水納島の魚たち

ベンケイハゼ

3cm

 ひと昔前の図鑑だと、ベンケイハゼが属するイレズミハゼ属のハゼたちといえば、2400種をも網羅した巨大図鑑でも1200種超を掲載しているポータブルな図鑑でも、載っているのはせいぜい3種類くらいのもの。

 末端ユーザー(?)的にはベンケイハゼとコクテンベンケイハゼを見分けることさえできればそれで充分だった。

 ところがハゼ変態社会帝国がとんでもない一大勢力になるにつれてこのグループのハゼたちもにわかに数を増やし、気がつけばえらいことになっていた。

 こんなに種類が増えているとなると、ひょっとするとこれまでベンケイハゼと信じていたもののなかには別種のハゼがいたのかもしれない。

 さっそく過去に水納島で撮った写真をすべてチェックしてみたところ…

 これがまた驚いたことに、すべてベンケイハゼなのだった。

 それはまぁ、撮りやすいところにいてくれる子を撮ってばかりいるから、ということもあるのだけど。

 ベンケイハゼはもっぱら、昼なお暗い岩陰の狭苦しいところを住処にしており、オーバーハング状の岩肌にピトッとついていることもあるし…

 狭いところにチョコンと身を置き、外の世界を眺めていることが多いので、外の世界から彼らを見ると、正面顔しか見られないことも多い。

 それをあらかじめふまえておかないと、ガイドさんに指し示された際にハゼの横向きフォルムをイメージして探しても、どこにいるのかわからない…ということになる。

 見え方に慣れると、ペアでいるところも観られる(そのまま掲載すると見づらいから、以後は魚の本来の天地に合わせて写真を回転させます)。

 ただ、ベンケイハゼがそこにいるとガイドさんから指し示されたからといって、無造作にライトを当ててしまうと、ベンケイハゼは嫌がってさらに奥へと隠れてしまう。

 暗がりが好きな魚をこっそり覗き見る場合は、無闇に強い光をあてず、ライトの端っこの弱い光をそっとあてるくらいから始めれば、やがて光に慣れてくれることもある。

 覗き見ていても差し支えないほどになると、ピトッ…と岩肌についているベンケイハゼは、ときどきピョンッと飛んで再び元に戻ってくるという動作を繰り返すようになる。

 フワフワと漂ってくるエサを、その都度ゲットしているのだ。

 そのような様子を観たくとも、ベンケイハゼはたいてい狭い暗がりにいるから、基本的にとっても観づらい。

 ただし小魚が群れ集う根にある比較的広い暗がりにいてくれたりすると、覗き穴のような隙間からその姿を観ることができる。

 そこではスザク&ヤイトのサラサエビたちや、ソリハシ&ベンテンのコモンエビたち、そしてアカシマシラヒゲエビに囲まれて、なにやらベンケイハゼがエビ祭りのゲストになっているかのようだった。