水納島の魚たち

イシガキカエルウオ

全長 6cm

 ギンポとカエルウオってどう違うの、とゲストに訊かれることがある。

 その疑問はもっともながら、あくまでも語呂であって、特に両者を分ける生物学的な根拠はない。

 もちろんカエルウオとは「買える魚」という意味ではなく、カエルみたいな顔からその名がある。

 たしかに顔はカエルのようではあるけれど、イシガキカエルウオも姿形はやっぱりギンポだ。

 イシガキカエルウオはリーフエッジからリーフ際といった浅いところでで多く見られ、サンゴの上にチョコンと乗っている姿が愛らしい。

 白化してピンク色になっているハマサンゴの上に乗っていたりすると、とっても絵になる……

 …のに、彼はウンコ中なのだった。

 巨匠コスゲさんによると、エサ(海藻)を食べている時の彼らは、5分に一度のわりでポコポコ脱糞するという。

 それは是非観てみたい…と思っていたら、さすが5分に一度の頻度、わりとたやすく観ることができた。

 初夏頃になると、小さなチビターレがそこらじゅうに増えてくる。

 15mmほどの小さな小さなイシガキカエルウオ・チビターレ。

 チビチビもオトナもたいてい何かの上にチョコンと乗っているのは目にしても、ヒトスジギンポのように穴に入っている姿を長らく目にしなかった。

 そのため昔は、イシガキカエルウオは穴に入らないもの、とばかり思っていた。

 その後、彼らもフツーに穴に入るギンポであることを知ったとき、それまで目にすることができなかった理由がわかった。

 穴に入っているときの彼らは、たいてい顔の色がとっても黒くなっているのだ。

 これじゃあ、なかなか気づかなかったのも無理はない。

 こんなに黒くなっていると、なんだかアクビすら凶悪そうに見える。

 顔が黒くなっているのは、穴に入っている時だけではない。

 これはメスの気を引こうとホバリング泳ぎをしている興奮モードで、水温が高くなり始める頃から夏にかけてよく観られるから、婚姻色もしくは興奮色のはず。

 では、繁殖期はとっくに終わっている10月末の↓この体色は、いったい何?

 一瞬別種のギンポかと思ったほど異なる色合いだけど、よく観るとイシガキカエルウオだ。

 そろそろシーズンも終わる頃だから、お疲れ色とか?

 気分で体の色が変わる彼らは、穴に入っている時でも、顔の色を随時変えていく。

 以下は、約15分間のイシガキカエルウオの顔の変化の様子。

 色だけじゃなく、表情まで随分変化させていることがよくわかる。

 そしてシメはもちろん……

 大アクビ。

 このように、穴から顔を出しているイシガキカエルウオも相当楽しい。

 それでもやはり、外に出ている時のほうが、彼ら自身も楽しげに見える。

 まるでニコちゃんマークのようなご機嫌な顔が、いつも素敵なイシガキカエルウオなのだった。

 追記(2019年1月)

 岩場のポイントやインリーフなど、イバラカンザシをたくさんつけているハマサンゴ類が多いところでは、イシガキカエルウオはイバラカンザシにちょっかいを出す。

 サンゴの上にチョコンと乗っていることが多い彼らイシガキカエルウオたちは、大きなハマサンゴの群体を縄張りにしていることもあり、そこに咲き誇っているイバラカンザシにちょっかいを出すことを無常のヨロコビにしているのだ。

 上の写真では両者仲良さげに見えるけれど、イシガキカエルウオは相当ないじめっ子である。

 イシガキカエルウオはたしか藻食のはずなのに、ニセクロスジギンポのようにエサとしてイバラカンザシのエラを齧るのだろうか。

 観たところたしかにエラにもちょっかいを出しているようだけど、そもそもの動機はイバラカンザシの蓋に生えている藻なのでは?

 いや、ひょっとすると単に面白いからってだけかも…。

 実際、ニセクロスジギンポに襲撃されたイバラカンザシよりも、イシガキカエルウオにちょっかいを出されたイバラカンザシのほうが、再び穴から出てくるのが早い。

 さほどのダメージは被っていないのではなかろうか。

 さて、そうやってイシガキカエルウオ君が広い広いハマサンゴの上で好き放題していると、やがて他のイシガキカエルウオとかちあうことになる。 

 イバラカンザシはそこらじゅうにあるのだから、仲良くしていればよさそうなものなのに、男同士となるとそこは本能が許さないのだろうか。

 両者出会うやいなや、すぐさまバトル開始。

 どちらの動画も、手ブレはご容赦ください…。

 ニコちゃんマークのような顔をしていても、イシガキカエルウオ、やる時はやるのであった。