8・前夜祭の後の祭り

 まぁ、とにもかくにも締めのラーメンという思いを遂げ、今度こそホテルに帰ってきた。
 明日もあることだし、ゆっくり部屋で寝ることにしよう………

 という思いを、危うく遂げられないところだった。
 さっきまでは無性に気持ち悪くて大変なことになっていたというのに、ここへきてすっかり気分が良くなり、なんだかもうどこでもいいから大の字になって寝てしまいたい!!と思ってしまったのが運のつき。

 運も尽きたが力も尽きた。
 ちなみにこれは、部屋の前の廊下である。
 部屋があるのが廊下の端のほうだったのであまりよくわからないだろうけど、撮影者であるうちの奥さん側には、長い廊下がずーっと続いている。
 まったくもう、オチアイ側から撮ればその雰囲気がわかるのにぃ…。<こんな酔っ払いに言われたかないよ!!<ごもっとも。

 由緒ある老舗ホテルの廊下で、なんてことをしているのだろうか……。
 ちなみに、隣で一緒に寝ている隊長は、この場所で突如腕立て伏せまでしていたくらいである。有り余る体力を無駄に消費してこそ酔っ払いなのだ。

 このあと、なんとか起き上がって部屋へ戻ろうとする我々の背後を、ホテルスタッフが雑巾を持って駆け抜けて行ったという。
 ひょっとして、我々の愚行のためにスタッフが駆けつけてしまったのか??

 …と思いきや。
 この廊下の反対側の端のほうの部屋で、酔客がとんでもないことになっていたそうだ。
 どうやら由緒ある老舗のホテルに泊っている客は、こんなヤツばかりのようである。

 とにもかくにも、部屋へ戻り、ようやくベッドへ……
 ……たどり着けたのはうちの奥さんだけだった。

 あと一歩、あと一歩であたたかいフカフカのベッドだったのに……。
 酩酊状態の僕には、ベッドの上は二百三高地の頂上よりも遠かったのだった。

 暗闇の中で目覚めれば午前3時。
 これが自分の家だったら、床の上で寝ていたら節々が痛くなっているところだ。
 ところがどういうわけか、ベッドのハザマで寝ているというのに寝心地がいい。

 ハッ!!

 なんてことだ……。
 このホテルの絨毯は、我が家のせんべい布団よりもはるかにフカフカじゃないか……。

 せっかくホテルに泊っていながら床で寝て、それでいて寝心地のよさに満足していたというのは、二日酔い気味の午前3時に味わうにはかなりイタイ話なのだった。

 やがて夜が明けた。
 どんなに飲んでいても、朝になると目が開くというのが、悲しいかな年をとった証拠なのだけれど、これはこれで旅先ではとても便利な機能でもある。
 おまけに、二日酔いを覚悟していたというのに、目覚めはすこぶる快調。最初に食べたにんにくのおかげかな??

 快調に目覚めても、記憶はそれほど快調ではなかった。
 そうだよなぁ、あれほど飲んでたんだものなぁ……。
 起きたとはいえまだ活動しだすには早かったので、ベッドでまどろんでいるうちの奥さんともども昨夜を振り返ってみた。デジカメ写真を見ながら……。

 それにしても残念なのは、無頼船での生ハムである。
 あれは美味しかった。絶妙だった。妙なる味だった。
 あれを、あれを……自分で切ってみたかったなぁ。うちの奥さんが切ってるところを撮りたかったなぁ……。
 そう思いながら昨夜の写真を見ていると……。

 あれッ!?

 

 

 切ってんじゃんッ!?
 おいおい、なんだよ、いつの間に!!

 アーッ!?

 リーダーまで〜!??

 なんだよなんだよ、どういうことだよ、どうなってるんだよぉ〜??

 ありゃっ!??

 

 

自分もやってんじゃんっ!!

 

 

 

 


    
 ↑バカ

 いやあ、酔っ払いの記憶って、ある意味めちゃくちゃ恐ろしいですね……。
 ちなみに上の2枚は僕が撮影していたのだ。そうだったっけ??そういわれてみるとそんな気も……。

 ほかにもたくさんお客さんがいたというのに、なんと迷惑なことをしているのだろう…。
 にもかかわらず、マスター・次郎さんはイヤな顔ひとつせず……いや、少なくとも困った顔はしていたと思うけど……、実演指導までしてくれていた。

 あ、ありがとう、そしてゴメンナサイ、次郎さん。
 僕たちはちゃんとお礼とお詫びをしていたのだろうか……。

 「いえ、していませんでした」

 当初こそテンション高く、そのまま突っ切るかと思われたものの、僕のあまりの酔態に酔いがすっかり醒めてしまって冷静になったというオチアイに、翌朝断言された。

 そうか、次郎さんにお礼もお詫びもしていなかったのか…それは心残りだなぁ…。もう少し三陽でビールの量を抑えておけば、こうはならなかったろうになぁ……。

 後悔先に立たず。。
 こうして前夜祭は、後にもうひとつの祭りを残して無事に(?)翌朝を迎えた。
 まさかこのあと、再び次郎さんに会うことになろうとは、神ならぬ身の僕の知る由もなかったことなのだった……。<って、おい、それは飲んでいるときから聞いていただろう!!<え?そうだったっけ??