水納島の魚たち

ハワイトラギス

全長 10cm

 サンゴトラギスのように、いや、それ以上に美しく赤きハワイトラギス。

 しかも小柄でキュート。

 サンゴトラギスと同様、サンゴ礫が混じるような砂地で見られるのだけれど、サンゴトラギスよりやや深いところを好む傾向があるように思える。

 そのため、水深20m前後まで転石が転がっているようなポイントだとオトナもわりと数多く観られるのに対し、転石ゾーンが水深10mそこそこで終わり、そこからは砂底になってしまうところでは、幼い個体しか観られない。

 水納島の砂地のポイントは砂が白いので、ハワイトラギスの美しい赤がよく映える。

 この模様とそのサイズだけでも充分カワイイのに、この子はそのうえ写真のようにホバリングしていることが多い。

 その様子もカラーリングもヤシャハゼに似ているため、ヤシャハゼだと勘違いする方もいらっしゃるほどだ。

 ただしホバリングといっても、底から数cm浮いている程度だけではなく、個体数が多いところでは、底から1m弱くらいも離れたところで、みんなで楽しげに浮いている。

 同じように高い位置でホバリングしているハワイトラギスが、この周囲に20匹くらいいた。

 ハワイトラギスはこのように中層にいる時間帯が長いせいか、オトナの尾ビレは、底で暮らしている他のトラギス類に比べ、より遊泳性っぽい形状をしている。

 尾ビレの上下端が、シュッと長く伸びてかっこいいのだ。

 そんなシャープな尾ビレを広げ、悠然とホバリングしているところをじっくり拝見したい。

 しかし彼らとしてはホバリング中は無防備だからなのか、近寄るとすぐに着底してしまい、せいぜい数cmほどのホバリングしか見せてくれない。

 警戒心はわりと強く、着底している時には、近寄るダイバーを絶えず正面で、すなわち両目で捉えるように動く。

 体は横向きでも顔はこちらを向いている、ということが多いので、なかなか真横からフツーに撮らせてはくれない。

 逆に、真正面から撮るのはたやすい。

 こうしている間も、ホントはホバリングしていたいという血が騒ぐのか、ふとしたはずみに……

 体後半が我慢できなくなるようだ。

 それほどホバリングが好きなハワイトラギスではあるけれど、隠れ家はやはり死サンゴ礫の下になる。

 危険を察知するとサッと逃げ場にできる隠れ家をキープしているから、不用意に近づくとみんな石の下に逃げてしまう。

 ある時、逃げているわけではないのに、石の下を覗き込んでいるハワイトラギスがいた。

 どうやらオスとメスのようで、しきりに石の下の塩梅を確かめている模様。

 ひょっとして、二人の新居を物色中とか?

 この2匹は、直前まで楽しげにホバリングしていて、その後こうして新居の物色(?)を始めている。

 ひょっとして高所でのホバリングって、オスとメスが意中の相手と出会うための儀式とか??

 海底にいたんじゃ、遠くにいるあの子は見えないだろうから、ホバリングしたほうが出会いの機会は増すに違いない。

 恋の儀式と思って観てみると、なるほど、みんな情熱的にホバリングしているように見えてくる。

 はたして真実やいかに。

 ただエサのためだったりして…。