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北海道到着!!

 うちの奥さん、初北海道である。
 ただ船の場合と違って、初の一歩をどこにしたらいいのかわからない。
 境界ははなはだあやふやなので、初の一歩認定は結局うやむやのまま終わってしまった。
 さて、北海道はでっかいどう(しついこい?)。
 最寄りの空港に到着したからといって、そこから目的地ニセコまではまだまだ遠い。
 いろいろあるアクセス手段から、我々は鉄道を選んでいた。料金的にはバスより高くつくけれど、居心地、車窓の風景、ルート、どれをとっても僕らにとってはバスより電車である。
 札幌からニセコへとなると、昔なら地の果てに行くようなものだったのだろうが、時刻表を見る限り今でも大して変わっていない。小樽までは頻度高く電車があるのに、その先の便となると、名護市辺野古の沖合いにいるジュゴンなみで、あるのかないのかわからないくらいである。
 ただしスキーシーズンには臨時特急が運行している。
 その名もニセコスキーエクスプレス(キャッ恥ずかしいッ!!)。
 一日にたった2往復しかしていないのだが、まるで計ったかのように、我々がすでに予約していた飛行機の到着時刻にタイミングバッチシの便が一本あったのだ(普通「計ったかのように」じゃなくて本当に計るんだけどなぁ……)。

 羽田空港の京急やモノレール同様、新千歳空港の地下にJR新千歳空港駅はある。飛行機から降りて、ヒョイヒョイとエスカレーターを降りたら電車に乗れるのだ。
 その前に多少の時間があったから空港の土産物屋街を歩いてみた。

 昨年(2002年)のログをご記憶の方もいらっしゃることだろうが、この新千歳空港の土産物街は、ちょっとしたデパ地下並に充実している。六花亭のオヤツがズラリと並んでいるのはもちろんながら、特に北海道とくれば生鮮食料品である。各種カニはもちろんのこと、ホタテ、サケ、ニシンそしてホッケなど、ありとあらゆる魚介類が揃っている。
 ここで買い揃えた土産をたくさんたずさえて、掲示板でおなじみウロコムシさんが年末にやってきてくれたのだ。
 話をいろいろ聞いていたのでさっそく見回っていたら、「ぎょれん販売」の店でキンキが並んでいるのを見つけた。カサゴのような体が、赤く赤く輝いている。
 どれどれ、いかほどのお値段かいなと、大店の若旦那のような余裕を見せて覗いてみたら……

 た………高い…………!!!

 大店の若旦那は、急速にうらぶれ長屋の八っつぁんになってしまった。
 空港であるってことを差し引いても、この値段はなんだ!?
 この魚の煮付けを、一昨日の我々は無邪気に美味い美味いと言ってご馳走になっていたなんて………。
 無知とは罪である。 

ニセコスキーエクスプレス

 新千歳空港からニセコまで、その名も恥ずかしいニセコスキーエクスプレスで約2時間40分である。

 羽田からの時間よりも遥かに長くかかるのだ。
 ここはやっぱり駅弁&ビールでしょう!!
 さいわい、空港の土産物街はその手のもので溢れている。鮭弁当、いくら弁当、ウニ弁当……。ああ、どれもこれも食い倒したい。目移りするくらいならいっそのこと全部!………といいたいところだったがベリーエクスペンシブ。
 仕方がないので「いくら石狩寿司」を購入。うちの奥さんは、3色ナントカという、ウニ、いくら、カニがささやかに並んだセットを選んでいた。
 こういう、一球入魂一点勝負の場合、なぜか人が選んだもののほうがよかったかなァ?なんて思えてしまう。

 電車の発車にはまだしばらく時間があったので、ビール購入はまだ控えた。ぬるくなってしまうもの。
 乗る寸前に買うに越したことはない。
 だったら車内で買っちゃえばいいじゃん、って感じだが、我々はいまさら言うまでもないがバカなので、たかがビールに気がはやってしまう。で、結局待ちきれずにキオスクで「北海道限定 サッポロクラシック」を購入。バカでしょう?

 

 でも、これが思いも寄らぬ大正解だったのである。
 なんと、ニセコスキーエクスプレス号には、車内販売がないのだ!!
 それだけでも相当ショックだったのだが……………。

 車掌のアナウンスでは、車内販売は無いけど飲み物は車両と車両の間のスペースの自販機で、ってことだった。
 僕は単に昼飯のお供として一本飲めばそれで満足だったのだが、電車が走り始めてしばらくした頃、すでに一本飲み干して妙に絶好調になりつつあったうちの奥さんは
 「もう一本飲みたい……」
 などと駄々をこねていた。弁当の他に、おつまみ用に買った「ニシンの切れ込み」というのが絶品だったのだ。
 仕方がないのでテクテクと自販機まで歩いていったら………

 な、ないッ!!!

 無いのだ、ビールが!!
 なんという電車なのだ、ニセコスキーエクスプレス!!
 30分やそこらで到着するならまだしも、3時間弱も乗っている電車にビールが無い!!
 他の車両にあるんじゃないの?と思ったあなた、ニセコスキーエクスプレスが何輌編成かご存知か?
 3輌ですぜ、3輌。
 どこにもなかったの。
 もし乗る前にビールを買っていなかったら………。
 僕は目に涙をためつつ自販機を連打していたかもしれない。

 ま、ようするにビールが欲しけりゃ主要駅で停車中に売店で買えってことですな。
 そこまでして飲みたいわけでもなかったらしく、あえなく一本で断念するうちの奥さんであった。
 でも、これがまた大正解だったのである(理由は後に……)。

 さて、このニセコスキーEX、座席はゆったりしていて、前の席の背側には液晶モニターまでついている。モニターはチャンネルでいくつか番組を選ぶことができ、運転席あたりに備えられているのであろうカメラの電車前方の風景映像も楽しめる。
 車内はすこぶる空いていた。今は車内販売がないだけだけど、そのうち繁忙期以外のこの電車の運行そのものもなくなってしまうんじゃなかろうか??

 空港駅は地下なのでしばらく地下鉄状態だったが、ひとたび地上に出れば気分は川端康成である。
 一面の雪景色!!
 どうだ、これが北海道だ!!
 と、誰に言ったらいいのかわからない妙な感動を胸に秘め、心地良い揺れに身を委ねる我々。
 もうこれだけで来た甲斐があったというものである。