水納島の魚たち

コバンハゼ

全長 3cm

 サンゴの枝間に暮らすコバンハゼの仲間たちは、同じくサンゴの枝間を住まいとするダルマハゼの仲間たちがけっして住むことがないミドリイシ類のサンゴを住処にしている。

 そうは言っても似たようなハゼのこと、ダルマハゼなのやらコバンハゼなのやら、さっぱりわからん…

 そんな方でも心配御無用。

 横から観るとダルマハゼの仲間たちと似たような体つきをしているように見えるコバンハゼたちながら、ダルマハゼに比べると随分平べったい。

 これさえ押さえておけば、「えーと…ダルマハゼだったっけ、コバンハゼだったっけ…」と悩むことはもうない(サンゴハゼと名前についているものもコバンハゼの仲間です)。

 98年の白化によるリーフ上のサンゴ壊滅後、住処を失ったコバンハゼたちはたちまち消失し、長い間「珍」も「珍」のレアな魚になってしまっていたという歴史がある。

 その後長い年月を経てリーフのサンゴが復活してくれたおかげで、コバンハゼはリーフ内からリーフエッジ付近にかけてフツーに観られ、ボートダイビングなら安全停止を兼ねてリーフ際にいるときなどに必ず観ることができるハゼでもある。

 ただ、浅いところでいつでも会えるのはありがたいものの、よく見ると目元やエラのあたりのブルーのラインが美しいとはいってもとりたててカラフルというわけではなく、というかむしろ真っ黒クロスケなので注目度は限りなくゼロに近く、これまで「コバンハゼが見たい!」というヒトに会ったことはない。

 かくいうワタシもさほど普段は気に留めていなかった。

 ところが近年になってサンゴの復活とともにコバンハゼの個体数も増えてきたからだろうか、彼らの活動範囲が実は枝間だけにとどまらず、わりと開けたところにもヒョコヒョコと出歩いていることに気がついた。

 普段は枝状ミドリイシ類の枝間にいるのに、まるで公園で午後の散歩をするバカボンパパのように、住処の枝状サンゴに隣接しているテーブル状サンゴの上でヒョコヒョコしているのだ。

 たまにじっくり観ようと近づけば、すぐさまサンゴの枝間に隠れてなかなか全身を見せてくれないコバンハゼだというのに、水槽写真ですか?てなくらいの無防備状態。

 ちなみにこの時の様子を、もう少し視野を広げて眺めるとこんな感じ。

 ワタシがこちら側にいるので住処からこの程度しか離れていないけど、もっと遠くから見ていると、さらにこちら側まで出張って平気でヒョコヒョコしていた。

 リーフエッジだから他の魚は多く、このような小魚をゲットするものもウロウロしているだろうに、わざわざ身を危険にさらして彼(彼女?)はいったい何をしているのだろう……

 …ということが気になり始めて数年、ようやく今年(2020年)になってその様子を拝見することができた。

 ただテーブル状サンゴの上でヒョコヒョコしているだけかと思いきや、じっくり腰を据えて観てみると、実はちゃんと目的があることを知った。

 ヒョコヒョコ遠出(?)している彼らは、ときおりテーブル状サンゴの短い枝間を覗いては……

 何かをゲットしているらしいのだ。

 一連の動きは一瞬の早ワザ。

 このテのハゼといえば、住処のサンゴの粘液を栄養源にしている、というような話を聞いたことがあるけれど、それだったら住処の枝状サンゴの枝にいるままで事は済むはず↓。

 ところがわざわざテーブル状サンゴの上で身を晒してまで何かを食べているということは、枝状サンゴよりも枝が密集しているテーブル状サンゴならではの、こういうところに潜むモノを食べているということに違いない。

 コバンハゼのバカボンパパ風ののどかな散歩は、実はお食事タイムだったのである。

 後刻、名著「日本のハセ」のコバンハゼの稿をチェックしてみると…

 「枝サンゴとテーブルサンゴが混在するところで(中略)見られる」

 と記述されているではないか。

 さすが名著の慧眼。

 図鑑のその部分の記述はこれまでなにげにスルーしてしまっていたけれど、記述の意味をようやく知った気がする。

 途中追記(2023年1月)

 コバンハゼのお散歩の様子を昨年(2022年)動画で撮ることができた。

 このようにワラワラ…と出てくるコバンハゼたち。

 エサ場をめぐり、互いに牽制しあっている様子が見えるけれど、これは同種だけが対象ではないらしい。

 ヤリカタギに対して果敢にアタックするコバンハゼ。

 ナリは小さくとも、ちゃんと縄張りを主張しながら暮らしているのだ。

 散歩をしている時以外は、枝状ミドリイシの枝でチロチロしているコバンハゼたちは、パンダダルマハゼなどと違い、枝間が広いというか大雑把というか、それほど密ではないサンゴを住処にしているので、枝間にいるときでも観察はしやすい。

 それがチビチビチビターレであろうものなら……

 枝状ミドリイシの枝間でさえ、スペシャルスイートルーム級の広さになる。

 でまたこのチビターレの可愛いこと。

 こんな1cmにも満たない激チビと比べれば、たとえ3cmちょいほどといえどもマックスサイズのオトナは超巨大に見える。

 なかにはホントに超巨大なオトナもいる。

 枝の太さは激チビが乗っているサンゴとほぼ変わらないから、相当でっかいオトナであることがわかる。

 パッと見5cmは超えているように見え、それが隣接しているテーブルサンゴの上に出張ってくるものだから、存在感たっぷり。

 上の写真の子は、巨匠コスゲさんですら思わずカメラを向けたほどにどでかいマックスコバン君だ。

 激チビからジャンボマックスまでいろいろいても、地味であるがゆえに注目されることは滅多にないコバンハゼ。

 でもテーブル上でヒョコヒョコする様子はけっこう可愛いから、安全停止中にでも是非ご覧くださいませ。

 もちろん、枝状とテーブル状のミドリイシが隣接しているところが狙い目です。