水納島の魚たち

キンギョハナダイ

全長 10cm

 いわずと知れた、ハナダイ界のポピュラー選手。

 あまりに普通にいすぎて人気の面では今一歩の感が否めないけれど、その圧倒的な群れの数といい、知名度といい、分布域の広さといい、ポピュラー度では他の追随を許さない。

 その広い分布域では海域によって微妙に体色が異なるので、同じキンギョハナダイでも、伊豆、沖縄、紅海、モルディブ、グレートバリアリーフなどなど、写真を撮り溜めればけっこう楽しいコレクションになる。

 ドロップオフのような地形の所では、リーフエッジに無数に群れ集う彼らではあるけれど、水納島では砂底に点在する根の周囲で群れているもののほうが多い。

 浅く、白い砂地に点在する根には明るい日が差し、そこで群れ泳ぐ彼らは一面の花吹雪のよう。

 ……だったのに、この10年の間にキンギョハナダイたちはその数をグーンと減らしてしまった(2018年1月現在)。

 毎年初夏〜夏には幼魚が増えるものの、その歩留まりというかなんというか、各根に残ってくれる率が低く、そのため昔に比べると、全体的に数が少なくなっている。

 残念ながら、もはや「花吹雪のような…」と言えなくなっているのだ。

 いったいどうしてしまったのだろうか。

 絶滅危惧種が絶滅することよりも、普通に見られたものがいつの間にかいなくなっているということのほうが、環境的にはよっぽど深刻な問題のような気がする今日この頃である。

 それでもまだまだキンギョハナダイは「普通種」と平気でいえるほどには数多く、小なりといえども群れを眺めることはできる。

 ご存知のとおりハナダイ類もまた雌雄で体色が異なり、オスが白っぽいのに対し、メスは鮮やかなオレンジ色。

 1匹のオスが複数のメスを統御するハレムが複数集まって群れを成すので、必然的にメスのほうが圧倒的に多い。

 そのため、キンギョハナダイといえばオレンジ、とイメージしている方も多いことだろう。

 もっと近づいて観てみると、メスはこんな感じ。

 産卵間近で、お腹が卵でパンパンに膨れているメス。

 ハナダイ類もまたメスからオスに性転換するため、群れているメスの数が多いところでは、オスの目が行き届かないのか、メスの中にはオスになりかけのものもいる。

 色はほぼメスながら、ピヨヨンと延びている背ビレなど姿形はほぼオスだ。

 行動を観ていてもメスに対してアピールしていたから、本人的にも生殖器官的にも、すでにオスになっているのかもしれない。

 キンギョハナダイのオスはその色彩もさることながら、この背ビレのピヨヨンで他のハナダイたちと容易に区別できる。

 なので、スレートに背ビレの絵を描いて、あれがキンギョハナダイのオスです…とゲストに指し示すのだけど、あいにくキンギョハナダイたちは常時背ビレを立てているわけではない。

 それもゲストに指し示す時に限って、そこらじゅうのオスが↓こういう状態になっていたりする。

 せっかく背ビレを立てている絵を描いたのに、ヒレを寝かせていたら意味ないじゃん……。

 キンギョハナダイたちは、水温が温かくなり始める梅雨時あたりから繁殖期に入るようで、日没前後のかなり海中が暗くなっている時間帯に産卵するのを一度目にしたことがある。

 その後無事に孵化した卵は浮遊生活を経たあと海底にたどり着くので、砂地の根のそこかしこで幼魚が観られるようになる。

 この時期、海底にたどり着いたばかりくらいの、チビチビチビターレのかわいいことといったら!

 アクビまで可愛い。

 そんな幼魚に注目してみると、なかには↓こういうものもいることに気づく。

 眼の下に、白い点が斜めに3つ並んでいる子がいるのだ。

 たまたまこの子だけというわけではなく、かといって他のすべてがこうなるわけでもなく、ときおり散見される程度ながら、点のあるものはすべてこの位置だから、何かの寄生虫というわけではなさそうだ。

 また、オレンジのチビチビが群れているところに1匹だけ、なぜだかレモンイエローのために浮いている子がいたこともある。

 これはモニターの加減とか、フルサイズのカメラじゃないために色の再現性が悪いとかではなく、海中で実際に見ても他のキンギョハナダイのチビよりも圧倒的に黄色かったもの。

 レモンイエローのハナダイのチビといえば、思い浮かぶのはスミレナガハナダイの幼魚だけど、スミレナガハナダイのチビは腹ビレが白いから容易に区別できる。

 三ツ星チビターレといい、レモンチビターレといい、すでに業界的に既知のことでしたらゴメンナサイ……。

 そんなナゾも孕みつつ、やがて幼魚がそこかしこで群れるようになる。

 中層を群れ泳ぐオトナや若者たちと異なり、幼魚はイソバナやヤギ、ウミシダなど綺麗系の付着生物に寄り添って群れるため、とても絵になる。

 これがもう少し水深が増すと、ケラマハナダイやカシワハナダイのチビチビも混じってくるから、初夏〜夏のサンゴの枝間は、キンダガーデンのようでとてもにぎやかになる。

 もっとも、幼魚が増えてうれしいのは我々ダイバーだけではなく、彼らをエサにしているものもまた、その恩恵に与っている。

 ホシゴンベの幼魚も……

 カスリヘビギンポも……

 幼魚が増える季節は、文字どおり降ってわいたボーナス御馳走に彼らが目の色を変える季節でもあるのだ。

 ハナダイ類がどこでも花吹雪のように群れている頃なら、自然環境的にこれら幼魚の犠牲者は、あくまでもコラテラルダメージ的なモノだった。

 でも1匹1匹の幼魚が貴重になりつつある今、このテの捕食圧もまた、やけに重大なダメージになっている気もするのだった