水納島の魚たち

アカメハゼ

全長 15mm

 透明な体にピンクのお目目が特徴的なアカメハゼは、潮通しのいい外洋に面したサンゴ群生ゾーンを好むためか、水納島のような環境ではなかなかお目にかかれない。

 それでもリーフというリーフがサンゴで溢れかえりかけていた90年代末に、一カ所だけアカメハゼが安定的に観られる場所があった。

 観るにも撮るにも有難いリーフエッジ下の浅いところだったから、わりと多くのゲストにご紹介できたはず。

 しかし98年の世界的なサンゴの白化の際に水納島のミドリイシ類が壊滅すると、サンゴに食住を依存しているアカメハゼたちは当然ながら姿を消した。

 以後それなりにリーフのサンゴは復活しているけれど、アカメハゼとの再会はその後20年間まったくなかった。

 もう二度と会えないのかも…

 …と諦めかけていた2018年のこと。

 まさかの団体様で再登場!!

 それは岩場のポイントのわりと深いところで、ポツンポツンと点在するテーブル状のミドリイシのひとつだ。

 なぜだかそのサンゴにだけ、大小合わせて10匹ほどのアカメハゼたちが集まっていた。

 大小といってもそもそも小さいから、98年以前には明確に肉眼で見えていた彼らの姿は、それから20年を経た我がクラシカルアイでは、ファインダーを通さなければクッキリ見えなくなっている。

 でもファインダーを通しさえすれば……

 サンゴの枝にチョコンと載っている姿をじっくり観ることができる。

 もっとも、10匹くらいで集まっているからか、数に関係ないのか、このようにチョコンと載っている時間よりも、浮いてチョコチョコ動いていたりホバリングしている時間のほうが長い。

 どちらであれ、久しぶりに再会できたことに興奮してしまい、最初は気づかなかったのだけど。

 彼らが集まっているサンゴをよく観てみると、枝の1本だけ、先から数cmの部分が白くなっていた。

 そしてその部分に、やけに執着している子がいる。

 アカメハゼは藻食ってわけじゃないだろうに、やけに表面を口でいじくっているのだ。

 はて、なんで?

 謎のヒミツがあるらしきサンゴの表面を凝視してみると……

 卵だッ!!(眼がキラキラしてます)

 先ほどからホバリングしているハゼ自体もよく観てみると……

 輸精管(おそらくオスなので)が出ている。

 先に産んである卵のケアをしつつ、これから産みつける場所を掃除していた、もしくはもう産みつけていたかしていたのだろう。

 同じ仲間のガラスハゼがムチカラマツの肉を剥ぎ取った部分を産卵床にしているように、かれらアカメハゼも、サンゴの肉を剥ぎ取って産卵床にしているようだ。

 いやはや、まさか20年ぶりに果たした再会が、初めて目にする産卵関連シーンだなんて…。

 まさに、目がテン!!

 …になっているわけではなく、わりと頻繁にしていたアクビシーンを撮りそこなったもの。

 撮りそこなってピントがボケボケで目の周りのピンクがにじんでいるために、黒目部分がやけに小さくなってしまっている。

 この失敗を経て冒頭の写真が撮れたのはいいものの、ボケているほうがちゃんと撮れたものより面白いかも。

 閑話休題。

 再会を果たし、数日後に再訪してアクビも撮れたので、その後は落ち着いて彼らを眺めることができるようになった。

 冷静に観てみると、大きなモノでもほぼ1cmくらいで、10匹くらいいるうち1cmほどあるのは2〜3匹ほど。  

 そのうちの1匹が、なにやらしきりと体を小刻みにプルプルさせては、もう1匹の気を引こうとしているような動きをしていた。

 オスがメスに求愛しているらしい。  

 そして例の枝先が白くなった部分に誘おうとしているようなのだけど、まだメスがその気にならないのか、彼の熱意は空振りに終わっていた。  

 仕方なく、1人で産卵床を整えるオス(多分)。

 実際に卵が産みつけられているし、この場で繁殖行動に励んでいるってことは、将来的にはアカメハゼの姿を目にする機会も増えてくれるかもしれない。

 この日サンゴに産み付けられたばかりっぽい卵たちの、今後の成長に期待しよう。

 …という期待もむなしく。

 ここのアカメハゼたちはこの年かぎりで、翌年(2019年)にはすっかりGone。

 再会までに、また20年かかるのだろうか……

 …と思いきや、今年(2020年)再び登場してくれた。

 それも、リーフ際の浅いところにあるサンゴの上に。

 もっとも、大小それぞれ1匹ずつ、計2匹しかいないから、彼らが姿を消してしまうのも時間の問題だろう。

 やはり環境的に水納島は、残念ながらアカメハゼがフツーに観られる海ではないのかなぁ…。