!!

 というわけで、朝食前の朝風呂。

 肌を斬らんばかりに冷たい大気と、天国のように温かな湯とのギャップがいいんですよぉ、と先に入っておられたTさんがおっしゃる。
 そんな雪見風呂。
 ああ、気持ちがいい………。

 朝食を各自でとったあと、ホテルのチェックアウトだ。
 いよいよ激しさを増す雪は、東京だったらとっくの昔に首都機能停止状態になっているだろう。
 でもこちらの方々にとってはどこ吹く風ならぬどこ降る雪。
 せいぜい心配事といえば、前日のうちにワイパーを立てておかなかったぁ、ということくらいで、それもお湯さえあれば万事解決するらしい。

 そういうこともあって、やたらと遠い駐車場に停めてあるそれぞれの車をエントランス近辺まで回して来る時間、多少ロビーで時間があった。
 チェックアウト時刻のロビーも、夕食時なみの混雑。
 朝も夕も風呂は空いていたのに、いったいみんなどこにいたんだろう??

 そんなロビーで、やおら北のマスターが全仙台チームを代表して、我々にとあるものを手渡してくださった。

 え?
 な……なんですか??

 手渡されたBar KOSHIならではのシングルモルトのお酒のケースには、こういう文字が書かれてあった。

 Miss CROISSANT 冥加樽。

 そして背面にはスリットが。
 そう、昨秋哀れ海に没した我がミスクロワッサン(ダイビングボート)のために、仙台チームのみなさんが募ってくださった、神仏のご加護もかくやというほどにありがたい、それこそ「冥加」な募金箱だったのである。

 北のマスターのお店の売り上げに貢献しよう!などと大口を叩いてノコノコ仙台にやってきておきながら、大事な夜には誰よりも早く沈してしまうようなワタクシが、義援金を受け取ってしまうなんて……。
 考えてみれば、我々の遊びに合わせて、北のマスターは日曜日の営業をお休みにしていたのではなかったか。

 まことに……まことに申し訳ない、かたじけない。
 みなさんにお礼やお返しといっても何ほどのこともできない我が身ながら、唯一できることといえば。

 全国の皆様、仙台へお越しの際には、Bar KOSHIへ是非!(場所はこちらをご参照ください)。
 杜の都の味わい深い素敵な夜が、貴方をお待ちしております!!
 
デスラー総統にポチッとボタンを押されてしまいそうな方はご遠慮ください……笑)

 一夜をともに過ごした仙台チームZや、仙台チーム別働隊M一家とはここでお別れだ。
 みなさん、3連休にもかかわらずお付き合いくださり、ありがとうございました!!また島でお会いいたしましょう!!

 そして我々は。
 再びTさん号に乗せていただき、 この日東京へ帰るアネモネフィッシュさんとすかてんポチ1さんを見送るため、ひとまず仙台へ戻る。

 そのTさん号は、一夜明けてこんなことになっていた。

 ロビーではたしか他所のお客さんが、フロントガラスが凍ってしまっていて前が見えないから、解けるまで待つしかない、なんて途方に暮れた話をしていたっけ。
 前日とのお天気のギャップが凄まじい。

 この日我々はまた別の場所を訪ねる予定なのだけれど、こんなに雪が降っていて大丈夫なんだろうか。

 「ここは山形に近い山沿いだから雪が降ってますけど、多分市街とか海沿いは降ってないと思いますよ。」

 そうTさんが確信されていた。
 彼は市内各地のお天気と密接に関わるお仕事をされているので、場所による気象の差にお詳しいのである。
 同じ仙台市だというのに、気象がそこまで異なるだなんて………仙台市って広い。

 さて。

 このあと我々は、いったいどこを訪れるのか。