水納島の魚たち

ホシカザリハゼ

8cm

 マダラカザリハゼの寛容なる精神を知って以来、しばらくは彼らを見る目が変わっていたというのに、それから10年以上経ってすっかり元に戻っていた昨年(2021年)2月、何を思ったか目の前にいたマダラカザリハゼをテキトーに1枚撮っていたらしい。

 ところが今回マダラカザリハゼの写真を整理していたところ、その写真を見て「ん?」となった。

 これはホシカザリハゼではありますまいか。

 背ビレにチョンチョンとついている黒い点は、紛れもないホシカザリハゼの印。

 撮影後1年以上経って人生初認識、そして当然ながら初記録。

 ただしテキトーに撮った際にはマダラカザリハゼと思っていたから、今のところ海中で認識したことはない。

 認識したことはないものの、どうやらフツーにいるようで、ネット上でいろいろ調べてみたところでも、「ホシカザリハゼがいた!」と騒ぎ立てているヒトはいない。

 撮った記憶はまったくないものの、たった1枚しかない写真の前後に撮ったものを見るかぎりでは、どうやらベラベラブダイバーになってリーフ際の浅場でベラやブダイの幼魚をサーチしていたときのことのようだから、浅いところにいたのだろう。

 これまでずっと、マダラカザリハゼと思ってスルーしていたに違いない…。

 まずは海中でホシカザリハゼをしっかり認識するところから始めよう。

 追記(2022年6月)

 …というわけで海中でもホシカザリハゼを認識するようになって、まず彼らはリーフ際の浅いところでフツーに観られることがわかった。

 浅くて明るいためかホシカザリ印が目立たないけれど、よく観てみると…

 砂底の根の周りで観られるマダラカザリハゼと同じくらいいて、それぞれ砂に顔をつっこんではエサをモグモグ食べていた。

 また、マダラカザリハゼ同様、砂地の根の周辺でも暮らしてもいた。

 気持ちのモンダイかもしれないけれど、砂地の根の周りよりはリーフ際の浅いところのほうが多く観られるような気がする。

 星印がさほど目立たないとなるとマダラカザリハゼと区別するのがややこしいものの、腰(?)のあたりから尾ビレ方向に続く2連黒丸印の色味がマダラカザリハゼよりかなり濃いから、たとえクラシカルアイのせいで星印が見えなくとも、この模様が濃ければホシカザリハゼだと思って十中八九間違いはないはず。

 両者を区別して注目することもできるようになったので、リーフ際にいたホシカザリハゼを観ていたところ、面白い様子を観ることができた。

 小石の陰から身を乗り出して周りの様子を確認すると、彼はここから少し離れたところまで斜面を上がっては反転し…

 体を激しく震わせて、砂を後方に吹き飛ばす。

 巣穴の入り口付近でも…

 砂を吹き飛ばす。

 巣穴の中に入ってからも、砂を外に吹き飛ばしていた。

 まさかそんな面白い行動を見せてくれるとは思ってもいなかったので、最初はボーゼンと観ていただけで終わったものの、巣穴に入ったあとすぐ出てきてはこれを何度も繰り返してくれるものだから、動画でも撮ることができた。

 動画冒頭のように巣穴から出てくるときは小礫をくわえていることもあり、それを離れたところにポイと捨ててから、砂排出作業を始めるホシカザリハゼ。

 巣穴へと続く回廊を設けているようにも見えるこの作業、これはメスを誘うための産卵床を拵えているオス、という図なのだろうか。

 マダラカザリハゼにしろホシカザリハゼにしろ、どちらもハゼ界のベラブダイといってもいいほどに多くのダイバーにスルーされているハゼたちだけど、意外や意外、ハゼ界のベラブダイがこんな面白い行動を見せてくれるとは。

 目を向けさえすれば、きっと何かが見えてくる魚たちの世界なのである。