1月14日・3

5・本島漫遊記

 毎度毎度のことながら…。
 旅行記といいながら、島を出るまでにいったい何ページ費やしているのだろうか。
 とにかくこうしてようやく我々は島を出たのだった。

 夕方に島を出ると、道中とっても眠くなる。
 眠気覚ましに歌でも歌ってくれ、と、助手席で今にも上下のまぶたが合体しそうになっているうちの奥さんにいうと、
 「じゃあ、私のテーマソングを歌おうか?」
 ん?なんだろう…。とにかく聞いてみよう。歌ってみて。

 「〜♪ポヨヨ〜ン、ポヨヨォォン、ポヨヨヨヨヨォォォオン……」

 なんともまぁ、力の抜けるテーマソングであることか……。
 それも、メロディというよりはフンワカフワフワお空を飛んでいくような効果音的節回しがついているだけ。
 いつもこんな歌が頭の中を駆け巡っているのなら、なにはなくともこの人が現在シアワセであることは間違いない。
 文字にすると眠たくなりそうなものなんだけど、あまりに意表を突く攻撃だったせいもあって、笑ってしまったら眠気も覚めた。

 我々は今、南に向かっている。
 翌日新年会が開かれる予定の先輩に、この日野菜や肉類を昼頃届ける旨告げてあった。ところが欠航したために今日は行けなくなった旨連絡し、その後船が出ることになったので、夜になるものの訪れる旨を再び告げた。

 告げたといえば、ながみね動物クリニックも同じである。
 明日連れて行きますという旨を告げ、翌日には船が欠航した旨を告げ、夕刻にはやっぱり連れて行く旨を告げた。
 おまえは旨旨教の教祖か!
 吉本新喜劇なら突っ込まれるところだった。いったい何度「旨」を告げたのだろうか……。

 午後6時半にクリニックに着き、かんぱち君たちをアマノ先生に託し、すぐさま浦添へ。
 車線が見えないくらいの激しい雨が降っている。

 あまり遅くなってもいけないので焦りながらゆっくり走らせていると渋滞につかまった。こんな時間にこんなところで渋滞?たしかによく混む交差点ではあるけれど…。
 訝しく思っていたら、前方の車が1台、また1台と進路変更をしていった。
 工事か?
 こんなところで工事かよぉ。文句をたれつつノロリノロリとその場所を通過したときに見た光景は、実に驚くべきものだった。
 停めている車の燃料タンクにガソリンを入れていたのである。
 工事ではなかった。
 なんと、交差点にかかる坂道の途中でガス欠になったオロカモノがいたのである!
 おそらく学生であろう、困った彼は携帯で友人にガソリンを運んでくれるよう頼んだに違いない。傍らに止めた原付バイクにいる青年が恥ずかしそうに「無関係」のふりをしていた。

 いやはや、沖縄だなぁ……。
 これが雪国だとコイツは間違いなく凍死だ。

 渋滞に巻き込まれつつようやく浦添の先輩宅にたどり着いた頃には、雨はすっかり上がっていた。
 大雨の中荷物を下ろすのはやっかいだ…と思っていた僕らにとって、このうえない行幸である。
 「水納島の八百屋です」
 とインターホンに告げ、野菜を玄関まで運ぶと
 「飯用意してあるけど食ってく?」
 我々が空腹状態でいることを見越してくださっていたのである。
 今にも飛びつきたいほどにお腹が減ってはいたものの……。
 「待っている…」
 そうつぶやいた船長カネモトさんの顔が脳裏に浮かぶ…。
 さすがに食事だけいただいて「それじゃあ!!」ってすぐさま帰るわけにもいかないものなぁ……。
 腸が断たれるほどに腹が減ってはいたものの、断腸の思いでありがたいお誘いを辞退させていただいたのだった。

 そしていよいよ那覇へ。<なにがいよいよなんだか……。