10・二人のため世界はあるの

 実はこの日のこの厳重警戒は、前日から宿泊客に通知されていたものだった。
 昨夕いったん部屋に戻ったときに、ドアの隙間からチラシが挟み込まれていたのだ。

 賓客来館予定のため、下記の時間新館の玄関とエレベーターを通行止めにいたします…

 な、なに??

 その時間は回り道をしてホテルから出入りしてくれというのである。
 賓客っていったい誰だよ??

 その答が今明らかになる!!

 表通りは完全に横断歩道が遮断されてしまったので、普通に歩いていた人たちは突如進路を遮られ、にっちもさっちもいかなくなっていた。
 だから自然に人々の数が増えていく。
 周りには警官や公安関係者らしき警備の人たちが。
 それらを部屋から眺めていたところ、やがて白バイが数台ずつやってきた。
 そして黒塗りの高級車輌が。

 そう。
 今日の賓客とは。
 スーパーVIPとは。

 なんと、天皇陛下と皇后陛下だったのである!!
 エエッ!?リーダーやブク嬢の披露宴に陛下も??

 

 そんなわけはない。
 この日両陛下は、なんと僕たちが泊っているこのホテルニューグランドのどこかのレストランで昼食をおとりあそばすご予定だったのである。
 おそらく写真の黒い車の向こう側の後部席には、美智子様がいらっしゃったと思われる。

 わぉ!!
 ナマ天皇だ、ナマ皇后だ!!

 そんな機会なんて、おそらく一生に1度あるかないかだろう。
 だからこそ違いのわかる男と隊長は、野次馬にまぎれてホテル外に陣取っていたという。そして見事、乗車中のお二人と、ホテルに入る前に人々に手を振るお二人をナマで見たと。

 な、なんかうらやましい……。
 うらやましいといいながら、僕はといえばパン一の姿で窓から見下ろしていた。お姿は見えなかったとはいえ随分失礼なもので、世が世なら不敬罪で牢獄に入れられるところだったろうなぁ。

 実はこの日天皇陛下がお越しになるというのは、披露宴をあげるリーダーT沢さんたちには知らされていたので、僕たちも前夜から知っていたのだ。
 でもそこはそれ、セキュリティのモンダイから滅多なことは口外できないという話だったのだけれど、この日はホテルスタッフみんなが舞い上がっていたのか、すでに両陛下がお越しになる前から誰もが知っていたようである。
 だって、交通整理をしている係の一人なんて、

 「これから天皇陛下がここを通りますから!!何回か観れますからね!!」

 などと案内をしていたというのだ。
 それはともかく、まじめに警備に当たっているホテル周辺の人々も、さきほど僕が通りかかったとき、なにやら冊子を見ながら相談事をスタッフ同士でしていたんだけど、その冊子のタイトルには、

 「行幸ナントカカントカ……」

 ってデデンと書かれてあった。
 極秘で警備しているというのに、デカデカと「行幸」と言う字を見せてしまうってのは、セキュリティの観点からはどうなのよ……。

 こうして、リーダーT沢さんとブク嬢の結婚式会場には、天皇皇后両陛下という、VIP中のVIPまで登場し、祝賀ムードはこの上なく盛り上がっていくのであった。

 午後2時からの挙式に合せ、我々は1時にホテルを出発することにしていた。
 まだ両陛下はこのホテル内でお食事中であろう……。
 ロビーで待ち合わせ、いざ出発!!


気の利くホテルスタッフのおねーちゃんが撮ってくれた

 どうです?前夜廊下で寝ていた人と同一人物とは思えないでしょう??

 目指すは、カトリック山手教会である。
 あのハイソな丘の上空間にある、由緒ある教会だ。
 歩いて10分ほどだというので、テクテク歩いていくことにした。

 車だとあっという間のはずなのに、坂道のせいか歩くと長い長い。
 その道々には、ホテル前と同じように厳重な警戒ラインが敷かれていた。
 いったい両陛下はお食事後この先どこまでお越しになるのだろう??

