水納島の魚たち

フタホシゴンベ

全長 8cm

 イレズミゴンベのように、本来の主生息域から遠く離れているために水納島ではそうそう会うことができないはずなのに、何かの拍子に出会えた…という魚たちがいる。

 その一方で、水納島を含めた沖縄本島近海の、ダイバーがフツーに訪れることができる浅所にいるはずにもかかわらず、なかなか出会えない…という魚もまた多い。

 このフタホシゴンべもそういった類の魚で、図鑑的に「やや稀種」とはあるものの、けっして出会えないはずはないゴンべの仲間ということになっている。

 ところが恥ずかしながらワタシは水納島での過去26シーズン(2021年現在)に加え、それ以前の9年間を含めてもなお、一度も出会ったことがなかった。

 というのもこのフタホシゴンベ、浅所にいる魚にしては、類まれなる強く高い警戒心の持ち主なのだ。

 そのためこちらがその存在に気づく遥か前から、とっととサンゴの枝間の奥深くに隠れてしまっているという。

 それでもサンゴを覗けばたいていいるというのならまだしも、さすがに「やや稀種」だけあって、枝間を覗いたからといっておいそれと会えるわけでもない。

 サンゴの枝間に見え隠れする小さなハゼやエビカニなどを執拗に追い求める変態社会の方々には、ひょっとするとお馴染みのゴンべなのかもしれないけれど、普段は「見える魚を見つめていたい派」のワタシとしては、ほぼ出会う機会はないといっていい。

 ところが…。

 今年(2021年)6月、ついにその日がやってきた。

 フツーに砂地の根をフラフラ巡ってリーフ際に戻ってくると、オタマサが呼んでいる。

 はて、なんじゃらほい…と指差す先のサンゴの枝間を覗いてみると……

 顔から背ビレから主要部分はすっかりサンゴの陰になってしまっているけれど、その名のとおりの2つの星が!!

 …って、咄嗟には名前が出てこなかったけど。

 さすが高い警戒心の持ち主、この姿勢のまましばらくジッとしていた。

 でもずっと待っていると、窮屈になってきたのか身を翻してくれた。

 見慣れた他のゴンべさんたちに比べると、心もち口がとんがっているように見えるけれど、その姿はやっぱりまぎれもないゴンべさん。

 もう少し赤味が強いのかと思いきや、サンゴの色に同調させているのか、わりと地味地味ジミーなカラーリングのようだ。

 警戒しつつも枝奥でたびたび体を動かしてくれたので、かろうじてご尊顔を拝し奉ることができた。

 でもせっかくなら、横から全身を拝みたいところ。

 高く強い緊張感の持ち主だから、彼を警戒させないくらいの遠方から眺めるしかないのだろうか。

 図鑑によると行動範囲は狭いそうで、なおかつ夕刻になると外に出てくる習性があるという。

 この日観たサンゴの場所さえ覚えておけば、いずれフルボディチャンスに恵まれるかもしれない。

 追記(2022年8月)

 今年(2022年)は春からサンゴガニ類をサンゴの枝間に求めるサンゴガニゲームがマイブームになっていたこともあって、サンゴの枝間にいる様々な魚たちと出会う機会が多くなっていた。

 7月のある日、リーフエッジ付近に戻ってきてからサンゴガニゲームをしていたところ、ヘラジカハナヤサイサンゴの枝間にフタホシゴンベがチョコンと全身をさらしているではないか。

 フルボディチャンス!

 けれど、かつて出会ったところとポイントは同じながらも場所はまったく異なるサンゴだったからまったくノーマークで、気がついた時には直上に居てしまい、ちょっと動いただけで逃げてしまった。

 はぁ、フルボディチャンスも一瞬で終わりか…。

 …と諦めつつ引き続きそのサンゴ群体をチェックしていると、驚いたことにフタホシゴンベは完全に姿を隠してしまわずに、枝間を移動しつつも基本的に見えるところに居続けてくれた(冒頭の写真)。

 観ているとサンゴの枝の表面の何かをしきりについばんでおり、食事に夢中でカメラなど眼中になかったのだろうか、こちらを向いたまま、全然逃げようとしない。

 サンゴの表面の何を食べていたのかは不明ながら、フタホシゴンベとは思えないフレンドリーな彼女のおかげで、これまで気がついていなかったジジツが明らかになった。

 ゴンべの仲間はどれもみな背ビレのそれぞれの棘の先にオバQの「毛が3本」のようなものが生えているのだけれど、このフタホシゴンベの「毛が3本」は、数も長さも尋常ではなかった。

 水槽内の嫌われ者、セイタカイソギンチャク大発生…てな感じ。

 サンゴの枝間に暮らしていて、よくもまぁこのような繊細な皮弁が擦り切れないままでいられるよなぁ…。

 ひょっとして、多少すり切れた状態がこれで、本来はもっとボーボーとか?

 意外な特徴も明らかになりつつ、念願のフルボディを鑑賞させてくれたフタホシゴンべ。

 こんなに早くお近づきになれる日が来るとは思ってもいなかった。

 その後同じサンゴ群体をチェックしにいっても、フタホシゴンベの姿は見当たらず。

 あの日あの時だけの千載一遇だったのだ。