水納島の魚たち

ムラサメモンガラ

全長 25cm

 シーズン中、ビーチで海水浴客が

 「あー!魚に噛まれた!!」

 と、まるで巨大人喰いザメに襲われたかのように騒いでいれば、その犯人はたいていコイツである。

 英名ではピカソトリガーフィッシュと呼ばれるムラサメモンガラは、「ピカソ」の名が示すとおり、かなり斬新かつ前衛アート的大胆な模様に彩られている(トリガーフィッシュというのは、モンガラ類の総称です)。

 一方で和名のムラサメは、おそらくは村雨、すなわち驟雨、スコール、にわか雨といった一時的に強く降る雨を表す和語。

 その体に斜めに走るラインが、広重描くところの浮世絵に見られる雨のようだからだろうか。

 …って、実は村雨さんという方への献名だったりして。

 村雨であれピカソであれ、とにかく派手派手仮面のムラサメモンガラ。 

 彼らはリーフの外にはおらず、リーフの内側を暮らしの場にしているから、水納島の場合通常のボートダイビングではまず目にすることはできない。

 そのかわり海水浴場では、ごくごくフツーに観られる。

 カラフルだし面白い形だし、南国トロピカル光線出しまくりだから、海水浴客にもお馴染みの魚だ。

 もっとも、派手なわりにはかなり警戒心が強く、近づくとピューッと泳ぎ去ることのほうが多いムラサメモンガラ。

 それが繁殖期になると、彼らの性格はガラリと変わる。

 その顔つきからして、傲岸不遜になる。

 なにせモンガラ類だから、ひとたび繁殖期を迎えるや、近づくものはすべて敵。

 たとえ自分より遥かに大きな相手であっても果敢に追い払う彼らのこと、初夏から夏場のムラサメモンガラも相当気が立っていて、縄張り内に近寄るものは、たとえそれが人間であろうと容赦しない。

 上の動画はまだ5月半ば過ぎくらいの頃のこと。

 水温がさほど上がっていないこの季節からこれほど好戦的なのだから、海水浴シーズンに彼らの縄張りで遊ぶだなんて、飛んで火にいる夏の虫であることは言うを俟たない。

 本気で噛まれれば出血するくらいだから、海水浴中に彼に襲われたくなかったら、平泳ぎよりもクロールで泳ぐことをおすすめいたします…。

 追記(2019年9月)

 ムラサメモンガラは、幼魚時代もインリーフで過ごす。

 ただしその姿が頻度高く観られるようになるのは盛夏以降のことのようで、毎年お盆にビーチを潜り倒す巨匠コスゲさんにはお馴染みのチビだそうだ。

 一方、その時期になるとなかなかインリーフでカメラを持って遊んでいられなくなる我々にとっては、出会う機会が少ないかなりレアなチビターレ。

 そんなムラサメモンガラのチビターレが、なんと桟橋に停めているうちのボートのすぐ下にいた!

 ボートの下、それもラダーの真下となれば、ゲストが桟橋に降りてくる間の待ち時間でも証拠写真くらいは撮れる。

 おかげで、繁殖期の猛々しいオトナからは想像もできない可憐なチビの姿を、初めて記録に残すことができたのだった。

 追記(2021年10月)

 浅いところでチョロチョロチラホラしているムラサメモンガラ・チビターレだから、朝の陽ざしが降り注いでいるときなら…

 …レインボー!

 追記(2022年12月)

 チビターレは、前から見てもプリティベイビー♪