水納島の魚たち

クマドリカエルアンコウ

全長 10cm(写真は3cmほどの幼魚)

 カエルアンコウの仲間たちは、同じ種類内の色の変異が多すぎるせいで、色柄による種類の判別が難しい。

 でもクマドリカエルアンコウは、他と比べて色柄形でわりと容易に区別できる。

 幼魚の頃は特に、その名の意味が分かりやすい。

 色柄だけではなく、その動きも他のカエルアンコウと比べると独特のものがある。

 ある日カメラを持って砂地の根で遊んでいたら、眼前をヒラヒラとヒラムシが動いているのが見えた。

 フムフム、なかなかきれいなヒラムシであるな…

 と思いつつ、撮るでもなくそのまま眺めてみると、なんとなんと、それはヒラムシではなくカエルアンコウではないか!

 クマドリカエルアンコウはそれまでにも何度か見かけたことがあったものの、この砂糖菓子のような純白&真紅バージョン(以下略して紅白)のチビを見るのはこのときが初めてのことだった。

 しかも驚いたことに、彼らはヒラムシに擬態していた!!

 ………って、ヒラムシと勘違いする海中(滞在中)生物はワタシだけかもしれないけど。

 ともかく初紅白チビクマドリである。

 再見の機会は永遠にやってこないかもしれないのだから、このチャンスを逃すわけにはいかない。

 息を潜め、慎重に慎重にパシパシ撮っていると……

 なんということだ、クマドリチビちゃんはジャンプ一番、ジェット噴射で丘を越えた!

 カエルアンコウ類が脇にある鰓の噴水孔をジェット噴射のようにして推進力に使うということは知っていたし、実際砂地を歩いているオオモンカエルアンコウなどは、動きの割にはそのジェット噴射装置のために進む速度が速い。

 しかしこのときのクマドリチビゾーは、手のようなヒレなど一切使わず、ジェット水流だけで

 プヨプヨプヨプヨプヨ………

 と飛んだのだ。

 その距離わずか数十cmとはいえ、あまりのかわいさにしばし見とれてしまった。

 紅白チビチビは、もう少し成長して5cmオーバーくらいになると↓こんな感じになる(同一個体ではありません)。

 白い部分はほぼそのままながら、隈取り模様部分の色がより擬態に適した雰囲気になってくる。

 さらに成長すると、色柄には様々な個体差があるのかもしれないけれど、10cm弱くらいのオトナになると、こんな感じになる。

 紅白隈取り模様のチビターレ時代に比べればまったく別モノ的イメージながら、それでも模様の配置などには幼魚の面影がある。

 一方、同サイズのオトナには、こういうタイプもいる。

 これを撮ったのは2015年の6月のことで、そのひと月前にはまったく同じ場所でこんなタイプに出会っていた。

 そもそも水納島ではクマドリカエルアンコウにそうそう出会えないというのに、まったく同じ場所でひと月違いで出会ったこの両者、基本的に直観的短絡思考が得意なワタシは、即座に同一個体と認定(当時はイロカエルアンコウだと思ってたんですが…)。

 黒かった頃にはいろいろ遊んでくれて、クマノミが見つめる前で、得意のプヨプヨプイイ〜ンジェット飛行も見せてくれたし……

 拡散波動砲級のアクビも披露してくれた。

 それにしても、隈取り模様に面影はあるとはいえ、紅白チビターレに比べるとあまりにも違いがありすぎるこの黒タイプ。

 実は。

 クマドリカエルアンコウのチビには、別のタイプもいるのだ。

 黒地にオレンジの点々タイプ、略して黒オーレ。

 これで25mmほどで、もう少し成長すると、オトナ模様の片鱗が見えてくるようだ。

 緑色のオトナに変身する前の黒い若者をよく見ると、このオレンジの点々模様の名残りがある。

 それくらいの若者になるとあまり目立たなくなるけれど、3cmくらいまでのチビターレは、一番前の背ビレがやけに長い。

 這いずって動く際にこの長い角のような背ビレを意味ありげにヒーコヒーコ動かしながら、それに合わせて後ろの広い背ビレをユラユラさせるため、ヒラムシかなにか別の生き物に見えてしまうほど。

 ヒラムシ擬態説もまんざら大袈裟な話ではないのだ。

 この黒オーレタイプのチビターレ、もっと小さい頃はこんな感じ。

 左隅の肌色部分は撮影者であるオタマサの人差し指だから、黒オーレチビターレは12mmくらいだろうか。

 伊豆あたりではこれよりもさらに小さな紅白(紅というよりオレンジ)のチビターレがちょくちょく観られるようで、これがまためっぽうカワイイ。

 黒オーレチビターレがいるくらいなんだから、きっと紅白チビーレもどこかにいるはず。

 でも。

 是非是非出会いたいのはやまやまながら、目を皿のようにしても、クラシカルアイではもはやどうにもならないかもしれない……。