とにもかくにもこうして僕の３０年ぶりの天王寺動物園散策は終わった。
　陽気に恵まれ、上着の前をはだけて歩くほどに暖かだった動物園。冬の平日ということもあって人もまばらで、公園をのどかに散歩しているかのような居心地の良さだった。
　うちの奥さんいわく、

　通天閣の６００円より安い５００円という入場料で、通天閣の何倍も楽しめた！！

　それにしても………
　通天閣って、動物園からこうもすぐそばに聳え立ってたんだなぁ。
　その画像イメージはまったく記憶に残っていなかった。
　子供の頃は、動物ばかりを追い求めていて、空を振り仰ぐなんてしたことなかったんだろうな、きっと。記憶というものが、いかに「主観」によって左右されているかよ〜くわかる。

　動物園を後にし、地下鉄を乗り継いで梅田に向かった。
　歩き回って疲れたので、ちょっと休憩がてらお茶でも……というわけである。
　そのへんのお店でもよかったのだが、ミナミとキタに大別される大阪のキタにあたる梅田は、僕のような高槻の田舎者でも、阪急京都線もしくはＪＲ１本でＯＫという交通事情もあって、ミナミにくらべれば多少は馴染みのある街なのである。

　……といいつつ、記憶など木っ端微塵に吹き飛んでいる。
　何があったかは覚えていても、それがどこにあったか、ということがわからない。
　前日も大変だった。
　門戸厄神からの帰りに梅田に寄っていて、うちの奥さんがデパチカを見てみたいというので、その間僕は紀伊国屋書店にいることにした。
　梅田に紀伊国屋という大きな書店があった、ということは覚えていたのだ。
　で、阪急電車を梅田駅で降り、さすがに阪急百貨店にはすぐにたどり着けるからそこまでうちの奥さんを案内したあと、僕は紀伊国屋に向かった。

　はずなのだが……。
　ない。
　ない、どこにもない、紀伊国屋が！！
　なぜだ、不況のために潰れてしまったのか？？

　まさかあんな全国区の書店が潰れるわけはなし、たどり着けないだけだと信じて歩き回ること小一時間、一時は泉の広場まで来てしまった。
　泉の広場って、ここを上がれば梅田ピカデリーじゃなかったっけ？？
　こんなに遠くはなかったよなぁ、紀伊国屋。

　どこだ、どこに行ってしまったんだ？？
　フラフラになりながらさまよっていたら、阪急百貨店と３２番街の間のコンコースに、ミニミニ紀伊国屋があった。
　あれ？規模縮小しちゃったの？？
　いや、たしかサテライトショップみたいに昔から小さい店がここにあったな、そういえば。

　かくなるうえは仕方がない。そのプチ紀伊国屋のレジスタッフに訊いてみた。
　あのぉ、大きいほうの紀伊国屋ってどこでしたっけ？？

　沖縄で道を訊ねたら、口では伝えられずに結局「ついてきなさい」ってことになるところだけど、そこはさすが都会の人、僕の豆腐頭でもすんなり把握できるほどのシンプルかつ正確な説明をしてくれた。

　その指示に従って歩いたら………

　あった！！
　ついにたどり着いたぜ、紀伊国屋！！

　………って、ここ、最初にホームから降りてきたとこやんか！！
　なんてことだ、ホームから降りて阪急百貨店を目指すときに少し振り返れば、すぐ紀伊国屋が見えたんじゃないか。このへんにあったはずとは思っていたものの、まさか真下だったとは！！

　やっとたどり着いたと思いきや、すでに僕に与えられた時間は１０分しか残されていなかったのだった。１０分なんて、名護のジャスコの宮脇書店ですら店内を物色できない………。

　そんなヤツが、ちょっとお茶しに梅田までっていっても、アテなどあるはずはない。
　けど、なんとなくおぼろげな記憶がモヤヤヤヤ〜ンと頭に浮かんだ。子供の頃、見晴らしのいいレストランで食事をしたことがあったっけなぁ…モヤヤ〜ン。

　そうだ、３２番街に行こう！！

　これが初日だったら、また３２番街はどこだったっけ？ってさまよう羽目になっていたかもしれないけれど、幸い前日にすでにさまよったおかげで３２番街の場所はバッチリだ。そして、そこが今も飲食店街であることもリサーチしてあった。

　というわけで、お茶をしに３２番街へ。

　阪急３２番街というのは、３２階建てのビルの３０階と３１階にある飲食店街だ。スンゴク早いエレベーターであっという間に３１階にたどり着く。
　ＡＮＲＩという名のカフェに入った。

　さっそく窓際の席へ。
　おお、絶景かな絶景かな！！

　生駒山方面の景色が一望できた。
　よ〜く見ると、ココからも大坂城が見える。

　通天閣から見るよりは、背後に巨大なビルもないので見やすい。
　というか、ここって通天閣よりもはるかに高くて眺めはいいような気が………。３６０度の視界ではないけどね。

　それにしてもこうして再三に渡って大阪市内を見渡してみてつくづく思ったのだけれど………　

　………緑が少ないよなぁ。
　昨今避けては通れない温暖化とか二酸化炭素モンダイとか、そういうのは別にしても、あまりにも緑が少ない。巨大なビルを建てる企業には、その３倍くらいの緑も作ることを義務付けるべきだな、こりゃ………。

　そんなことを考えつつ、ふとすぐ下を見ると……

　おお！！なつかしの梅田ピカデリーではないか！！
　何を隠そう、中学生の頃の僕が友人たちとともに、始発の電車に乗って終点梅田に着くやいなや、未明のこの界隈をダッシュして映画館に駆けつけ、ぜぇぜぇいいながら観た封切初日の映画こそが………

　機動戦士ガンダム�T、�U、�Vだ。

　誘われるがままに初日の上映一回目を３作とも制覇したのだけれど、今もってなんでそんな初日やら上映一回目やらにこだわっていたのかさっぱりわからない。わからないけど、梅田の駅からダッシュする人たちはやたらと多かったことは覚えている……。

　きっとリニューアルされてはいるんだろうけど、懐かしいなぁ。

　そうこうするうちに注文していたものがやってきた。

　抹茶シフォンにモンブラン。
　歩き疲れた体を癒すには申し分ない。

　こういうところで夜景を眺めながらグラスを傾ける……ってのもきっと気分いいのだろうなぁ。
　しかし今は２年ぶりの帰省中である。
　僕たちとともに過ごす時間を楽しみにしてくれている（？）両親をほったらかしにして、自分たちだけでそんな夜を過ごす気は毛頭なかった。