 汗をかきかき歩いていると、ようやく教会が見えてきた。
 間近で観ると、やはり立派な教会だ。

 恥ずかしながら教会での結婚式だなんて、過去に一度出席したことがあるだけで、どうにもこうにもこそばゆい感じがして、どういうふうにたたずんでいたらいいのかよくわからない。
 ところが、違いのわかる男は、カトリック信者であるという冗談のような本当の話があるので、彼はかつて知ったる自分の庭のごとく、ズカズカと一人教会の中へ入っていった。

 いったい中で何が行なわれているのか?
 秘密のミサか、極秘の儀式か……。

 予行演習なのだった。
 そうこうするうちに時間となり、列席者は席へと着く。
 なんだか緊張する。
 そして……。

 新郎新婦入場!!
 おお………。
 あの大酒飲みが……、あの大酔っ払いが……、こんなにきれいな花嫁さんになろうとは!!<新婦のほうかいっ!!

 いやあ、リーダーもまるでトトロがタキシード着てるみたい……。<ほめ言葉です…。
 いささか緊張気味のリーダーと、歩きづらそうなブク嬢。
 このバージンロードでずっこけたらどうしよう……。
 見ている僕は気が気じゃなかった……。

 そして、神父様のもとで誓いの言葉、および指輪の交換。
 リーダーよ、ブクちゃんよ、主はすべてご覧になっておられましたぞ。

 この結婚指輪には、二人にとって欠かせない刻印が打たれていた。
 そう、これである。

 ご存知(?)ごっくん隊のマークだ。
 ちなみにこの旅行記のバックデザインになっている絵でもあるが、これは僕が描いたものではなく、著作権はごっくん隊にある。
 これを刻印してくれといわれた指輪業者はおそらく面食らったろうけれど、本人たちはいたって本気なのであった。

 教会での結婚式には欠かせない聖歌や、バイオリンの生演奏などもありつつ、滞りなく式は終了した。
 そして最後はライスシャワーである。
 米粒だとカラスが来るので、最近では花びらを投げるのだそうだ。

 観光地横浜、それも人もうらやむ山手の由緒ある教会である。
 普段は一般客も気軽に見学することができるのだが、今日はこの結婚式のため、一般の方々は入れなかった。そして、教会の外を歩いている人々は、特に若い女性たちはうらやましそうに新婦の姿を眺めていたのだった。

 そんな外からの羨望の視線を浴びつつ参加者全員で記念撮影を。そしてその後は、みんなが新郎新婦と一緒に写ろうとして、しばし二人は名護パイナップル園のパイナップル人形のような存在と化していく。
 もちろん、我々もついでに……。


最後まで待っていたために、
階段ではすでに花びら掃除が始まっていた………

 それにしても…。
 ブク嬢ってこんなに背が高かったっけ?
 うちの奥さんとこんなに背が違ったっけ??
 ずっと違和感があったのは、きれいなドレスのせいではなかった。その背丈だ。
 ひょっとして………そのドレスの裾の中は………??

 ジャンッ!!

 スーパー厚底!!
 リーダーとの背のバランスを考えても、何もこんなに上げなくったっていいじゃないかと思ったら、これはリーダーとのバランスというよりも、選んだドレスの丈の関係でこうせざるを得なかったらしい。
 そのため、リーダーも多少厚底の靴だったそうである。
 そりゃあ、たしかにこれじゃあ歩きにくいだろうなぁ………。

 花嫁になるには、一筋縄ではいかない苦労がたくさんたくさん隠されているのであった。

 苦労はたくさんあっても、やはり晴れの日は晴れの日。
 一生に一度なのだもの、ちょっとくらい大変なことがあったってなんてことないに違いない。そう、今日だけは言っちゃったって神様に怒られたりはしないはずだ。

 二人のため〜、世界はあるの〜♪

 今日本当の意味で真のVIPは、あなた方お二人なのだから。

 さあて!!
 式も終わったし、あとは披露宴だ!!
 美味いものを食うのだ!!