水納島の魚たち

キンセンイシモチ

全長 6cm

 テンジクダイの仲間は非常に種類数が多い。  

 多いうえに、「ギンポとカエルウオ」や「ハギとニザ」の関係と同じく、同じ仲間なのにファミリーネーム(?)が「テンジクダイ」に統一されておらず、種類によっては「〇〇イシモチ」という名になっているものもいるからややこしい。

 ちなみに、大昔までイシモチという和名がついていた魚は現在シログチという名になっているのだけれど、釣り人の世界でイシモチというと、今もなおフツーにこのシログチのことを指すようだ。

 そのイシモチ=シログチとテンジクダイ科の魚たちは、分類的にはまったく別の魚なのに、なぜだかテンジクダイ科の魚に「イシモチ」と付けられている。

 キンセンイシモチもそのひとつ。

 水納島では砂地の根やリーフ際などで、水深を問わずごくごくフツーに観ることができる。

 スカテンのように根を覆い尽くすほどではないものの、根の片隅でオトナが多数が集まっていることが多い。

 よく見るとその体は金色に輝き、ストライプ模様もなかなかに派手。

 けれど多くのダイバーにとってキンセンイシモチは、「目の端にとまる」程度の存在で終わっている。

 その「目の端」から真ん中に持ってくると、キンセンイシモチをはじめとするテンジクダイの仲間は、けっこう興味深い魚たちであることがわかる。

 なんといってもテンジクダイの仲間たちは、口の中で卵を育てる、いわゆる口内保育をすることで有名だ。

 卵を産み付けた場所を守り続けるくらいなら、いっそのこと口の中で保護してしまえという、よく考えるとかなりやけくそ気味の作戦である。

 口の中で卵を守るのは、テンジクダイの仲間の場合は種類を問わずパパの仕事だ。

 それまでテキトーに集まっているように見えたキンセンイシモチのオトナたちは、繁殖期がスタートする春先になると、いつの間にやら根のそこかしこで、仲睦まじいペアになっている。

 そろそろ産卵間近そうな大きなお腹を抱えたメスが、口内保育準備運動に余念がないオスに終始寄り添っていた。

 手前がメス。

 寄り添っているといっても、単に並んで泳いでいるんじゃなくて、左右を入れ替わりつつ、メスは腰のあたりをスリスリスリスリとオスのお腹に当てながら、いわくありげな動きをずっと繰り返している。

 テンジクダイ類のカップルは、メスがオスに求愛するのだ。

 オスはオスで、ときおりこういう顔をする。

 もうすでに口の中は卵で満杯!

 …であるかのような顔をしているのだけど、実際に口を開けてみると、

 何も入ってない。

 でもオスはしきりとこのアクビのような口の開閉運動を繰り返していた。

 これは、メスに対する卵受け入れ態勢がすっかり整っていることのアピールなのだろうか。

 それとも、来たる産卵に備えた保育準備運動なんだろうか。

 あまりにも頻度高く連発するからだろうか、本来口の準備など必要が無いはずのメスも、オスが口を開けた後、間髪を入れず口を開けた。

 まるでアクビが伝染したかのようなこの動き、ひょっとして産卵前のキンセンイシモチ版ラマーズ法とか??

 キンセンイシモチたちは、日中ずっとこのような求愛をし続けたあと、夕刻になっていよいよ産卵が始まるという。

 メスが産んだ卵塊を、オスがその口にボイッと入れるその様子、是非観てみたい…。

 残念ながら産卵の瞬間はいまだ観たことがないけれど、繁殖シーズンなら、オスの口の中に卵が入っている様子はほぼいつでも観ることができる。

 卵で一杯になっているオスの口は、ひと目でそれとわかるくらいにパンパンに膨らんでいる。

 上の写真では右がオス。

 他のテンジクダイの仲間たち同様キンセンイシモチも、満杯の卵をとりまく水が淀んでしまわないよう、ときおり口を大きく開けて水を通すとともに、卵塊をフゴフゴ動かす。

 実際に計ってみたことはないものの、感覚的には5分に1度くらいのペースでフゴフゴしているから、しばらく眺めていれば、卵をじっくり拝むことができる。

 産みたての卵はこんな感じ。

 クローズアップすると……

 まるでイクラのよう!

 ただしこの色味は使っているストロボとカメラの加減かもしれず、別のセットで撮ったらもっとアッサリした色だった。

 クローズアップすると…

 この産みたて卵の発生が進むと…

 卵の色はすっかり変わっている。

 この段階の卵をクローズアップしてみると……

 卵のお目目がキラキラ〜♪

 繁殖シーズン真っ盛りになると、同じ時に潜っても個体ごとに発生段階が異なる卵を保育していることが多くなるのに対し、繁殖シーズン開幕当初だと、よーいドン!の合図が同じだからか、どこで観てもほぼ同じ段階の卵を保育している。

 なので、繁殖シーズン開幕時だったら、別個体で見比べても、卵の発育スピードがだいたいわかる。

 シーズン最初の口内保育開始の際には↓このようだった産みたて卵は…

 …それから1週間経った頃、別個体の口の中を観てみると、↓このようになっていた。

 5月の水温なら、産みたて卵はだいたい1週間でお目目キラキラ状態になるようだ。

 オスが卵を口内保育している間もそばに寄り添っていることが多いメスは、他のメスが伴侶に近づかないようにしているフシがある。

 しかし、スカシテンジクダイの稿で紹介したとおり、四六時中プレデターの脅威にさらされている小魚たちだから、時としてペア形成中に伴侶が不慮の死を遂げることがあるのかもしれない。

 そういうケースなのだろうか、いつになく息が合っていないキンセンイシモチのペアがいた。

 こうして写真だけ見ると、先に紹介したような、産卵間近の大きなお腹を抱えたメスと卵保育係であるオスの仲睦まじいカップルという雰囲気に見える。

 ところが実際のこの2人は、寄り添ってくるメスをオスが頑なに拒絶しまくっていたのだ。

 よく見るとすでにオスの口の中には卵が多少入っているようで、オスとしてはもうこれ以上無理です…と言いたいのだろうか。

 でも、逃げても逃げてもメスが寄り添ってくるから、ついに彼の堪忍袋の緒が切れてしまった。

 イクメンパパ、心の叫び。

 さて、イクメンパパの努力の甲斐もあって世に生まれ出たキンセンイシモチのチビターレは、拠り所になるサンゴやウミシダ、イソギンチャクなど他の生き物の周りに群れ集うようになる。

 

 姿を現し始めたチビチビは↓こんな感じ。

 これくらい小さいのが多数集まっていると、クラシカルな肉眼ではパッと見スカテンのチビかと錯覚しかけるほど。

 でももう少し育つと…

 キンセンイシモチっぽくなってくる。

 さらに育つと……

 これくらいになると、枝サンゴの上で見応えのある涼やかな群れを見せてくれるようになっている。

 これすべてキンセンイシモチのチビ。

 キンセンイシモチも、やる時はやるのだ。

 そんな子孫繁栄のために、イクメンパパは今日も頑張る。

 キンセンイシモチの口内保育は、冬場は観られません。