13・新世界紀行〜どて焼き&串カツ〜

 那覇を発つ前になちゅらる院長と飲んでいた席で、実は新世界におけるどて焼き&串カツのオススメのお店を2軒ほど院長から紹介してもらっていた。

 なんで那覇の鍼灸医であるなちゅらる院長が新世界のオススメのお店などを知っているのかというと、彼も戦前にはこのへんで鍼灸師をしていた……はずはなく、彼のマブダチ君がこのあたりを縄張りにしていて、院長が大阪に遊びに来たときに案内してもらったことがあるからだ。

 ま、オススメというよりは「行ったことがある」という意味なのだろうけれど、まずはそこを目指した。
 そう、まずは…というあたり、当初ははしごをしてみるつもりでいたのだ。

 というわけでジャンジャン横丁に突入開始!!

 聞きしに勝る、飲み屋だらけの界隈だ。
 さして広くないアーケード通りに、ぎっしり詰まっているって感じで飲み屋が犇いている。どれも気軽に入っていけそうな一杯飲み屋で、立ち飲みの店が多い。

 まだ午前11時だというのに、そこらじゅうの一杯飲み屋にはすでに客が入っていた。
 このあたりは毎日正月であるらしい……。
 なんと素敵なところだろう!!
 いいなぁ、こういうの………。

 ただ、すぐに重大な事実に気がついた。
 本部半島にあるたくさんのカフェがそうであるように、こういう店も火曜日、水曜日、木曜日のいずれかを定休日にしている店が多いのだ。
 この日は2月5日で火曜日。
 シャッターを下ろしている店がけっこうあるじゃないか!!
 我々が院長に教えてもらった串カツの店「ちとせ」も、残念ながら定休日だった。

 なんということだ!!

 しかし捨てる神あればクロード・チアリ。
 もう一軒のお店「八重勝」は開いていた!!<って、そこがたとえ閉まってたって、ほかにもたくさん店あるじゃん………。

 たくさんある一杯飲み屋がどれも一坪二坪ほどの小規模な店で、たいがい立ち飲みであるのに対し、ここはけっこう広くてカウンターに椅子が設けられており、座席数も多かった。
 これも、レトロ感を求めて近年増えてきたという一般客向けなのだろう。観光雑誌やタウン誌でも紹介でもされているのだろうか、こんな早い時間からいいのかなぁと、いささか遠慮気味に入店したところ、まだ午前中も午前中だというのに他の店に比べて客がやたらと多い。
 それに………
 いかにも地元っていうおとっつぁんもいるけど、あきらかに大阪観光であろう若い女性客も多い!!

 ここまでメジャー化していたとは…!!

 しかもみんな朝からゴキゲンである。

 我々も負けじとさっそく生ビールを頼み、乾杯。
 そしてついに………どて焼きを注文する!!
 これがどて焼きだ!!

 ……って、これ、もっと小さな写真にしたら、みたらし団子に間違えられそう。
 どて焼きとは、つまりはホルモンの味噌煮込みを串にしたものである。
 しかし大阪の人たちはけっして煮込みとは言わず、頑として「焼き」というのだ。

 カウンターの向こうの広い厨房では、寡黙にして威勢のいい兄ちゃんたちが作業を分担しつつテキパキと働いている。そこででどて焼きはこのように作られていた。

 どう見ても煮込んでいるのだが………それでもやはり「どて焼き」なのだ。

 まずは実食………。

 うまい!!

 このなんともいえぬB級テイスト感溢れる味が素晴らしい。
 ビールがいくらでも進んでしまうではないか。

 この店ではどて焼きは3本が基本単位で300円。つまり1本100円である。
 ちなみに後日郵便おじいナカダさんに伺ったところ、まだどて焼きって売ってるの??と驚いたナカダさんは、戦前は1本2銭だったと教えてくれた。すうどんが当時
8銭だっというから、その安さがよくわかる。

 こういう大衆飲み屋で働く人たちは、けっして無駄口をたたいたりはしない。そのため一見しただけではとりつくしまがないほどに無愛想に見える。プロ野球の外野手たちが、いちいちスタンドの客に愛想を振りまくらないのと同じだ。
 そもそもが毎日毎日客相手に人情トークをしていられるような客層ではないのだから仕方がない。こういうお店では、往々にして客は客で勝手に飲み、スタッフはスタッフで無駄口をたたかず注文に応じる、というスタイルになるのだ。

 そこへ僕のようなのが来てしまうと、スタッフの兄ちゃんも随分調子が狂ったに違いない。
 写真を撮らせてもらう断りを入れるたびにいちいち話をするもんだから、無愛想だったはずの兄ちゃんも無愛想になりきれずに困っていた。

 念願のどて焼きを食べたら、今度は串カツだ!!

