1月20日〜22日

町並み散策雑記帳

 町をぶらぶら歩くと、いろいろ面白いものに出会える。
 まずこれ。

 雪国の必需品、雪かき&除雪セット。
 袋に入っているのは塩化カルシウムだ。これを芝生に撒く肥料のように、凍った路面にばら撒くと、雪氷が溶けるのだそうだ。土地の人は「エンカル」と粋に呼んでいた。
 写真を撮ったときはこうして軒先に片付けられていたのだが、翌日それらがフル稼働することになろうとは……。

 雪対策といえばこれも。

 木々に積もる雪の重さ対策のための縄である。
 正式になんと呼ぶのか知らない。いつも冬になると金沢・兼六園のニュース映像で目にするあれは、何も由緒正しい公園だけのものではなくて、普通の民家で普通に行われているものだった。
 これを各家庭でやるのだろうか?
 そうではなく、やはり業者に頼むらしい。

 業者といえば、意外な業者を発見した。

 さすがというかなんというか…。
 いまどき人力車を製造するメーカーが日本にどれだけあるのだろう?

 さすがといえば、素朴な暮らしの中にも僕らの目に新鮮に映るものがたくさんある。
 家々が重厚なのだ。
 もちろん、全体の作りも素晴らしいけど、特に目立つのがこれ。

 どういうわけか梁がズドンッと何本も外に突き出ている。
 日本の建築様式に詳しくないのでよくわからないものの、普通こういう部分は何かでうまい具合に隠すのではなかったろうか。ところがこの町の家々は、どれもこれも骨組み比べをしているかのようにズドンッブスンッと見事に突き出ている。
 これが美しい。
 この梁の下にあるデザイン部分にちょこっとした模様が彫られ、白く塗られている。

 ものの本によると、これは施工を請け負った棟梁のサインなのだそうだ。昔の大名の花押のようなものなのだろうか。
 ちょっとしたところにさりげない匠の技を見た。

 ちょっとしたところといえば、こういうちょっとしたものまで町並みに合わせた作りになっている。


左:岐阜県宮川水位観測所        右:かわや処(つまり便所)

 だから、町を歩いてたびたび目にする写真下のものも………

 僕はてっきりごみ収集所の目印とか掲示板とか、そういうものだとばかり思っていたらそれは思いっきりバチあたりな誤解だった。
 これは秋葉様といって、大火に悩まされ続けたこの土地の人たちにとって欠かせない、火伏の神様なのだそうだ。町のあちこちに祀られていた。昨年我が家を危ういところまで追い詰めた野火のことを思えば、火伏の神様は我々にとっても重要である。深く祈りを捧げておいた。ごみ収集所と間違えたけど…。

 テケテケ歩いていると、とある通りの北の端に気になる看板が見えた。

 ン?
 赤かげ!?
 こんなところに、赤影の本拠地があったとは!!
 矢も楯もたまらず駆けつけた。するとそれは……

 赤かぶなのだった。
 商店なのか何なのか、滞在中ついにこの店は開くことがなかったので定かならないのだが、そのショーウィンドウにとんでもないものを発見してしまった。

 赤影スナック!?
 なんだそれは、どういうものなのだ? 
 飛騨路限定とあるではないか。ああどうしよう、この店にしか売っていないものだったらどうしよう………。
 それはすっかり杞憂だった。
 町のたたずまいにばかりに目を奪われていたので当初は気づかなかったのだろう、よくよく見ると古い町並みのいたるところで売られていたのである。
 これが赤影スナックだ!

 ポスターに続き、今に生きる赤影さんたちを発見した僕はうれしかった。

 こういうものを売っている店をはじめ、観光客向けのいろんなお店にはこんなものが置かれていた。

 「あんきにはいってくれんさい」
 「ようおいでんさった」
 沖縄でいうなら「めんそーれ」ってところだろう。土産品組合推奨というのはいささか胡散臭いが、言葉自体は素朴で美しい。思わずこの旅行記のタイトルにしてしまった。

 小さい町とはいえ、駆け足でまわってしまうと気づけないような発見がたくさんある。
 どれもこれも、我々が注目するものといえば、見逃したからといって地団駄踏むような類のものではない。けれど、異郷を感じるにはそういった味付けが欠かせない。ヘトヘトヘト…に疲れても、やはりゆっくりじっくり歩き回るのは楽しい。