 これがあなた、もう美味いのなんの!!
 串カツにはいろいろあって、しいたけ、たまねぎ、ししとう、かぼちゃといったいろいろな野菜から、エビ、カキというフライの定番など盛りだくさん。そんな綺羅星のごとくあるメニューの中でも、定食屋に行くとまずはカツ丼を頼んでしまう僕にとって、この豚カツの串はツボ中のツボだった。

 なんというか、衣がまた実に味わい深いのだ。なんだろう、このジューシィさは。
 それが中のお肉と絶妙なハーモニーを奏でるのである。

 そして、串カツといえばこれ!!

 おそらくは特製なのであろう、このソースが実に衣にマッチする。
 この衣、肉、ソースの三重奏が僕の舌を完全に昇天させてしまい、脳の満腹中枢をやすやすと機能停止に追いやってしまった。

 この串カツのソースといえばもうすっかりおなじみ、これが串カツ屋さんでの掟である。

 店内のあちこちに貼ってあった。
 昔はそんな貼紙などなくとも、周知のルールだったのだろう。
 しかしこの二度付け禁止を守るためには、串カツにソースをつける際にはなかなかにテクニックを必要とする。
 だって、先のほうが適量になるようにつけると、最後のほうはソースが足りなくなってしまう………。

 ところで、ソースの隣にあるキャベツは、口直しのために置いてある。
 もちろん食べ放題だ。
 食べ放題なんて大阪らしくない……と思うのは浅慮というもの。これがあるからこそ、さらにいっそう串カツを食べることができるようになるのだから、売り上げ増につながるのである。

 そのワナにまんまとはまる人がいるのだ。<僕のことです。

 だって美味しいんだもの。
 ビールが進む進む!!

 この写真、後の時計をよ〜く見てね。
 11時20分なんだけど………………午後ちゃいまっせ。
 午前11時20分!! 

 だというのに広い店内は老若男女で満席、しかも誰も彼もが生ビール。それどころか日本酒を飲んで赤ら顔になりながら、連れの女性とにぎやかに語らいあっているおとっつぁんもいた。
 しかも店の外には満席で座れないために行列すらできていた!!

 平日ですよ、平日………。
 店内では、若い女性を案内してきたおとっつぁん、いわくありげな熟年カップル、オネーチャンたちの団体、若いカップル、おとっつぁんたち……などなどが、めいめい陽気にジョッキを傾けては厨房に向かって注文をしている。
 午後5時を過ぎるまでは頑なにビールを飲まない民宿大城のヤスシさんが見たら、相当なカルチャーショックを受けることだろう………。

 しかし!
 これだ…………
 
これが大阪だ!!

 こんな世界、東京じゃ味わったことも見たことないもんなぁ。
 誰も彼もが田舎モノであることが発覚してしまうのを恐れながら暮らしている東京では、誰も彼もがよそ行きになりすぎているから、正当なるたまの休暇であるにもかかわらず、好きなように昼前から酒飲んでダハダハ過ごすなんて、かなり限られたところでしかできないに違いない。

 その点、こういう姿がすっかり「大衆文化」と化している大阪では、みんな安心して普通に飲んでしまえるのだ。
 なんだかとても洗練された休日の文化なような気がしてしまうのは、僕が単に酔っ払いだからだろうか??
 とにかく酒飲みには天国のようなところである。 
 本当に「新世界」だ。

 おかげで、ちょっとずつ飲み食いしながらこの界隈に星の数ほどある串カツ屋をはしごしようという当初の計画は、一軒目にして早くも頓挫し、僕たちはおそらくこの時間帯の二人連れ客の中ではナンバーワンの支払いをして店を後にしたのだった。

 いやあもう………これだけでここに来た甲斐があったというものだ。

 どて焼き&串カツ万歳!!
 新世界万歳!!